郵政民営化〜何がどうなった?〜担当:裏辺金好
2007年10月に日本郵政公社が民営化され、持ち株会社である日本郵政株式会社と、その下に日本郵便(正式には郵便事業株式会社)、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4つの株式会社が発足しました。弊サイトでは民営化前に、郵政民営化について特集しましたが、その後、こまめなアップデートは無く、放置しっぱなしでしたので、民営化からしばらくたった今こそ、民営化後の仕組みと現状について、簡単に解説していきたいと思います。 (上写真:霞ヶ関の官庁街にある日本郵政ビル)
| 具体的な業務内容や、資産規模等については後述しますが、「郵便局」という建物に関しては 1.3社、もしくは4社同居タイプ 郵便局、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命が同居。 窓口業務は、かんぽ、郵便の2つを郵便局(株)が担当し、「ゆうちょ」は、ゆうちょ銀行が担当します。民営化後に郵便局に行った人は感じられたと思いますが、あくまで別会社ということで会社ごとに、仕切り壁が設置されており、4社の職員が同じフロアの中でシャッフルされないように、フロア構成が変更されています。 →ゆうちょ銀行 店舗一覧 意外とこのタイプは少なく、北海道にいたっては5店舗しかありません。また、かんぽ生命は奈良県・和歌山県は直営店が設置されないなど店舗数が非常に少なく、郵便局以外に対法人業務に特化した直営店が設置されたところもあります。 2.2社同居タイプ 郵便局、日本郵便が同居。 窓口業務は、ゆうちょ、郵便、かんぽ全てを郵便局株式会社が担当します。 なお、「普通郵便局」「特定郵便局」の区分は民営化と同時に廃止され、郵便局は全て郵便局株式会社の直営へと変更されています。 また窓口業務のうち、時間外窓口としての役割もある「ゆうゆう窓口」は日本郵便(郵便事業会社)が担当し、保管郵便物(不在で受け取れなかった郵便物)等のお渡し、各種申請・届出の受付、郵便物等の引受け、切手・はがき類の販売などを行っています。もちろん、郵便局の営業時間中は、窓口業務は郵便局株式会社に委託していますので、ゆうゆう窓口は保管郵便物等のお渡し、各種申請・届出の受付などの取扱いのみを実施しています。 では、各社の業務や組織を見て行きましょう。 日本郵政株式会社は、日本郵政グループの持ち株会社で、政府が全株式を保有。 監督官庁は、総務省。 グループ全体の基本方針を決定し、2017年までに株式上場を目指しています(政府保有株数は3分の1超になる予定)。また、ていぱーく(逓信総合博物館)や明治村内郵政資料館(宇治山田郵便局)、広島逓信病院旧外来棟被爆資料室、沖縄郵政資料センター、前島記念館、坂野記念館を管轄しています。 総資産 349兆8184億円 (旧日本郵政公社 週刊ダイヤモンド2007年12月22日号による) 資本金 3兆5000億円 (2007年10月1日現在) 職員数 約3500人 (2007年10月1日現在) *グループ全体では約24万人 郵便局株式会社は、日本郵政の100%子会社。 監督官庁は、総務省。 日本郵便、かんぽ生命、集配特定郵便局で「ゆうちょ銀行」の窓口業務を代行し、その手数料が収益源です。具体的な業務内容としては、郵便やゆうパック等に関する窓口業務、印紙の売りさばき、銀行代理業、金融商品仲介業、生命保険・損害保険の募集業務、不動産業、物販業、地方公共団体からの受託業務など(郵便局ホームページより)。 総資産 3兆3400億円 (週刊ダイヤモンド2007年12月22日号による) 資本金 1000億円 (2007年10月1日現在) 職員数 11万9900人 (2007年10月1日現在) 郵便局数 約2万4000局 (2007年10月1日現在) *全国全ての市町村に存在 郵便事業株式会社は、日本郵政の100%子会社。 監督官庁は、総務省。 郵便事業(手紙、葉書などの郵便物の集配、切手・葉書の発行)、ゆうパックなどの小包など、国際・国内物流事業を行っています。民営化によって国際物流事業に進出することが許可されたことにより、今後はアジア地域を中心とした国際エクスプレス事業への進出、国際ロジスティクス事業の展開が事業開拓の目玉として考えられています。*ロジティクス事業とは、使用者の活動目的や消費者のニーズに応じて、原材料の調達から顧客に届くまで、物流やサービスを最適化する管理活動みたいなことを指します。 また、手紙、点字郵便、定期刊行物など郵便はユニバーサル(全国均一)サービスの提供が義務づけられてます。 