裏辺研究所 雑学万歳 > 第114回


第115回 公共交通を考えよう(2)
路面電車の課題と海外の事例

担当:裏辺金好
5.海外の路面電車の現状〜カールスルーエ〜

(撮影:南 聡一郎さん)

 お次に紹介するのが、ドイツのカールスルーエ。

 ドイツ連邦憲法裁判所(日本で言えば最高裁)がある都市で、人口は約27万人。
 
 こちらの路面電車の特徴は、やはり中心部が車の乗り入れ禁止などですが、加えて、郊外への鉄道線(旧ドイツ国鉄線)に乗り入れて近郊電車(Sバーン、シュタットバーン)としても活躍する、というのが最大の特徴ですもっとも、こうした運行方法は、日本でも広島電鉄が似たようなことをやっていますので、そう珍しい例ではない、と個人的には思います。

 とは言え、広島電鉄が郊外の鉄道線も含めて、システム面も含めて完全に路面電車の車両に統一してしまったのに対し、こちらは、路面電車が普通の鉄道、例えば東海道本線に直通するような形です(と言っても、ヨーロッパは在来線も160km/hぐらいで高速走行)。

 また、広島電鉄は自社の宮島線に乗り入れるだけなのに対し、カールスルーエは、自社の路面電車網の発達と合わせ、旧ドイツ国鉄線に乗り入れるので、他の都市にも直通し、さらにより広範囲に路面電車、Sバーンを走らせています。簡単なように見えますが、電気システムの問題など、ホームの高さなど、統一・解決しないといけないことは多数あり、かなり大変な話です(ホームについては、かつての広島電鉄のように路面電車用ホームを併設)。

 こうした問題をクリアしたカールスルーエの路面電車は、“カールスルーエモデル”として有名だそうです。なにしろ、乗り換えの手間が省けます。同時に、待ち時間も減るので大幅なスピードアップ。さらに、停留所も増え、どこでも気軽に利用可能。一方、鉄道線は路面電車に混じりながら、都市間輸送に活躍します。

 また、カールスルーエでは、カールスルーエ交通連盟が地域内のSバーン、路面電車、バスなどの会社を統括するため、バスも含めて1枚の定期券・乗車券で利用可能。モットーは、『郊外から市内まで乗り換え無しで』、だとか。ちなみに、日本の場合は乗車券の統一はされていないものの、1枚のカードでバスと路面電車が乗ることが出来るようになっている例が増えています。

6.海外の路面電車の現状〜信用乗車〜

 ところで、路面電車に限らず、バスもそうですけど、運賃の支払いに手間取って、なかなか先に進まないことがあります。大事なお客とはいえ、おばあちゃんが運賃箱の前で財布と格闘しているのを見ると、イライラしますね(笑)。
 この点、ヨーロッパではどうなのでしょうか。

 実を言いますと、ヨーロッパでは「信用乗車方式」を採用しています。
 これは、普通の鉄道に乗るのと同じと考えてください。すなわち、あらかじめ停留所で乗車券を購入する、と言う方式です。降りる時に運転手が一々チェックすることはありません。ですから、乗り降りに時間がかからずとてもスムーズ。

 しかし、それだと「ただ乗り」する奴がいるのではないか。
 もちろん、出てきます。しかし、抜き打ちで検札者が乗り込み、切符を所持していない場合、理由の如何にかかわらず高額の反則金を徴収します。こういう方式は、「自己責任」という概念があまり発達していない日本では難しいかなあと思っていたのですが、歩きタバコからも罰金が徴収出来るぐらいなので、案外導入出来るのではないか、と思います。

7.その他色々なところの海外路面電車

 以下、ヨーロッパをはじめと、日本と世界各地の路面電車の写真を紹介します。
 ここでは、雰囲気を感じ取って頂ければ幸いであります。色々とメリットを書きましたが、ヨーロッパの路面電車の素晴らしいところは「乗ってみたくなるような」デザインだと思います。もちろん、それは車両だけでなく、その街そのものが持っている雰囲気や、それから停留所の形などもあります。


フランス ボルドー
(撮影:南 聡一郎さん)

フランス ボルドー
(撮影:南 聡一郎さん)

フランス リヨン
特異な形の路面電車。こういう形だと、観光などで役に立ちます。
(撮影:南 聡一郎さん)

