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第122回 知ってるようで知らないクリスマス

担当:裏辺金好
○はじめに

 クリスマス。
 子供の頃は無邪気に、親におもちゃを買ってもらえて嬉しい日ですが、年齢が上がるにつれバレンタインデーなどと共に「勝ち組」「負け組」でなかなか悲喜こもごもの日。さらに年齢が上がると、子供にプレゼントしないといけないので、年末における痛い出費の1つとして重くのしかかってきます。ああ、でも子供いない人も多いですよね。何歳になってもラブラブな人も・・・。

 なんてことはさておき、今回はクリスマスに関する雑学です。 

1.そもそもクリスマスって何?

 何となく解る気がするんだけど、正確に説明できないという人が多いと思われます。
 これは、12月25日にイエス・キリストの降誕を祝うキリスト教の年中行事です。ところが、不思議とヨーロッパに限らず、世界の多くの国で休日扱い(ただし、あれだけクリスマス好きの日本は平日)。まあ、楽しければ何でも良いわけでしょうが、その起源は不明だそうです。しかし、4世紀ぐらいからキリスト教徒の間でクリスマスを祝っていたそうです。ちなみに、キリストが実際にいつ誕生したかは不明。

 また、一説によるとキリスト教伝来以前にゲルマン人、ケルト人が盛大に祝っていた冬至の祭が起源で、これと結びついたんじゃないか、とも言われています。また、ヒイラギ、ヤドリギ、ユール(ゲルマンの祭り)の丸太、祝い酒の大杯などを用いる異教徒の慣習を、習合していったそうです。

 ヒイラギについて少し紹介しておきますと、ローマで農作物のお祭りの時に、家をヒイラギで飾ったことが起源。
 また、ヒイラギの(葉)の緑色、実の赤色は12月の色で、このためにクリスマスプレゼントは緑と赤のリボンで包むのが推奨されています。

 ちなみに、クリスマスリースを玄関にかけるのは、悪魔よけだとか。

2.聖ニコラウスと言うのは何?

 これは、サンタ・クロースの起源です。
 聖ニコラウスが、オランダ訛りの英語になって「サンタクロース」となりました。
 「サン・ニコラース」→「サンクト・クラウス」→「サンタクロース」というわけ。オランダ訛りなのは、オランダ人達がアメリカに持ち込んだからです。

 まずは、聖ニコラウスという人物の解説から始めましょう。
 彼は、西暦270年に生まれた人物。ローマ帝国の小アジア、ミュラの司教を務めた人物です。
 シリアというのは、シリアやトルコなどの地域の総称ですぞ。
 
 そして、彼は敬虔なキリスト教徒で両親の遺産を継いで莫大な財産を持っていたのですが、これを貧しい人に分け与えるのが彼の「聖」たる所以。
 そんなある日のこと・・・。
 貧しい靴屋さんが3人の娘達を嫁に出そうとしていたのですが、嫁入りの資金がなかった。嫁に出せなければ、いつまでも面倒を見ないといけないので、どちらにしろお金がかかります。ならばいっそ・・・と、魔が差した父親は娘達を売り飛ばそうとしたのです。それを知ったニコラウスさん。窓からポンと金貨のはいった財布を窓からなげこんで、この家族を救ったとか。この他にも、多くの人を助けたそうです。

 このようなエピソード・・・どこまで本当かは不明、から、聖ニコラウスは、嵐に遭遇した旅人を助け、幼い子供たちを守護し、貧者に贈り物をあたえるとして尊崇されます。さらに、やっぱり古代ローマやゲルマンで信じられていた贈り物の主の伝説と融合され、次第に聖ニコラウス=プレゼントの贈り主のイメージが強調されていきます。そして、スイス、フランス、ドイツ、オランダなどでは、聖ニコラウスの祝日の前日である12月5日の夜に、子供達の靴下などにプレゼントを入れる習慣が出来てきます。

