初めまして、こんにちは。ドイツ語の解説をさせていただく、相良義陽です。入門編としてアルファベットの読み方や挨拶から、ドイツ語の文を辞書片手に読めるところまで行きたいなと思っております。今のところ毎週一回で全二十六回、つまり半年で終わりの予定です。よろしくおつきあい下さい。
ドイツ語は、もちろん英語ほどではありませんが、日本ではかなりメジャーな外国語の1つでしょう。歴史的に広大な植民地を所有した経験はありませんから、英語やフランス語、スペイン語等々ほど話者がいるわけではありませんが、東中欧を中心に結構通じるようです。また、科学や音楽など、ドイツの影響力が無視できない分野もたくさんあります(さすがに昨今のお医者さんはカルテをドイツ語で書いたりはしないようですけど)。なによりも、明治維新以降の日本はドイツをお手本に近代化を推し進めたのでした。
そんな事情から、大学では第二外国語としてドイツ語が選択できることがほとんどです。同様に第二外国語として選択可能なフランス語とどちらが簡単か、ということをよく訊かれるんですが、これはその人の性格次第でしょう。私はフランス語はほとんど出来ないのであまり当てにはなりませんけど、一般には、ドイツ語は変化形を覚えるのが面倒だけど覚えてしまえば読むのが楽、フランス語は文字の読み方が面倒だけどフィーリングで読めると言われているようです。変化形がドイツ語よりも多い上にキリル文字なロシア語は形無しですね。
ドイツ語ではアルファベットを、アルファベートと言います。まずは文字とその基本的な発音を見てみましょう。
文字 | 名前 | 発音 | 文字 | 名前 | 発音 |
A a | アー | a,a: | N n | エヌ | n |
B b | ベー | b | O o | オー | o,o: |
C c | ツェー | ts | P p | ペー | p |
D d | デー | d | Q q | クー | k |
E e | エー | e,e: | R r | エル | r |
F f | エフ | f | S s | エス | s |
G g | ゲー | g | T t | テー | t |
H h | ハー | h | U u | ウー | u,u: |
I i | イー | i,i: | V v | ファウ | f |
J j | ヨット | j | W w | ヴェー | v |
K k | カー | k | X x | イクス | ks |
L l | エル | l | Y y | ユプスィロン | y |
M m | エム | m | Z z | ツェット | ts |
注 :は長音を表します。つまり、ドイツ語の母音はどれも、長母音も短母音も表せます。
例。以下、アクセントは太字で表示します。アクセントのあるところは強く発音します。
Bonn ボン(旧西ドイツの首都)
Frankfurt am Main フランクフルト・アム・マイン(フランケン地方の大都市)
Dresden ドレースデン(ザクセン州の州都)
なお、ドイツ語では固有名詞だけではなく、名詞は全て頭文字を大文字にします。
このほか、以下の四つの合字を使用します。
文字 | 名前 | 発音 | 文字 | 名前 | 発音 |
Ää | エー(aウムラウト) | ε,ε: | Öö | エー(oウムラウト) | ø,ø: |
Üü | ユー(uウムラウト) | y,y: | ß | エスツェット | o,o: |
ä、ö、üの3つは、それぞれaとe、oとe、uとeを合わせた文字で、a、o、uが近くのiに引っ張られて音色が変わったことを示すものです(大抵、当の犯人のiはその後消えてしまってますが)。名前はそれぞれの発音と同じなのですが、日本のドイツ語教育ではe(エー)とä(エー)とö(エー)の区別が難しいので、ウムラウト(変音)という言葉を使って呼ぶ方が一般的です。
なお、辞書ではウムラウトを無視して、äはa、öはo、üはuと同じであると見なして並べます。何らかの理由でウムラウト記号が使えない場合は、代わりにeを添えます。つまりäはaeと書くわけです。
*ウムラウトの例
(1)複数形
Gast ガスト 客
→ Gäste ゲステ
(2)動詞の変化で
tragen トラーゲン 運ぶ(不定詞)
→ trägt トレークト (彼は)運ぶ
(3)品詞変更で
tragen トラーゲン 運ぶ(動詞の不定詞)
→ Träger トレーガー 運ぶ人、運送業者、担い手
Kuß クス 接吻(名詞)
→ küssen キュッセン 口づけする(動詞の不定詞)
(4)派生で
oft オフト しばしば(形容詞)
→öfter エフター よりしばしば(比較級)
→öftest エフテスト もっとも頻繁に(最上級)
ßはエスツェットといい、その名の通りſ(sの古い形)とzの合字です。ですがこれはssと同じものと見なされます。辞書ではssと同じであると見なして並べますし、ßが使えない場合にはssと表記します。
ßとssは、直前の母音が長いか短いかによって使い分けます。直前の母音が長ければßを、短ければssを使います。
*エスツェットの例
Fluss フルス 川
fließen フリーセン 流れる(不定詞)
floss フロス 流れた(過去形)
ieはイエではなくイーと読みます。
注 ドイツ語を習った方にはFlussやflossには違和感があるかも知れません。2005年8月に正書法の規則が変わるまではFluß、floßと書くのが正しいとされていました。しかしどのような場合も直前の母音が短ければssを書くように改められました。ですからdaßも今ではdassです。但し、今でも旧正書法で書かれたものをよく見かけますので、一斉に変えられたというわけではないのかもしれません。とはいえ、以降では全て新正書法に従うことにします。
ドイツ語は基本的にローマ字読みをします。ローマ字読みでは読めない発音は、ここでやったようにその都度囲み記事で指摘することにします。くれぐれも英語読みをしないように注意!発音規則のまとめは、データ編1 発音規則を参照してください。囲み記事の数字はそれぞれ追補1の順番に対応しています。
では、次ではドイツ語の挨拶や基本的な会話を見ることにしましょう。