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第114回 公共交通を考えよう(1)日本の路面電車の現状

担当:裏辺金好

大阪市・堺市(阪堺電気軌道
 1910(明治43)年10月1日開業。
 阪堺線(恵美須町〜浜寺駅前)14.1km、上町線(天王寺駅前〜住吉公園)4.6kmの2路線をもつ。
 戦後は南海電鉄として運営されていたが、1980(昭和55)年より阪堺電気軌道として別会社化されて今に至っている。また、堺市内では広い道路の真ん中にゆったりとした軌道を設け、堂々と走行。また、沿線には住吉大社があり、参拝客にも必須の路線となっている。
○問題点
 高校や市民病院と言った公共施設の移転や郊外ニュータウンの建設などによって、堺市内の乗客数はピーク時の6分の1と、経営が苦しいらしく、会社としては部分的に廃止したがっている。
 一方で堺市ではLRT新線の計画が具体的に進行中であり、阪堺線の我孫子道〜浜寺もLRT化一体運営する予定。
 決して人口の少ない場所ではなく、走行する環境も良いので、屋根がなかったり、あっても老朽化が著しい停留所などの設備の近代化が求められる。また、路線も長いのだから各地でバス停と直結させる(場合によれば乗り継ぎ割り引き)など、他の公共交通との積極的な連携があってもいいのではないか。

岡山市(岡山電気軌道)
 1912(明治45)年5月5日開業。
 東山線(岡山駅前〜東山)3.1kmと途中から分岐する清輝橋線(柳川〜清輝橋)1.6kmの2路線。架線はセンターポール化され、街の景観向上に一役買っている。
 また、2002年には超低床車両が登場。注目すべきはデザインで、JR九州の新型特急列車等のデザインで大好評を得ている水戸岡鋭治氏が担当。その結果、外観・室内共に「乗ってみたくなる」素晴らしいデザインに仕上がった。デザインと鉄道を考える上で、非常によい材料。この他、東武日光線からの旧型車両1両をKUROという大胆なデザインに改装、さらに1両を東武時代の塗装などに復元し、新たな魅力を与えた。
 また、全国に先駆けて女性運転士を採用するなど、色々と先進的な取り組みを行う。最近では、岐阜の路面電車の運営にも名乗りを上げたが、こちらは岐阜市が様々な条件を突きつけ、難色を示し断念。結局、南海電鉄貴志川線の運営を引き継ぐことになった(→和歌山電鉄として運営中)。
○問題点
 岡山城と後楽園という観光名所がある一方で、岡山駅前がJR岡山駅とかなり離れており、豊橋鉄道や高知のように延伸が求められる。公共施設からも比較的離れているため、ここは特に路線の延伸が必須である。現在計画されている岡山市役所や岡山医大病院、JR大元駅への乗り入れの早期実現に期待したい(・・・んだけど、かなり計画が進んでいるのに、なかなかGOサインが出ず、今やその話もどこへやら)。
 また、超低床車両が1編成というのも勿体ない。ただのPR車両と化しているのが残念であり、少し待てば乗られるような状況になって欲しい。

広島市・廿日市市(広島電鉄)
 1912(大正元)年11月23日開業。
 言わずとしれた日本最大の路面電車王国。原爆の大惨事も見事に乗り越え、路面電車廃止ムードの中で、一時は廃線の危機にまで陥ったが、行政の方針転換等によって広島の街と共に発展して今に至る。
 路線は複数あって細かくは書かないが、鉄道線である宮島線に路面電車規格の車両を直通させることで広島市中心部との往来を向上させているのが特徴。また、原爆ドームや広島城はもちろん、広島港にも乗り入れるなど、沿線には観光や生活に必要な様々な施設が多く、路面電車に乗れば大抵の場所に行けるのが特徴。
 車両はグリーンムーバー、グリーンムーバーmaxといった超低床車両の大量投入によって利便性が向上した他、被爆電車や旧・大阪市電、京都市電の電車など、動く路面電車の博物館として引き続き旧型車両も活用。
 さらに、従来は離れていた横川駅前停留所をJR横川駅と直結し合わせて再開発。この他、西広島、広島港でも大改修が行われ、格段に便利になった。ちなみに利用者数は、四国全域で鉄道網を持つJR四国よりも多い。
○問題点
 ただでさえ便利なのに、さらに便利に。
 そのため全く無いと言いたいところだが、未だに大きな課題が残る。それは、広島駅前である。JR広島駅と直結しており、乗り換えは便利だが(何故か一部分に屋根がないという問題はさておき)、ここに乗り入れるために、大きく迂回する。その際に、複数の信号機と遭遇するため、所要時間が大きくかかってしまう。一応計画はされているが、ショートカット路線の建設が求められる。その際には、貨物ヤード駅跡地に誕生する新しい野球場への延伸があると面白い。
 また、JR西広島駅と広電西広島駅との距離も少しあり、こちらの改善も必須。もちろん、現在も色々な計画が進行中であり、これからも広島電鉄からは目が離せない。ただ、JRが競合区間に新駅設置を続々と計画中であり、これがプラスに働くのか、マイナスに働くのか・・・。