 なお、「靴下にプレゼント」というのは、オランダで子供が眠ったことを表すのに、木靴を並べるという風習から来ているとか。

 ・・・しかし、ちょっとお待ちください。
 何で現在、クリスマスにプレゼントとサンタ・クロースが登場するのでしょう。
 実は、宗教改革ののち、北ドイツのプロテスタントの人達が、「クリストキント(幼いイエス)」の信仰から、クリスマスとプレゼントの習慣を結びつけていったんだそうです。・・・ごめんなさい、よく解らない説明ですね。この辺、詳しくご存じの方がいらっしゃいましたら、お教えください。

3.アメリカで確立したサンタクロース

 17世紀に、アメリカのニューアムステルダム・・・のち、イギリス領となりニューヨークとなった場所に移住してきた、オランダ系プロテスタントによって、聖ニコラウスの伝説がこの地に持ち込まれます。さらに、それから年月が経ち19世紀になると、作家のアービングが「ニューヨーク史」(1809年)で、馬にのってやってくるドイツ風の聖ニコラウスをアメリカで紹介します。へえ、馬ですか!! 

 そして決定的に、今のサンタクロースのイメージを確立したのが、詩人のクレメント・ムーアによる「クリスマスの前夜」(1823年)。
 1.そりをひくトナカイ
 2.サンタ・クロースのしぐさや笑い声
 3.妖精のサンタクロースが煙突に登る
 と言った感じです。ただし、まだ少しイメージが違いますね。

 挿絵画家・風刺漫画家のトマス・ナストが1860〜80年代に「ハーパーズ・マガジン」誌のクリスマス号に描いたもので、ほぼ完成します。
 1.サンタクロースは赤い服を着て、眼鏡をかけて、太っている。
 2.仕事場は北極にある。
 3.よい子と悪い子を分類したリストを持っている。


 そしてこれが1930年〜40年にかけて、コカ・コーラ社の広告のイラストでも起用され、これによって広く普及していくことになります。
 とまあ、サンタクロースというのは見てお解りの通り、非常に長い歴史を持つ一方で、意外と最近に作られたイメージというのがお解り頂けるかと思います。そして、貧者を救うというものから、いつの間にか子供に物をあげる、さらにはクリスマス商戦のイメージキャラクターと変貌してしまったわけで、この辺に違和感を覚える人も少なくないそうです。

 そのため、ドイツ・フランクフルトのカトリック団体は、プレゼントの買い物に大騒ぎする堕落を嘆き、各地のクリスマス市で、米国流の「サンタクロース進入禁止」のステッカーを配るなどの活動をするなど、伝統回帰運動も始まっているようです(共同通信 2004年12月24日配信)。

4.アメリカが悩むクリスマス

 ところが、そんなアメリカンなクリスマスですが、やはり元々はキリスト教系のお祭り。
 従来にも増して多民族、他宗教国家になってきたアメリカでは、この対応をめぐってかなり悩んでいるようです。以下、読売新聞2004年12月23日記事より。

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 ▼サンタクロースや「ジングルベル・ロック」はOKだが、イエス・キリスト、「きよしこの夜」はダメ。

 ▼オフィスで開くのは「クリスマスパーティー」ではなく「年末パーティー」。「クリスマス休暇」ではなく「冬休み」。

 「政教分離」と「信教の自由」を憲法修正第1条で定める米国では、クリスマスの宗教色はかなり薄まっていた。政府庁舎など公共施設ではクリスマスの飾り付けが見られない。イリノイ州の小学校は昨年から、スクールバスの中でクリスマス曲を流すのを禁じた。

 クリスマスツリーについてさえ、「宗教的なシンボル」として、「私企業のオフィスなら良いが、公共の場では禁止」(フロリダ州パスコ郡)や「コミュニティーツリーと言い換えるべきだ」(カンザス州ウィチタ市)といった、日本人にはにわかに信じがたい条例もある。

