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第136回 裁判員制度って何ですか?

担当:裏辺金好


○はじめに〜裁判員制度って?〜

 今回は、ムスタファ顧問より「そういや、裁判員制度って意外といつから何をする制度なのかって、みんな知らないよね? 特集してみたらどう?」「オッケーです。じゃあ、来週にでも書きますわ」「さすが所長、早いなあ」・・・と誉められたにもかかわらず、1ヶ月後に原稿を書くことになった、裁判員制度についてです。 
 
 前置きが長くなりましたが、裁判員制度ってのは「一般の市民が、裁判官と一緒になって評議・評決を行う制度」
 根拠となる法律は、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(平成16年5月28日公布)。
 2009(平成21)年5月までにスタートします。スタート後は、次に紹介する事件の「第一審」、つまり地方裁判所レベルのみ担当し、その裁判では裁判官3名+裁判員6名で構成します。控訴審(高裁や最高裁)まで裁判員がつくわけではありません。

 なお、被告がチョ〜怖い人などで、裁判員とその家族・親類が被害を受ける恐れがある事件は、裁判官のみで裁判を行うことになります。


○陪審員や参審員とは違うの?
 国によって制度は微妙に異なりますので、一概には定義づけできませんが
 陪審員・・・市民から選ばれた陪審員だけで、事実の判断と、それに基づく有罪・無罪を決定。
        ただし、量刑は裁判官が決定します。
        なお、陪審員は事件ごとに選ばれます。主に、アメリカ、イギリスで採用。
 参審員・・・職業裁判官と市民から選ばれた参審員が合議して裁判を行い、裁判官と参審員は同等の権利があります。
        なお、参審員は任期制ですので、その任期が終わるまでは、幾つかの事件を担当することになります。
        主に、フランスやイタリアで採用。

 というわけで、日本の裁判員は両方をミックスしたような形です。

○裁判員は、どんな事件を担当するの?

 何でもかんでも担当するわけじゃないですよ。基本的には殺人や傷害関係の刑事事件ですね。

 A 殺人
 B 強盗致死傷・・・強盗して人を殺害、もしくは怪我を負わせる
 C 傷害致死・・・人を怪我させてしまったり、殺してしまう
 D 危険運転致死・・・泥酔して自動車を運転し、死亡させる
 E 現住建造物放火・・・人が住んでいる家に放火する
 F 身代金目的誘拐
 G 保護責任者遺棄致死・・・子供に食事を与えず、放置させたために死亡した場合  


○専門知識が無くても大丈夫?

 ・・・と書けば、政府官公庁、弁護士会関連では「裁判官が”わかりやすく”説明から大丈夫」というお題目が発表されていますが、裁判官だって説明の上手、下手は当然ありますし、こういっては失礼ですが、どれだけ噛み砕いて説明しても解らない人ってのは出てきます。本当に大丈夫なの?・・・と個人的には思います。


 ところで、具体的に裁判員はどんなことをするのでしょう?

 基本的には、検察側、弁護側の提出する資料を基に
 「果たしてこの人に殺人は可能だったのか?」
 「この件について、この人に責任はあるのか?」
 ・・・という、その事実があるか無いかを判断し、もし有罪ならどんな刑にするのが妥当か?と、いうのを裁判官と一緒に評決します(多数決。ただし、裁判官,裁判員のそれぞれ1名以上の賛成が必要)。ちなみに、具体的に懲役●年にするのかどうか、という量刑は裁判官が決定します。

 ともあれ殺人事件や傷害事件など刑事事件が主ですから、民事事件・・・例えば、土地の境界線がどうしたとか、離婚や親権問題とか、ものすご〜く細かい法律知識を要求されるものとは無縁です。その点についてはご安心を。でも、「死刑が妥当だな」と判定するというのは、かなり勇気がいるような気もします。


○どうやって裁判員に選ばれるのですか?

 毎年、選挙人名簿の中から抽選で裁判員候補者名簿が作られます。名簿に載った人には、「来年、裁判員に選ばれる可能性があります」という連絡があり、この中から事件後とに裁判員が選ばれるわけです。


 てなわけで、これからは20歳になって選挙権が手に入ると、裁判員になる可能性も出てくるわけです。

 なお、裁判員として裁判所から呼び出しを受けたら、指定された日時に裁判所に出頭することになります。
 そこで、裁判官が質問をして、あなたが裁判員にふさわしいかどうかを最終判断することになります。

 なお、これまでは1ヶ月単位で次の裁判を実施・・・なんてことをしていたので、なかなか裁判が先に進みませんでしたが、裁判員制度に伴い、あらかじめ公判の準備をしっかりやることで、連日公判が開かれ、スピーディーな判決が出ることになります。多くの裁判が数日で終わる・・・とのことです。

 また、ボランティアで裁判員をやるわけじゃないですよ。
 きちんと日当や交通費も支給されますし,裁判所から家が遠いなどの理由で宿泊しなければならない場合は宿泊費が支払われます。


○辞退は出来ないんですか?

 そうは言っても、どうしても「無理無理!」という人もいるでしょう。
 そこで次の理由であれば、裁判員を辞退することができます。

(1) 70歳以上の人
(2) 議会が会期中の地方自治体の議員
(3) 学生・生徒
(4) 過去5年以内に裁判員か補充裁判員になったことがある人
(5) 過去1年以内に裁判員候補者として裁判所の選任手続に出頭したことがある人
(6) 過去5年以内に検察審査員やその補充員になったことがある人
(7) 重い病気やけがで裁判所にくることが困難な人
(8) 介護や養育がなければ生活が困難な家族がいて、その家族の介護や養育を行っている人
(9) 仕事で重要な用があって、自分でしなければ大きな損害が生じるおそれのある人
(10) 父母の葬式への出席など、他の日にかえることのできない社会生活上の重要な用事がある人
などです。


 9番、10番がミソだなあ・・・。結構この辺で辞退できそう(笑)。


○裁判員になれない場合はあるのですか?

