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第118回 ドラえもんを読み解く

担当:林梅雪

○はじめに
 多くの大人や子ども達に親しまれているアニメ『ドラえもん』は、今や不朽の名作の一つとして数えられています。

 原作者であった故藤子・F・不二雄(藤本弘)氏も、晩年に「どんな漫画・キャラクターを描いても、どうしてもドラえもんに似てきてしまう」と述べるほどの入れ込み具合。

 読み切り作品が主ですが、単行本45巻(てんとう虫コミックス)を読んでいると、藤子氏の様々な考え方や価値観が登場人物に投影されていて非常に興味深いものを感じます。

 そこで今回は、シリーズで『ドラえもん』を様々な観点から検証し、読み解いてみることにしました。

 第1回目は、ドラえもんが20世紀の野比のび太君の家に派遣された、いわゆるプロローグについて検証します。

○ドラえもん派遣(セワシのスタンス)

 ドラえもんは、野比のび太の孫の孫であるセワシの子守ロボットです。のび太の残した借金があまりにも多いため、セワシの家は非常に貧乏で、セワシはお年玉を50円しかもらえませんでした。そこで、貧窮の直接原因であるのび太の運命を変えることができれば、その子孫である自分の運命も必然的に変わるのではとセワシは考えたのです。


 「未来の国からはるばると」(第一巻)でセワシは、自分が「のび太」の面倒を見たいが、自分は「忙しい」ためドラえもんにのび太の面倒をみさせることにした、と述べています。

 「あいつ(ドラえもん)も、できのいいロボットじゃないけど、おじいさん(のび太)よりはましだろ」(セワシ)

○ドラえもん派遣(のび太)

 一方のび太は、正月早々(設定資料では1970年正月)、(引き出しから登場した)謎の二人組の急な訪問に、最初は現状を把握できませんでしたが、自分が将来しずかちゃんとではなくジャイ子(ジャイアンの妹)と結婚すると告げられると激怒、ドラえもんとセワシを追い返してしまいます。


 しかしドラえもんが最初に予言した「30分後に首吊り、40分後に火あぶり」が、ごく些細なことであれ実際に起こると、のび太も少しずつドラえもん達を信頼し始めます。

 そしてのび太が恐る恐る開いたアルバムには衝撃的事実が! [下記参照 ( )内は写真の様子]
1979:大学入試らくだいなぐさめパーティ(パパとママがのび太を慰めている)
1988:就職できなくて自分で会社を始める。(パパの髪の毛が薄くなっている)
1989:ジャイ子と結婚(子どもは少なくとも6人いる)
1993:会社丸やけ記念(のび太が手に葉巻と花火を持っている)
1995:会社つぶれ借金取りおしかけ記念
 のび太は自分の運命を知り、アルバムを投げ出してしまいます。そして自分の運命を変えにきてくれたドラえもんの派遣を受け入れることになるのです。

○運命を変えるということ

 前出のアルバムによると、のび太はドラえもん派遣の約一ヵ月後の1970年2月6日、ダンプカーにはねられ、もともと悪かった頭がいっそうパーになってしまうとのことでした。

 「ドラえもんの大予言」(第一巻)では、それを防ぐためにドラえもんとのび太が必死に努力し、幸い大事には至らず危機を脱します。


 で、これ以降は日常生活を扱ったストーリーがメインになっていきます。
 全45巻の中で、当初の「のび太の運命を変える」という目的を扱ったストーリーも少なくないのですが、それはまた次回以降扱っていきたいと思います。

○タイムパラドックス

 ドラえもん派遣の際にのび太は、自分の運命が変わったらセワシが生まれてこないのではないかと心配します。

 それに対してセワシは、非常にうまく疑問に答えています。
「例えば大阪に行くとしてどのような交通手段を使っても方向さえ間違っていなければ大阪に着く。それと同じでのび太の運命が変わろうと結局セワシは生まれてくる」

 ドラえもんではタイムマシンが多く登場します。そもそもドラえもんも、タイムマシンで22世紀から20世紀に来たのでした。

 タイムマシンで過去の時代に行って普通に帰ってきただけならば、現在への影響はありません。しかし、例えば一年前に行って、自分を殺したらどうなるか考えて見てください。自分が自分を殺すのですから当然一年後の自分はいなくなります。そうすると自分を殺しに来るはずの一年後の自分は来ないことになります。さて、結局どうなるのでしょう。話がぐるぐるしませんか?


 このように時間移動によって出てくる疑問をタイムパラドックスと言います。前述ののび太の運命が変われば、セワシは生まれてこないのでは、という仮説も実際は成り立つのかもしれません。しかしここでは、タイムパラドックスによる混乱を避けるためにセワシがうまい説明をしたわけです。


 ドラえもんではタイムパラドックスが数多く登場しますが、それについても後の機会にまとめてみようと思います。


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