 今年は大手デパート、メーシーズが顧客への宣伝で「クリスマス」の表現を取りやめたことから、ついに不買運動が起こった。
(中略)
 宗教問題に詳しいラザフォード研究所のジョン・ホワイトヘッド所長は「ハヌカ(ユダヤ教の神殿清め祭)、クワンザ(黒人の収穫祭)は認められているのに、なぜクリスマスはいけないのか。逆差別されていた多数派(キリスト教)が怒り、振り子は逆方向に戻っている。このような不満に宗教右派の存在が火をつけた」と、例年になく騒がしいクリスマスを分析する。
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 実際のところ、イスラム教系国家であっても、なんとなくクリスマスを祝っている国もありますが・・・一度神経質になり始めると、徹底的に排除しなければ気の済まない人というのも出てきますので、全く困った問題です。他宗教を保護するためにキリスト教的な物を排除した結果、余計に宗教間の対立が深まることだけは勘弁して欲しいですね。

5.クリスマスツリーの起源は?
 これは、ドイツの聖史劇にでてくる楽園の木(エデンの園を象徴)が由来。アダムとイブが禁断の果実を食べて楽園追放・・・・と言う奴で、実際には何を食べたのかは不明ですが、リンゴと言うことにされています。ですから、この劇に使うのはリンゴの木とリンゴの実。

 もっとも、飾る習慣が出来たのは17世紀初頭、フランスのストラスブールで、これがドイツに逆輸入。ただし、リンゴの木は落葉樹であるため冬には使いづらい。そこで、木そのものは常緑樹であるモミの木に変えられ、それにリンゴを吊るすようになったそうです。次いで北ヨーロッパへと波及。
 
 さらに、1841年にビクトリア女王の夫アルバート公によってこの習慣がはじめてイギリスに伝えられ、入植者を通じてアメリカに広まり、さらに普及していくことになります。いやはや、アメリカの影響力って凄いもんだ・・・。

5.クリスマスの習慣も色々

 こうして、全世界に広まってしまったクリスマスですが、細部は異なります。
 全部見るわけにはいきませんが、少し御紹介しましょう。

A.メキシコの場合

 いきなり、何と言うところから・・・(笑)。
 12月16日から祝賀期間が始まります。そして、クリスマスまでの6日間に渡り、ポサダスposadas=隠れ家の行事を行います。
 *ポサダスというのはマリアとヨセフがイエスを無事に産むために隠れ家をさがしたことにちなんでいます。

 そして、この期間中、人々は各家を訪問するのですが、このイエス誕生のエピソードから一度追い返されます。しかし、もう一度戸を叩くと家に入れてもらうことが出来、宴会がスタート。凄いのは、ピニャータという、おもちゃ、菓子の入った陶器の壺を次々と割っていくんです。そんなどんちゃん騒ぎの末、クリスマス・イブである12月24日には、大半の人達が真夜中のミサに出席。そして、肝心のクリスマス当日は、あんまり何もしないそうです。

B.エストニアの場合

 ・・・おい(笑)。
 12月24日〜26日の3日間が、クリスマスの祝賀期間です。そして、やはり盛り上がるのはクリスマス・イブ。みんなで御馳走を食べるそうです。ベリボルストverivorst(ブラッドソーセージ)、肉のゼリー寄せ、スルットゥsult(ヘッドチーズ)、豚やガチョウのロースト、ザウアークラウト、ジャガイモ、ライ麦パン、自家製ビールなどが登場。

C.マレーシアの場合

 マレーシアの場合、多民族国家&他宗教国家。
 仏教徒、イスラム教徒、キリスト教徒、ヒンドゥー教徒などがいるわけですが、共存共栄ということでオープンハウスという習慣があるそうです。キリスト教徒はクリスマス、中国人は華人正月、ヒンドゥー教徒はディーパバリ、ムスリムはハリラヤプアサに家を開放するそうです。宗教や民族文化の数だけお祭りがあると言うことで、激しい対立がなければ、これほど楽しいことはないでしょう。

