生命三十六億年(16) 古第三紀

○今回ご紹介する時代(赤色部分)

累代
開始年代
顕生代 新生代 第四紀 完新世       1万1700年前〜
      更新世     258万年前〜〜
    新第三紀 鮮新世     533万年前〜
      中新世    2303万年前〜
    古第三紀 漸新世    3390万年前〜
    始新世    5580万年前〜
    暁新世    6550万年前〜

○古第三紀とは

 かつてこの時代は第三紀の前半部分という位置づけでした。名前の由来は簡単で、三番目の時代という意味です。しかし、この区分は近年廃止され、PaleogeneとNeogeneの二つの時代に分割されました。日本では今のところ、旧来の呼び方を元に、古第三紀新第三紀と呼んでいます。

 第三紀は、地質学者ジョヴァンニ・アルドゥイノが18世紀に提唱した時代区分です。
 彼は北イタリアの地層から、地球の年代を三つに区分しました。現在と無理やり合わせて紹介すると以下のようになります

 ・化石の出ない地層の示す第一紀・・・先カンブリア時代。ただしネーミングの元になった地層は実は古生代と解っている。
 ・不完全な生物のいた第二紀・・・古生代、中生代
 ・現代的な第三紀・・・第三紀

 さらにこれに、人間の時代である第四紀が加わります。これらの時代区分のうち、第一紀や第二紀はその示す時代が広すぎることがわかり、今のより洗練された時代区分に取って代わられます。

 なお、彼の主張ではありませんが、当時のキリスト教的世界観では、第一紀はノアの洪水の起こる前、ノアの洪水が起こったのは第二紀であるという当てはめもされています。

○古代三紀の気候

 白亜紀の末に(おそらく隕石の衝突の影響でしょう)一時的に寒冷化した気候は、暁新世の後期から始新世にかけて急激に温暖化が進み、全体的には温暖な熱帯から亜熱帯気候が世界中を占め、気温は20〜25度で一定。ちなみに、イギリスのロンドンなども熱帯雨林のような状態だったようです。

 しかしそれも長くは続かず、やがて漸新世になると寒冷化することになります。

○古第三紀の動物〜現世動物の祖先たち〜

 恐竜の時代も終わり、いよいよ我らが哺乳類が急速に多様化し、現代の動物相に近づいてきます。
 まず、現代も生き残っている陸上動物たちの祖先は、こんなグループです。

 ・食肉類(ネコ、イヌ、クマ、アシカの祖先をはじめ、現世大型肉食動物の祖先)
 ・クジラ類
 ・げっ歯類(例えばネズミの祖先)
 ・偶蹄類(例えばウシ、ラクダなどの祖先)
 ・奇蹄類(例えばウマ類)
 ・バク類
 ・サイ類
 ・ウサギ類
 ・長鼻類(ゾウ)
 ・海牛類
 ・・・など、要するにほぼ全ての哺乳類の、直接的な祖先が出揃います。

 それから鳥類は、白亜紀末の大絶滅を生き残ったものたちが、より現代的な姿へと進化し、特にスズメ類、オウム類、キツツキ類などが充実してきました。空を飛ぶ動物といえば、これとは別に最初のコウモリ類や、現世の蛾や蝶の祖先も現れています。


ポプロフォネウス (国立科学博物館にて)
始新世後期から漸新世前期の北アメリカに生息。以前はネコ科に分類されていたこともあり、雰囲気は良く似ています。
現在はポプロフォネウス科という独立した科に分類されています。


メソヒップス (国立科学博物館にて)
奇蹄類の中でも初期に登場したウマ類。その起源は約5500万年前に遡ります。
メソヒップスは、その中でも最初の頃のウマ類で、木の葉を食べていたようです。


ロフィアレテス (国立科学博物館にて)
ウマ類と同じく、奇蹄類の中でも初期に登場したバク類。始新世には大きく栄えますが、その後衰退していきします。
ロフィアレテスは、始新世後期のバク類で、比較的ほっそりとした体型が特徴です。

メリテリウム (国立科学博物館にて)
長鼻類に属し、ゾウの祖先に近い仲間。始新世後期〜漸新世前期のアフリカに生息しました。

インドリコテリウム (国立科学博物館にて)
奇蹄類の1種で、サイ類に近縁のヒラトゴン類に属します。陸上哺乳類最大の動物、パラケラトリウムとも言います。
体長7.5m、肩の高さまでも4.5mと超大型!

