第56回海上保安庁観閲式及び総合訓練
       Japan Coast Guard Inspection parade 2012
●はじめに
  2012(平成24)年6月2日(土)、3日(日)に東京湾羽田沖にて海上保安の日(5月12日)を記念して、第56回海上保安庁観閲式及び総合訓練が実施されました。観閲官は2日(土)に吉田おさむ国土交通副大臣、3日(日)に前田武志国土交通大臣、また両日ともに鈴木久泰海上保安庁長官が務めました。

 昨年は東北太平洋沖地震における全国的な救援体制により開催しなかったため、2年ぶりの観閲式となりました。全体的には例年と比べ小規模な印象を受けましたが、未だに被災地で続く捜索活動や日本海〜東シナ海の不安定要素を考慮するとなかなか船艇を回しづらい事情もあるのかもしれません。とはいえその力強さに変わることはなく、防人の実力の一端を垣間見ることが出来ました。

 今回私が乗船したのは巡視船「えちご」でした。第9管区・新潟海上保安部所属のヘリコプター搭載大型巡視船です。観閲船隊は4隻で構成されており、晴海埠頭出港が「そうや」「やしま」「えちご」の3隻、横浜港出港が「いず」の1隻となっております。なお観閲官が乗船する「やしま」を基準にプログラムは実施されるので、我々はおこぼれにあずかる形となります。

 11時半に受付開始ということで、10時に晴海に着けば余裕だろうと高をくくっていたら既に行列が形成されておりまして、先頭の人はまさか早朝から並んでいたのでしょうか。上写真は帰港時の様子でお許しください。
(撮影&解説 鯛風雲)

●観閲式模様
 我が「えちご」を含む4隻の観閲船隊は定刻通りに訓練海域へ到着しました。遠くから眩しい探照灯の光が煌めくのが視界に入ると、まもなく観閲式の始まりです。

 受閲船隊のトップを務めるのが巡視船「しきしま」。第三管区横浜海上保安部所属。世界最大級の巡視船であり、元々はプルトニウム輸送の護衛を務めるために設計されましたが、最近はその唯一無二の巨大な船体を活かし、東南アジアに出向いて海賊対策指導を行うことも少なくないようです。

 巡視船「おき」は第八管区境海上保安部所属の大型巡視船。「救難業務に特化した巡視船」という新たなカテゴリーのプロトタイプとして、1隻だけ建造されました。特徴としては、救難業務においてヘリコプターとの連携が注目されていた情勢下の建造であったため、1000トンクラスの巡視船としては初めてヘリコプター甲板を装備したことであり、この設計思想は後の巡視船にも受け継がれていくこととなります。

 海上保安庁では全国を11の管区に区切って活動しており、それぞれ1隻ずつ「救難強化巡視船」として指定された巡視船が存在します。これは大規模な海難事故に対応するため、潜水装備やエンジンカッターなど高度な救難装備を搭載し、海上保安庁の中でも救難のプロとしての役割を期待されている巡視船であります。

 「おき」も第八管区の救難強化巡視船ですが、前述の通りこの巡視船は1隻だけ造られたプロトタイプであり、「おき」の後に建造された「えりも」型は救難任務に特化した巡視船として、「おき」の建造で得た実績を基に全7隻全てが救難強化巡視船として任務にあたっています。

 巡視船「しもきた」は第二管区八戸海上保安部所属の大型巡視船。不審船事件の教訓を取り入れた新時代の汎用巡視船で、同タイプの船が9隻建造されました。尖閣諸島中国漁船衝突事件で中国漁船から衝突を受けた巡視船「よなくに」も同タイプの一つです。

 巡視船「あまぎ」は第三管区下田海上保安部所属の大型巡視船。「しもきた」とは同タイプの船です。

 測量船「昭洋」は本庁海洋情報部所属の大型測量船。近年では東シナ海EEZ内の調査中に中国国家海洋局の妨害を受けるなど、その活動に注目が集まります。

 第二小隊は小型巡視船4隻で構成された船隊。

 第二小隊の先頭を務めますのが第七管区福岡海上保安部所属の巡視船「らいざん」。このタイプの巡視船は1994年の就役から現在に至るまで15隻が建造されたベストセラーであり、「らいざん」はその1番船でもあります。「らいざん」型は時代とともに防弾化や機関砲の強化などの改良が行われ現在でも建造が続けられています。

 巡視船「びざん」は第五管区徳島海上保安部所属の小型巡視船。「らいざん」型とは同タイプの船です。

 巡視船「たかちほ」は第十管区宮崎海上保安部所属の小型巡視船。こちらも「らいざん」型とは同タイプ。今回参加した3隻の「らいざん」型は全て西方に配備された船でしたが、同タイプの巡視船は北は江差から南は宮古島まで幅広く配備されており、日夜その機動性を活かし幅広い任務に従事しています。

 巡視船「さろま」は第一管区根室海上保安部所属の小型巡視船。1985年に発生した最初の不審船事件である日向灘不審船事において、高速航行が可能な巡視船の必要性に迫られ開発されたタイプです。このような設計思想の巡視船はこの後、上記の「らいざん」型に引き継がれ、また2度の不審船事件を経て『警備型巡視船』としてそのカテゴリーを確立することとなります。その礎を築いたタイプと言ってもよいかもしれません。

