裏辺研究所 雑学万歳 > 第143回


第143回 ウナギ万歳!でも土用の丑の日って何?

担当:裏辺金好



○よく使う言葉だけど、どういう意味よ。


 ウナギ(鰻)を食べる習慣があることでおなじみの、土用の丑の日。
 あったりまえのように使っていて、夏が来ると「土用の丑の日だ、ウナギを食べよう」とPRされていますけれども、はてさて、そもそも土用の丑の日ってどういう意味なんでしょうか。土用って・・・土曜?はてはて。というわけで、ウナギを食べてスタミナをつける夏に書いておりますこの原稿、ちょっと意味を調べてみました。

○土用って何?

 そもそも土用とは、どうやら古代中国の自然哲学である五行思想(全てのものは木、火、土、金、水の 5 種類の元素から成る)をベースにした考え方。すなわち、春=木気、夏=火、秋=金、冬=水と季節にそれぞれ4つの元素を当てはめたのですが、そうすると「土」があまってしまう。そこで、「土」というのは季節の変わり目のことじゃ〜、と定義されたわけでございます。

 てなわけで、土用というのは夏に限らず季節の変わり目全般を指し、約18日間だそうです。
 一般的な夏の土用の場合、もちろん立秋の前18日の期間のことです。

○丑の日って何?

 まず丑というのは、十二支(じゅうにし)と総称される、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥・・・の、丑のこと。
 今や、「今年の干支」ぐらいにしか登場しませんが、かつては1日ごと、それから時間にも適用され使われていました。
 というわけで、土用の丑の日は・・・季節の変わり目である18日間にある、丑という日でございます。

 ちなみに土用が18日間であるのに対し、十二支は12個しかありません。そのため、この18日間の間に「丑の日」が2回登場することもあり、夏の土用の丑の日は、年によっては1日だけではないこともあります。すなわち、正確には、土用という期間のスタートが「申から丑の日」の間であった場合は、丑の日は2回順番が回って来るわけです。

 ですので、2006年は7月23日と8月4日が、夏の土用の丑の日に当たります。
 ちなみに次回、夏の土用の丑の日が2回やってくるのは2008年で、7月24日と8月5日です。

○土用の丑の日はいつから始まった?

 さて、夏の土用の丑の日・・・面倒なので、ここからは単に「土用の丑の日」と書きますが、この日にウナギを食べるようになったのは、江戸時代。
 「暑い夏の日では、ウナギが売れなくて困ってるよ〜」
 と知人の鰻屋に相談された蘭学者、平賀源内(1728〜1780年)。現在の職業でいえばコピーライターのような才能もあった彼は、宣伝文句を考えます。
 「本日、土用丑の日」
 と、張り紙を出させます。「丑の日」と「ウナギ」、語呂がよかったんでしょう。この宣伝文句は大ヒットし、商売繁盛!
 以後、土用の丑の日にはウナギを食べる習慣が普及しました。
 実際には江戸時代の雑学帝王である平賀源内のこと。「夏にウナギを食べると、夏バテしないんですよ」なんて知識も披露し、「源内先生が言うことであれば間違いない」と、販売促進になったと思われます。

 ちなみに別の説では、江戸時代の歌人・作家である大田南畝(蜀山人)(1749〜1823年)が「神田川」という鰻屋に頼まれ、「土用の丑の日に、ウナギを食べたら病気にならない」という内容の狂歌を作って宣伝し大ヒットたとか。別の説というよりも、同じようなことを考える人は一人ではなかったのかもしれませんし、二人は知り合いで、大田南畝の出世作『寝惚先生文集』(1767年刊行)に源内が序文を寄せているぐらいの仲ですから、あらかじめ情報を共有していた可能性もあります。

 ちなみに、栄養価の高いウナギを食べれば夏の暑さにも負けない!
 ということに気がついていたのは、なんと奈良時代の歌人、大伴家持。彼は万葉集に
 「石麿呂に 我れ物申す夏痩に、よしというものぞ 鰻捕り喫せ」
 と記しています。平賀源内にしろ、大田蜀山人にしろ、こうした故事も踏まえていたのではないかと思います。源内の場合、もしかしたら友人で医者の杉田玄白あたりから知識を仕入れていたのかもしれないですけどね。

 なお、肝心のウナギの栄養素ですが。
 ビタミンAが、100gあたり5000IUほかの魚介類よりも群を抜いて豊富(ちなみに、生カツオは17IU、和牛は10IUと大幅に数値が少ない)。がん細胞の分裂を抑えたり、のどや鼻などの粘膜を健康に保つ働きがあります。夏バテのみならず、かかるとなかなか直りにくい夏のカゼ防止にもGOOD!!

○冬の土用の丑の日もウナギを食べよう

 さて、土用の丑の日というもの自体は、夏に限ったことではないことはお伝えしましたが、では冬にウナギを食べるのはどうでしょうか。
 と、提唱しているのが長野県岡谷市。「うなぎのまち岡谷」をキャッチフレーズにする同市では、寒の土用丑の日として、この日にウナギを食べることをPRしています。実際、ウナギは冬のほうが脂がのっていて美味しいそうで、ぜひ積極的に食べてみようと思います。

 なお、かつての岡谷市は天竜川を遡上(そじょう)して諏訪湖にやってきた天然のウナギが多く獲れたとか。
 しかし、天竜川にダムが出来てそれもかなわなくなったのは、なんとも残念な話です。

棒