松山市(伊予鉄道)
 1911(明治44)年8月8日開業。
 日本最初の軽便鉄道として知られる伊予鉄道による路面電車。松山市街に9.6kmの路線をもつ。特に環状線の運転も行われており、ミニ山手線、大阪環状線的な雰囲気が。
 松山城、近代建築である愛媛県庁をバックに走る路面電車の姿は美しく、また道後温泉へのアクセスとしても重要。
 また最近の改善はめざましく、超低床車両の導入、郊外電車、バスも含めたICカードの導入や、その昔に走っていた松山のシンボル的存在「坊ちゃん列車」を復元して走行させている。
○問題点
 長年古い路面電車だけが走っていたが、ついに超低床車両も登場し、続々と増備中。一方で旧型の路面電車も鮮やかな色が松山の景観に一役買うなど、大きな問題点は特にない。
 あとは、時間によっては市電が団子状態になり、この後しばらく間隔が開くことがあること。なるべく均等に運行出来るように要請したい。なお、伊予鉄道も延伸計画がスタート。

高知市・南国市・いの町(土佐電鉄
 1904(明治37)年5月2日開業。
 開業から100年を迎えた土佐電鉄。伊野線(播磨屋橋〜伊野)11.2km、後免線(播磨屋橋〜後免町)10.9kn、桟橋線(播磨屋橋〜桟橋通5丁目)、駅前線(播磨屋橋〜高知駅前)0.8kmをもつ。
 海外の路面電車を多数購入して運行し、大きな話題に。また、JR高知駅との直結による利便性の向上、さらに2002年からは「ハートラム」の愛称を付けた超低床車両が運行を開始している。
 さらに騒音防止も兼ねて、かなりの区間に渡って芝生軌道(その名の通りのもの)の工事が実施され、イメージアップ。行政の支援もあり、これからも頑張ってもらいたい。ちなみに、海外からの路面電車購入、山陽電気軌道路面電車の塗装復元、名古屋鉄道岐阜市内線からの車両移籍(塗装はそのまま)など、路面電車ファンとしては楽しい路線。
○問題点
 やはり旧型車両が多いのが気になる。
 「ハートラム」も投入は1編成止まりで、広い土佐電鉄の中ではあまり効果があるとは言い難い。また、ここも停留所に屋根を設置するなどの改良工事が必要。幸いにも、東端は土佐くろしお鉄道後免駅、西端はJR四国伊野駅と隣接することから、互いに増発をするして乗り継ぎを便利にすることが求められるだろう。
(撮影:雑学の博物館)

●北九州市(筑豊電鉄)
 1956(昭和31)年3月21日開業。
 熊西より西日本鉄道北九州線に乗り入れて黒崎駅まで運転されていたが、肝心の西日本鉄道が路面電車を廃止。そのため、現在では熊西〜黒崎0.6kmをふくめ、黒崎〜筑豊直方16.0kmを運営する。
 東急世田谷線と同様、ほとんど路面は走らず専用軌道で、連接車による運行が特徴。ハイスピードで走行し、広島電鉄宮島線よりも表定速度が速い。
○問題点
 かつては小倉や門司にまで向かっていた西日本鉄道北九州線の完全廃止は痛手。こちらは自動車の影響もあるが、国鉄(JR)との競争に負けたという側面も。
 さて、残った筑豊電鉄。元々、筑豊炭田の中心都市直方、飯塚を経由して福岡市に至る延長57.4kmの高速鉄道が目的だったが、殆ど実現しなかった。そのため、現在の路線は中途半端な感が否めず、沿線にこれと言った好材料もない。
 こうなった上は、むしろ本格的な鉄道線へ変更し、JR九州鹿児島本線の乗り入れや、廃止された西日本鉄道の路線の部分的な復活等を検討しないと、今の路線だけでは先細りである。
(撮影:小田急3000形様)