 第三小隊は変わって巡視『艇』船隊となります。海上保安庁では、巡視船は海上における全ての業務に従事するもの、巡視艇は主基地周辺海域における上記の事務に従事するもの、と分類されており、その船体も巡視船と比べて小型のものが大半を占めます。しかしながら、事件事故発生からの瞬発力は巡視艇の方が勝っており、その任務の重要性は大型の巡視船にも引けを取るところがありません。最も我々に近いところで海を守る防人達、巡視艇4隻による行進です。

 巡視艇「おきぐも」は第十一管区中城海上保安部所属の巡視艇。高速密漁船の増加に対処するために設計されたタイプであるため、35kt以上とも言われる速力を誇ります。密漁船の出現スポットに程近い対馬海上保安部に重点的に配備されてきましたが、防弾化や強力な機関砲の搭載など不審船対策も施されて全国的に配備される運びとなりました。「おきぐも」は2009年に配備されたその改良型の一つであり、東シナ海で密漁船対策をはじめ様々な任務に従事しています。

 巡視艇「ことなみ」は第五管区高松海上保安部所属の巡視艇。就役して3ヶ月も経たない超・最新鋭船であります。あまりにも最新鋭すぎてそのスペックが分からないのであります、が、側面には停船命令等表示装置(電光掲示板)が設置されていたりと密漁船対応などの巡視『船』のテリトリーの一部を担う形で、より多種に渡る任務に対応できるようになっているようです。

 巡視艇「みやかぜ」は第二管区宮城海上保安部所属の巡視艇。「ひめぎく」型と呼ばれるタイプの一つですが、このタイプは150隻以上が建造され、現在もなお建造され続けている大ベストセラーでして、全国各地に同型船が配備されているので最も馴染み深いタイプだと思います。

 続く巡視艇「てるかぜ」も第二管区福島海上保安部所属の「ひめぎく」型巡視艇です。

 海上保安庁の船艇によるパレードは以上ですが、関係機関船艇のパレードが続きます。余談ですが、このように航行しながら観閲行進を行うのは日本くらいなもので、大変高度な操船技術を要求されるプログラムでもあります。日本でこの技術において最も長けているのは言うまでもなく海上自衛隊ですが、海上保安庁でさえ船隊を組むのは苦手だと言われているのに、ふだん船隊など組まない機関の船艇がパレードを行うのは大変なことだと思います。

 関係機関船艇の先頭を務めますのが海上自衛隊護衛艦「やまぎり」。これまでの白い船体の巡視船とは打って変わって、その灰色の船体から異様なまでの存在感を放っているのが分かると思います。

 外国海上保安機関航空機パレードとして米国コーストガードからC−130が参加しました。米国コーストガードの船艇はたびたび日本に来航していますが、航空機の飛来は大変珍しいものです。

 米国コーストガードC−130に続く形で海上保安庁所属の航空機による航過飛行が始まります。海上保安庁は船艇から発着艦できるヘリコプターはもとより、広域監視や急患輸送などに活用できる固定翼機も数多く保有しています。特に合成開口レーダーを搭載した機体は洋上監視機として不審船の探索などに役立っています。

 ベル212「シーダック」は第一管区釧路海上保安部巡視船「そうや」搭載の機体。巡視船「そうや」は砕氷能力を持つ船であり、オホーツク海の流氷観測にも従事しています。搭載ヘリ「シーダック」も上空からの観測という形で活用されているようです。

 ベル212「日本海」は第九管区新潟海上保安部巡視船「えちご」、つまり私が乗船している船の搭載ヘリコプターです。

 アグスタ139「みほづる」は第八管区美保航空基地所属。

 スーパーピューマ332「わかわし」は第三管区羽田航空基地所属。この機体は特殊救難隊と呼ばれる救難のエリート集団の専属機として使用されることもあります。

 ベル412「いぬわし」は第三管区羽田航空基地所属。

 シコルスキー76「しまふくろう」は第一管区釧路航空基地所属。

 ヘリコプターに続き固定翼機の航空受閲部隊が進入して参りました。

 ビーチ350「えとぴりか」は第一管区千歳航空基地所属。

 サーブ340「はやぶさ」は第五管区関西海上航空保安基地所属。関西海上保安基地(厳密にはその付近)には特殊警備隊と呼ばれる対テロ特殊部隊が駐屯しており、彼らが出動する事案においては近隣の空港まで部隊を輸送する任を務めます。

 ボンバル300「みずなぎ」は第三管区羽田航空基地所属。2011年に引退したYS−11の後継となる機体であり、その速度が買われて選定されました。

 この機体は東北太平洋沖地震において仙台空港の整備工場で整備中だったところを津波に襲われ浸水・使用不能となっていた機体でもあります。津波での被害にあった航空機の多くが修理不可の印を押される中この機体だけは修理可能と判断され、製造元であるボンバルディア社の技術者の尽力もあり奇跡の復活を遂げました。

 ファルコン900「ちゅらわし」は第十一管区那覇航空基地所属。

 ガルフV「うみわし」は第三管区羽田航空基地所属。

 最後に海上では消防艇によるカラフル放水、空ではヘリコプターが編隊飛行を披露して終了。