フランス ルーアン 
地下からでてくる路面電車(トラム)。何も必ず路面の上を走らなくても言い訳で、柔軟に他の交通機関のメリットを取り入れたいところ。
(撮影:南 聡一郎さん)


ドイツ・フライブルク
(撮影:南 聡一郎さん)


ドイツ・フライブルク
1編成あたりの長さが日本よりも長いのが特徴。日本の場合、規制があって長くできない(と言っても、今のところ適正規模かもしれませんが)
(撮影:南 聡一郎さん)

オーストリア・ウイーン
ヨーロッパの昔の路面電車って、こんな感じですよね。
(撮影:千葉人さん)

広島
日本の路面電車の中では最も便利で、個人的にはヨーロッパと比べても、大きくは遜色ないと思いますが、もう少しスピードアップを求めたいところ。
(撮影:裏辺金好)


中国・大連(93年)
まだ日本の戦前の路面電車が活躍していた頃。今ではヨーロッパ並みの新型車両が多数運行。
(撮影:ムスタファさん)


ウズベキスタン タシケント市
基本的には地下鉄が主役で、路面電車は、地下鉄の終点から郊外への路線などで活躍。
(撮影:ムスタファさん)


8.さいごに・・・と言っても長いですが
 実際にヨーロッパの路面電車を体験したことがないので、どうしても表層だけを見たレポートになってしまうのが申し訳ないのですが、少なくとも「路面電車=古い、チンチン電車」というイメージは払拭出来たのではないかと思います。さてさて・・・。

 前に述べましたが、路面電車は、とにかく建設費が安いのが特徴で、地下鉄やモノレールを建設するより遥かにお得です。
 ところが注意しないといけないのは、「お客が乗るから」という理由で、人口密集地帯に作ってしまいますと、いくら何でも輸送力が不足し、乗降にも時間がかかり、結果として不便な乗り物になってしまいます。特に、ヨーロッパのように1編成あたりの長さが長ければある程度対処出来ますが、日本のように規制が強い場合は危険です。

 ですから、路面電車は原則として中堅規模の都市(広島クラス)が限界で、例えば、今、東京メトロが走っている真上に作ってしまうと、路面電車を何本走らせても輸送力が足りず、電車の交通渋滞を巻き起こしてしまいます。ちなみに逆パターンとして、地下鉄が必要もないのに路面電車を廃止してまでそれを建設し、大赤字を出しているのが仙台市です。

 それから、路面電車と言えば路面を走行しないといけないという先入観がありますが、海外の事例を見ると地下を高速走行する場合もあります。ですから、「どうしても土地がない」「中心市街地への路面電車建設合意が得られない」なんて場合では、もっと建設場所を柔軟に考えても良いでしょう。また、ルート選定の際「ここに通せば、多数の乗客が見込めるんだが、道路の車線を削減するわけにはいかないからな〜」という場所は、部分的に地下や、さらに高架にするの良い手です。

 そして、バスとの連携も大事です。例えば路面電車の軌道上をバスが走ることが出来るようにして、より便利にする必要があります。

 特に、同じ方向に進む路面電車とバスがある場合、どちらに乗るか迷います。
 そう言う時、乗り場を一本に統一しておけば、来た方に乗ればいいわけで、乗車チャンスも増えることになります。この際に、運賃の統一やノンステップバスの導入などで、なるべく両者に差異を無くしておくことが重要です。

 とまあ、色々と御託を並べてみましたが・・・。
 青二才の机上の空論的発想とはいえ、これまで公共交通機関は「どうやって乗客を獲得するか」についてはあまり考えていなかったのは事実です。それは、これだけ乗客数が減少している昨今でもあまり変わらず、例えばバスの場合、停留所に屋根もなく、さらに路線図も解りづらい、最悪の場合は、そもそも路線図は無い、などの状況はあまり変わっておりません。

 そんなわけで、逆に考えれば「どうやってお客を獲得するか」という方策を考えて、対処していけば、まだまだ路面電車、バスなどの交通機関は使えるわけです。
 というわけで、このシリーズ、次回はバスを取り上げます。・・・多分。

 最後になりましたが、写真を提供してくださいました諸氏に御礼申し上げます。

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