伝えるべき事は何か〜鳥と恐竜の関係研究から

○はじめに

 8月がすぎた。大学はまだ休みである。新しい学期が高校では始まって、男はどうしようかと考えているわけである。やることは……ある。これからしばらくすると、私は一クラス40名程度の、大人と子供の両面が都合よく使われてしまう集団に教えなくてはならない。責任を持てるようでもてないような40名は、教える内容をそのまま受け入れてしまうだろう。彼らがどんなに賢くともだ。

 なぜなら、彼ら自身が多くの時間を省かない限り、彼らの持つ知識は私の教えたものだけになるからである。責任重大だ。だが……、残念ながら、私がどうがんばったところで彼らに公平な話をすることはできないと思っている。理由はいたって単純だ。彼らに教えるのは事実といわれる「定説」である。それに対して、本当にあるのは「ideas」だからだ。

 
 君の今日の食卓には何が並んでいただろう?
 まずご飯に味噌汁、和風ならば漬物が入ると贅沢だろうか?赤い食べ物、肉類は何を選んだ?結構な人々が豚肉や牛肉を挙げるかもしれない。今や、絶対量の多い魚よりも少ない、牛肉の方がメジャーになってしまったようだ。で、ある程度の人が鶏肉と答えてくれることを私は期待している。今回の話の前半は、我々の食べているこの「から揚げ」は何の子孫のから揚げであるのか、ということである。高校の教科書では、これは「恐竜の子孫のから揚げ」となっているのだが・・・。


1.発見された化石は何か?

 ドイツで妙な化石が見つかった時、大きな話題を呼んだ。
 それの保存状態がもしよくなければ、それはきっと小型の爬虫類であるとされて終わるのみだったろう。しかし、それらに羽毛の跡がついていたことで、それについての解釈は一気に変わる。様々な人物が頭を悩ました。そしてその結果、彼らはそれを、鳥の化石であると見抜いたのだ。人類のどうでもよい幸運を多いにたたえるとしよう。何しろ鳥の化石といったら、もろい中空の骨(飛ぶための軽量化)がある上に、証拠となる羽毛は骨が無くて残らないと着ているのだから。突然倒れた男の、髪の毛一本一本の印象が一億4500万年後の岩石中に残る可能性を考えてほしい。それだって、始祖鳥の羽毛の印象が化石として残るよりはまだ可能性があるだろう!なにしろ、人間と始祖鳥では個体数が違うと考えられるのだ。

 こうして一つの仮説が生まれた。いわく、鳥は爬虫類から進化した。これは一つの定説であった。現在でも、少し古い本を開いてみるといい。きっとそこには、鳥の祖先として名も知らないような木の上の爬虫類の学名が乗っているはずだ。これは大変つじつまのあう話である。翼は飛行器官である。それであれば、普段から木から木へと飛び移る動物たちにそんな器官が生まれれば有利な器官となる。きっと、自然淘汰の過程で翼を持った爬虫類が生まれ出でたに違いない!

 これは極めて妥当な考えである。無理もない。恐竜の時代の前には、皮を伸ばしたりなんらかの方法で滑空するための器官を発達させた動物たちがたくさん見つかっている。いちど、ネットでロンギスクアマという小さな樹上爬虫類を検索してほしい。こいつはパラシュートをもった爬虫類である。

2.進化

 しかし、私はこの樹上生物が鳥の祖先とする仮説に対して、一つの偏見があることを告発しなければならない。それは「進化の過程において自然淘汰が、動物にとって必要とする器官を選択する」、という偏見である。だが実際には進化とは、もっとフレキシブルなものだ。

 「翼を作るには羽毛が必要である。しかし、これが初めから飛行器官だと考える必要がどこにある?」
 こんなことを唱える連中が現れた。彼ら曰く、「羽毛は断熱材の役割をもつ」。彼らは羽毛さえ発達すれば、必ずしも樹上の生物が鳥の祖先でなくてもいいのではと考え始めた。断熱材として進化した羽毛が、やがて翼へと転用されたというのだ。ここに進化についての一つの考え方がある。「個体の生存にとってどうでもいい変化が進化の原動力となる」。