そして、民営化によってゆうパックなどの国内小包には郵便法を適用せず、貨物として取り扱います。 総資産 1兆9420億円 (週刊ダイヤモンド2007年12月22日号による) 資本金 1000億円 (2007年10月1日現在) 職員数 約9万9700人 (2007年10月1日現在) 株式会社ゆうちょ銀行は、日本郵政の100%子会社。ただし、2010年度に株式上場。2017年に全株式売却で、日本郵政グループから独立した、民間銀行に移行する予定です。 監督官庁は、金融庁。 日本最大規模の銀行で、郵便局ネットワークを通じて金融事業を行います。 総資産 222兆2250億円 *三菱UFJ銀行は、187.3兆円 (週刊ダイヤモンド2007年12月22日号による) 資本金 3兆5000億円 (2007年10月1日現在) 職員数 約11万6000人 (2007年10月1日現在) 郵便貯金残高 187兆円 *三菱UFJ銀行は、118.7兆円 (週刊ダイヤモンド2007年12月22日号による) 株式会社かんぽ生命保険は、日本郵政の100%子会社。ただし「ゆうちょ銀行」と同じく、2010年度に株式上場。2017年に全株式売却で、日本郵政グループから独立した、民間生命保険会社に移行する予定です。 監督官庁は、金融庁。 学資保険・養老保険を主力として、郵便局ネットワークを通じて生命保険事業を行います。 総資産 112兆8550億円 *日本生命は、51.8兆円 (週刊ダイヤモンド2007年12月22日号による) 資本金 5000億円 (2007年10月1日現在) 職員数 約5400人 (2007年10月1日現在) 保有契約高 157.1兆円 *日本生命は、324.3兆円 (週刊ダイヤモンド2007年12月22日号による)
(日本郵政公社時代の看板) ここまでは、現在の体制について紹介しました。 しかし、ところでそもそもの疑問、どうして郵便局を民営化したのでしょうか? まず、民営化前の2004年12月末時点でのデータですが、 郵便貯金預金残高:227.3兆円 VS 4大メガバンク(UFJ・東京三菱・三井住友・みずほ預金残高:225.9兆円 簡易保険総資産:121.9兆円 VS 日本生命・第一生命・明治安田生命・住友生命総資産:121.3兆円 日本の個人金融資産 1400兆円 という、民間大手を全てと同じという、巨大な資産を持つ郵政公社を民営化することで活動の幅を広げ、これまで政府部門の財政投融資等に使われていた資産を、民間部門に自由に流せるようにして、より資金が自由に市場に流れるようにします。なにしろ、この財政投融資というものによって、これまで道路公団など、特殊法人などに莫大な金額のお金が密かに流されていました。当然、多くが健全な貸付先とは言えず返済の見通しも厳しく、さらに役目の終わった特殊法人の不必要な延命と官僚の天下り先の確保にもつながってきました。
一部は既に紹介していますが、図で示すと民営化の流れはこうなっています。
その一方で、既に郵政公社時代から郵便物数の低下や、過疎化などによる集配局の削減(・・・これがまた、郵便・小包取り扱い数の減少に繋がるという話もありますけど)、定期貯金の流出(02年から06年で50兆円減)、保険・年金契約数の大幅な減少(特に保険は、02年から07年で約1500万件減)など、郵便局離れは進行中。 民間の経営感覚で事業を展開する体勢に移行しないと、近い将来に郵便事業は大赤字を抱えた巨大なお荷物組織になることが予想され、体力のあるうちの民営化と経営の効率化は必須であったとも考えることが出来ます。要するに将来的に、「民営化してよかった」となるのか、「やっぱり大失敗だった」となるのかは、これからにかかっているわけで(立場によって評価は異なるでしょうけど)、今後とも日本郵政グループの動きに注目する必要がありそうです。 場合によれば再度国有化という選択肢自体は放棄すべきではないと個人的には思いますが、前述の通り既に日本郵政公社時代から様々な問題点や、郵便局離れが進んでいるわけで、単純な国有化は再び政府信用の巨大組織を発足させて民業を圧迫し、経営感覚を無視した「全国一律」という無謀なネットワーク作り、天下り先の復活など様々な問題が噴出するでしょうし、まずはお手並み拝見といったところでしょう。 【参考文献】 日本郵政グループホームページ 政府広報オンライン 週刊ダイヤモンド 2007年12月22日号 日本の論点 2005 文藝春秋 Voice 11月号 PHP 読売新聞 2004年11月6日 週刊エコノミスト 2004年12月26日特大号 |