 一方、そもそも裁判員になれない人も定められています。
(1) 中学を卒業していない人(同等以上の学識を持つ人は除く)や一定の前科のある人など
(2) 国会議員や国務大臣
(3) 裁判官や検察官、弁護士など、裁判所にかかわる仕事をしている人
(4) 都道府県知事、市町村長など
(5) 犯罪の疑いがかけられていてまだ判決が確定していない人
(6) 訴えられた人(被告人)や被害者の家族や親戚など、その事件に関係する人
(7) その他、裁判所が、不公平な裁判をするおそれがあると認めた人
 

○アメリカの陪審員制度はどんな感じ?

 さて、良く比較に出されるのはアメリカの陪審員制度。
 冒頭、日本の裁判員制度とは違いますよ、と書きましたが、さてどんな制度なのでしょうか。

 そもそもアメリカの陪審員制度は、イギリスによる植民地時代、
 「本国に有利な判決をおこなう裁判官に対抗して」
 設置されたのを起源とします。自分達のことは自分達で決めるぜ!というわけですね。そして、独立後に「陪審裁判を受ける権利」として、陪審員制度が合衆国憲法にも規定されました。現在は刑事事件のみならず、民事事件にも陪審員制度は取り入れられています。ただし、「陪審裁判を受ける権利」ですので、被告が「それは不要だ」とすれば、陪審員は登場しません。

 さて、こうしてスタートした陪審員制度ですが、州によって多少異なっています。
 が、大体の場合は12人からなる小陪審が、被告人の有罪・無罪を評決します。英語で言えば、ギルティ・オア・ノットギルティ。
 その根拠となる理由は示されず、ただギルティ(有罪)になった場合は、ここで初めて裁判官が「懲役10年」などの量刑判断を下します。

 つまり日本と違って、完全に市民だけで有罪か無罪かを判定するのです。うへっ。
 なお、この有罪・無罪の判定に当たっては陪審員の全員の意見統一が必要とする州(不一致だと、新たな陪審員が選ばれてやり直し)と、多数決とする州に別れているようですね。ちなみに、この陪審評決は絶対であり、検察側が「不服だ」として控訴することは出来ません。また、被告側も事実認定を不服として控訴することは出来ません。

 そのため、陪審判決が出てしまうと、仮に冤罪(俺は本当にやっていないんだ!)としても救済の手段が無くなるのです。日本は逆に、裁判員の評決がどうであれ、どうせ高裁、最高裁で職業裁判官がいつも通り判決を書くわけですので、う〜ん、これはこれで裁判員制度の意味があるのか、ちょっと疑問??(それでも、一般の人が読んでも解りやすい判決になるという期待はされています)


 なら、高裁や最高裁でも裁判員を付ければいいじゃないか、という意見もあるでしょう。
 それも1つの手段だとは思いますが、裁判員というのは、もしくは陪審員というのは市民の代表です。その市民の代表が行った評決を、別の市民代表が「くつがえす」というのでは、どっちが市民の代表やねん!となりかねず、ここがジレンマですね。ま、日本の場合は、控訴審の裁判官が市民の代表の評決を「そりゃ違うぜ」とくつがえした場合も「市民代表の評決は間違いですよ」とケチをつけるわけですから、これも気持ちが良いものではないでしょうが・・・。

○戦前の陪審員制度〜日本〜

 ちなみに、日本も戦前には陪審員制度がありました。
 1923(大正12)年に陪審法が公布されたことにより、1928(昭和3)年から刑事事件に陪審制がとりいれられたんですね。あくまで、「陪審員」制度ですから、やはり陪審員による評決は絶対で、控訴は出来ません。・・・ただし、裁判官が気にくわなければ、何度でも別の陪審員に陪審をさせることが出来る点がアメリカとは異なります。

 ともあれ、被告としては
 1.裁判官の意向に添った評決が出てくるまでやり直しの上、控訴も出来ない。
 2.陪審員に選ばれるのは、国税3円以上の納税者で全有権者の1割強にすぎない富裕層
 3.被告が陪審を請求して有罪になった場合は、陪審費用を負担
 と、少なくとも貧乏人に不利益な陪審制度でしたので、あまり活用されませんでした。
 それでも、1942年までに484件の評議があったそうなんですけどね。

○おわりに

 さあ、いよいよスタートする裁判員制度。
 個人的には正直、「本当に出来るのかなあ?」「市民感覚というけれど、市民って何だろうなあ?」と疑問というか、別に裁判員制度を始めてくれなんて望んでないのになあと思いますが、始まるからには、より司法が身近で、だからと言って身近になりすぎて、年中訴訟だらけの裁判社会にはならないように祈念するばかりです。

 ・・・あと、裁判員になったため、たとえ会社に解雇はされなくても、現実に自分の目の前にある仕事と両立できるのか・・・。
 不安でいっぱいの裁判員制度です(まあ、選ばれる確率は非常に低いですけどね)。

 さらに詳しく知りたい方は、
 最高裁判所 裁判員制度 http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/work_and_role.html
 日本弁護士連合会 裁判員制度 http://www.nichibenren.or.jp/ja/citizen_judge/index.html

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