 断熱材として体に羽毛を生やした陸生の二本足の動物がいたとしよう。草原や林の中を歩いたり疾走するこのような動物たちにとって、翼があってもなくてもどうでもいいことだ。なぜかって?考えてごらん。せいぜい、ジャンプに役立つのがうれしい程度だが腕はまあ使えなくなる。プラスマイナスゼロ。まあトータルで不利益にはなっていないのだから、個体もしっかりと子孫を残すことができる。こんな陸上製爬虫類がやがて体を軽くして飛び上がったのではないか?彼らはそう考えた。

 羽毛で体を保温していた動物が、翼をもってやがて鳥に進化したのではないか?そんな考えがでてきても確かに矛盾はない。そしてそんな陸上動物たちが実際にいたのである。恐竜だ。こいつらの存在に気がついたときにこの考えが生まれた。そして現在ではしっかり教科書に載るまでになっている。

 進化というのは実に良いいい加減さをもつ。もう一度言うが、フレキシブルさだ。
 この例は、「耳の骨」を考えると紹介できるのだが、それは是非次に紹介するとしよう。

 さて、妙に折りたたんだ腕を発達させた恐竜がいる。鳥の羽みたいだ。羽毛を生やした恐竜がいる。鳥みだいだ。しかも中国から新しい鳥見たいな恐竜が続々発見されてくる。これはもう間違いない。こうして新しいこのideaは定説となった。曰く、鳥は恐竜の子孫である。恐竜といってもいいかも知れない。故に君の皿にのっているから揚げは、恐竜のから揚げといえるかもしれない。

3.さらに出てくる反論

 まてまてまて!
 どうしてそう決め付ける?恐竜と鳥が似ていたら、鳥は恐竜の祖先になるのか?

 こんな疑問が二手からあがっている。一つははじめの、樹上性爬虫類を鳥類の祖先とするお方々である。彼らはこう主張する。なぜ他人の空似(そらに)だと考えないの?羽は鳥類とその先祖だけのもの?似た環境に住めば似た形になるという収斂進化の例は枚挙が無いじゃないの。イルカと魚をみてごらん。そっくりじゃない。恐竜の時代にだって魚そっくりな爬虫類、魚竜がいたじゃないの。細かくみるとねえ、鳥と恐竜は違うんだよ。それよりやっぱり樹上の爬虫類から鳥が生まれたほうがいかにもって感じがするでしょ。

 それに対して恐竜=鳥の先祖説をとる人々はこう答える。じゃあ、この鳥と恐竜の共通点をごらん?この独特の翼のようなう腕の畳方、胸の上の鎖骨という骨の形、全体の形。み〜んな似ているよ。イルカと魚は骨格が良く見ると違うじゃない。でも、恐竜と鳥は細かいところも似ているんだよ。この両者の勝負は、後者側に有利に傾きつつ、今もなお、続いている。

 もうひとつ、妙なことを言い出すやつも現れた。恐竜と鳥は関係ある。間違いないね。でも、なんで恐竜が鳥の祖先だって言えるわけ?逆だってありえるじゃない。現に立証されてないけど、鳥の化石は鳥型恐竜より先に見つかっているよ?これは、鳥・もしくは鳥の祖先が鳥型恐竜の祖先だってことじゃない?

 この仮説はまだあまり支持されてはいない。しかし、未来はわからない。なぜなら定説は議論の途中の有力な「idea」にすぎないのだから。学校で習うのは定説。つまり、今有名なだけの「idea」。教科書には、決まりきったことを書いているわけではない。この基本的な教育に載せる知識すら、十分とはいえない。

 さて、君は君の皿の上のから揚げをどういうのだろう?
 恐竜のから揚げ?
 パラシュートを持った爬虫類の祖先のもの? それとも……、恐竜のご先祖さまのから揚げ?

 まだ、誰も絶対的な真実を知らない。

 ※恐竜のから揚げ……ときどき恐竜の本に載っているジョーク。学会で実際そんな質問があったらしい。同類に「フライドダイノ」が存在する。

(執筆:馬藤永徳)


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