ノタルトゥス (国立科学博物館にて)
白亜紀末期に入って登場した原始的な霊長類は、この時代から繁栄を始めます。
ノタルトゥスは、始新世初期に登場した現生の原猿類の祖先であるアダピス科の1種で、 北アメリカに分布しました。

プレジアダピス (国立科学博物館にて)
プレジアダピスは、やや大型の霊長類で、暁新世後期のヨーロッパから北アメリカに棲息しました。

チャンプソサウルス・ネタトル (国立科学博物館にて)
生き残った主竜類てかワニの近縁。白亜紀後期〜暁新世にかけて棲息しました。 

プロトプテルム(ペンギンモドキ) (我孫子市鳥の博物館にて)
漸新世末期〜中新世初期にかけて北半球の太平洋沿岸に棲息した鵜(ウ)に近縁のペリカン目の鳥。 
 また、海中ではクジラ類が陸から海中へと生息環境を変えていき、二枚貝類が多様化したほか、ロブスターやカニが多数出現しています。


ペゾシレン・ポーテリ (国立科学博物館にて)
始新世前期〜中期の海牛類。 


パキケトゥス・アトッキ (国立科学博物館にて)
 始新世前期のパキスタン〜インド西部の湖や川にいた鯨偶蹄類。この当時、鯨はまだ陸上にいました。 

バシロサウルス・ケトイデス (国立科学博物館にて)
始新世後期の鯨偶蹄類。バシロサウルスは、古代のクジラで、このグループはテチス海に棲息しています。 

ノトゴヌス・オスクルス (北九州市立 いのちのたび博物館にて)
始新世に棲息したネズミギス科の魚類。

ミオプロサス (北九州市立 いのちのたび博物館にて)
始新世に棲息したパーチ科の魚類。

○古第三紀の動物〜現代には生き残っていないグループ〜

 その一方で、現代には生き残っていない様々なグループもいました。


ディアトリマ (我孫子市鳥の博物館にて)
暁新世から始新世にかけて繁栄した恐鳥類の一種。翼は退化しています。
体高2m、体重は200kgから大きいもので500kgと巨大な鳥です。

 例えば鳥類では、恐鳥類と呼ばれるグループが始新世前期から中期まで繁栄していました。上写真のディアトリマに代表される二足歩行の肉食鳥類です。当時の食物連鎖の頂点に立っていましたが南米以外では衰退し、その立ち位置は哺乳類に取って代わられることになります。

 哺乳類では食肉類とは別に、肉歯類と呼ばれる肉食動物と、様々な大型の草食動物が繁栄していました。


ヒエノドン (国立科学博物館にて)
始新世中期〜漸新世後期の北アメリカに棲息。

 肉歯類(上写真)は、食肉類に取って代わられるまで世界の主要な肉食動物で古第三紀末斬新世に絶滅します。食肉類と見た目は似通っています。



ウインタテリウム (国立科学博物館にて)

 恐角類(上写真)は、サイのような姿と頭の角が特徴的な大型哺乳類でしたが、始新世中期に絶滅してしまいます。


アルシノイテリウム (国立科学博物館にて)
始新世後期の北アフリカに棲息。

 重脚類(上写真)は、ゾウに近縁ですが直接の祖先はよく解っておらず、この時代に絶滅しています。

 ブロントテリウム類は、馬のような形態からサイのような形まで様々な姿のものが存在していました。斬新世初期に絶滅します。ほかにも現在には存在しない様々なグループの哺乳類がこの時代は登場していました。


インドリコテリウム (国立科学博物館にて)

 その他、体長3.7m、体重250kgという最大級の肉食哺乳類アンドリューサルクス(メソニクス類に分類)が登場したのもこの時代で、ほかにも下写真のようなグループの動物もいました。


ベラマムダ (国立科学博物館にて)
植物食哺乳類のグループの1つである汎歯目。北アメリカとアジアで繁栄します。
ベラマムダは暁新世前期、現在の中国周辺に分布していました。


エルナノドン (国立科学博物館にて)
キモレステス目に属する哺乳類。暁新世後期、中国に分布していました。外見上はナマケモノに良く似ています。
 

○古第三紀の植物

 古第三紀は、大型の被子植物の木が密集する閉鎖林が発達。最初に紹介したとおり、イギリスでも熱帯気候のため、熱帯雨林が生い茂り、ロンドン粘土層からはマングローブなども見つかっています。また、シダ類、アケボノスギなどの針葉樹が発達し、イネ科植物を含む原生単子葉類が繁栄したのもこの頃です。

 また、ハチやガなど花粉を運ぶ昆虫がそれまでの時代よりも一般的になり、被子植物と昆虫の共生関係が広がっていきます。


シュロ類 (国立科学博物館にて)
古第三紀の被子植物の1種。

スズカケノキ類 (国立科学博物館にて)
古第三紀の被子植物の1種。

○古第三紀の大陸


 古第三紀では、殆ど現代の大陸の配置が出来つつあります。アフリカとヨーロッパが近づき、テチス海は小さくなり、地中海の前身となります。南アメリカはこの時代は北アメリカと分離しており、独自の生態系が作られていたようです。

 また、インドはアフリカを離れて、いよいよアジアに接近しています。アジアが押しつぶされる形となり、ついにヒマラヤ山脈の形成が始まります。また、インドに押されてアジアの南東はクの字型に変形し、現在のインドシナ半島とマレー半島が突き出される形で、形成されていきます。


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