D.エチオピアの場合

 なんと! クリスマスは、1月7日に行われます
 そしてクリスマスには1年に1度だけの特別な競技が開かれますガンナと呼ばれる競技で、ホッケーに似ています。
 かつてキリスト生誕の知らせを喜んだ羊飼いたち持っていた鉤状(かぎじょう)の杖でゲームをはじめたのが起源という説があります。

E.グルジアの場合

 やっぱり、クリスマスは1月7日に行われます
 これは、ユリウス暦を採用する東方正教会の祭日なので、この日なのだからだとか(エチオピアは違いますよ)。また、あくまで宗教上の祭日。他の国のようにプレゼントを交換したり、あげたり・・・というのはないそうです。ちなみに、当然ながらロシアも1月7日がクリスマス。

F.イギリスの場合

 イギリスと言っても、地域によって違いますので、ここではイングランドについて。
 クリスマス当日(12月25日)の夕食には、各人の皿のわきに「クラッカー」をおくのが習慣。そして、みんなが席に着くと、一斉にクラッカーの紐を引き「パン!パン!」と派手な音を立てて祝います。そして、翌日・26日がクリスマスプレゼントを開く日=ボクシングデー。ボクシングというのは、あの殴る奴じゃなくて、ボックス(箱)のボクシング。

 昔は商人や公務員が小さな陶器の箱をもってチップをあつめにまわる習慣があったそうです。
 現在はスポーツイベントが数多く開催されています。
 そして、クリスマスから新年にかけては、商店以外の多くの事業所が休みになります。日本は12月31日まで営業、正月2日までは休み。どころか、最近では元旦も休まず営業に変わってきていますね・・・。さらに加速して、みんなが働き始めたら、どうなるんでしょう(苦笑)。ただの平日になってしまいますがな・・・。

G.ベルギーの場合

 クリスマス(12月25日)には各店舗が店の商品をつかってクリスマスの装飾をする風習があるそうです。
 つまり、パン屋はパン生地で、金物屋は道具類でキリスト降誕のシーンをウィンドーに描いて、風景に彩りを添えるのだとか。

H.ノルウェーの場合
 クリスマスは最大の休日。
 午後5時の鐘が鳴ると、みんなで御馳走を食べ、プレゼントを交換し、以後、新年までパーティーを頻繁にするそうです。

I.チェコの場合
 チェコのカトリックの慣習にしたがって鯉(コイ)の特別料理を食べるそうです。

J.バーレーンの場合
 クリスマスは、お祭り週間!!
 もちろん、イスラム教国家なので宗教的には関係はないのですが、ツリーを飾ったり、プレゼントを交換するそうで、日本にも似ていますね。

K.ブラジルの場合

 南半球ですから、12月24日・25日は真夏。
 しかし、カトリックの国なので盛大にやっちゃいます。ですから、街を歩くと水着のショーウインドーの隣に、あのサンタクロースがいるそうです。半ズボン?ちゃいます、正装できちんと鎮座しておられます。そして、雪の装飾は綿で代用します。また、ブラジルは非常に寒い冬は到来しないので基本的には雪が降りません。ですから、展示されているサンタクロースを見て、サンタは綿の中でやってくると思っている子も多いそうです。

 そしてお父さん!お疲れ様です!
 クリスマス・イブの夜には、あの格好をして子供達の靴下の中にプレゼントを入れていくそうです。暑すぎる!! いや、熱いぜ!!

○というわけで

 如何だったでしょうか。
 やっぱり、ブラジルのクリスマスだけは体験したくないですね(笑)。もちろん、服装にもそうとう軽量化などが図られているとは思いますけど・・・。
 さて、次回の雑学万歳ですが、今回のネタとガラリと変えて「郵政民営化」です。お楽しみに。

 参考文献
 マイクロソフト エンカルタ百科事典2004
 つい誰かに話したくなる雑学の本 日本社・著 講談社+α文庫  

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