●長崎市(長崎電気軌道
 1914(大正4)年11月16日開業。 4系統11.5kmの路線を持つ。
 何といっても、路面電車の沿線が観光名所だらけというのが最大の魅力。さらに、100円均一で乗ることが出来るため人気は上々。長崎市の観光は路面電車で、と各観光ガイドにも書かれることから、宣伝も上手くいっている。路面電車としては、最も恵まれた環境で、かつ最適な輸送力なのではないか。
 2004年からは超低床車両も登場し、少しずつ増備が進められている。
○問題点
 超低床車両の誕生は嬉しい。これによって、一見すると新しそうに見えても実は車体を更新しただけ、と言う車両が大半だった長崎の路面電車に新風が入った(ただ、私見だが少し暗いイメージがある。もう少し塗装を考えた方がよいのではないかと思う)。
 もう一つ、随分改善されたが、例えば長崎の玄関口である長崎駅前の電停に行くためには、歩道橋を渡らなければならず、障害者はもちろん、足が少し悪い人には大変不便である。

●熊本市(熊本市交通局
 1924(大正13)年8月1日開業。
 2号線(田崎橋〜健軍)、3号線(上熊本駅前〜健軍)の2路線を運行し、12.1kmの路線を持つ。約5〜10分間隔で運転され、非常に便利。
 これまでに日本初の冷房付き路面電車の導入、日本初の超低床車両の導入など意欲的な施策で、最近になっていよいよ乗客数も向上。さらに、路線の延伸が正式決定し、熊本電気鉄道との直通運転の検討が始まっている。04年6月25日には、熊本電気鉄道側より正式に、藤崎線終点の藤崎宮前駅から南へ延伸して熊本市電と接続する計画が発表された。ただし、肝心の熊本県・熊本市・合志市による都心結節計画検討委員会は、鉄道を廃止して線路敷きをバス専用道に転用し、連節バスやガイドウェイバスにする方針。
○問題点
 最大の問題は運賃である。
 距離によって130〜200円に変わるため、自分が乗る区間がいくらになるのかが解らず非常に不便。特に、JR熊本駅はもちろん、観光資源である熊本城や水前寺公園へのアクセスとして観光客も多く乗るため、150円あたりで均一運賃にすることが求められる。
 この後は、延伸計画にあるように熊本県庁、熊本空港など集客力の見込める地域への早期延伸が求められ、一時は盛り上がりも見せたが最近では動きは無く、前述の通り熊本電気鉄道との直通も望み薄くなっている。ただし、連接バスによる熊本市電乗り入れ、もしくは路線延長は検討しても良いのではないだろうか。

鹿児島市(鹿児島市交通局)
 1912(大正元)年12月1日開業。
 鹿児島駅前〜交通局前〜谷山、鹿児島駅前〜鹿児島中央駅前〜谷山の2路線、13.1kmをもつ。中心部と鹿児島中央駅を結ぶ重要な路線で、また市内の観光にも便利で、運賃は160円均一。
 九州新幹線開業に関連して、鹿児島中央駅前に電停を移設。
 また、2002年より超低床車両「ユートラム」を導入し、いまや少し待てばやってくるほど多くが運転されている。

 ちなみに車内には火山灰などに対策するため、忘れ物を利用して自由に持ち出せる傘が用意されている。ただし返却率が良くないのがネック。そうは言っても、元々処分を前提としているので、まあ、まだ実害は少ない方か。なお、地元テレビ局の企画で谷山から鹿児島まで、JR,車、市電で競争したところ、市電が最も早かったそうである。時間帯にもよるだろうが、これは大きなメリット!!
○問題点
 広島、熊本、鹿児島と中心市街地が元気なのが好材料で、鹿児島の市電の未来も決して悪くはない。九州新幹線開業と大きな駅ビルが開業したことで鹿児島中央駅にも活気が出てきたため、中心市街地と結ぶ鹿児島市電の役割はさらに強くなった。超低床車両の導入も順調に進み、確実に利便性の向上を市民に印象づけられている。
 問題は160円という微妙な運賃。硬貨3枚を出さないといけないため、面倒に思う人も多いのではないだろうか。


 次回は、路面電車の抱える問題点とヨーロッパでの事例を詳しく見ていきます。
 是非ご一読の上、公共交通について考えて頂ければと思います。

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