妖精、デュラハン、タランチュラ・・・真実の姿に迫る!

担当:八十八舞太郎

○はじめに

 プレイステーション3にWii、XBox360…、実質的に「ファミリーコンピューター」から始まった家庭用ゲーム機は未だに進化を続けています。それに伴い、ゲーム自体もプレイヤー自らがゲームの世界に参加していくといったような、新しい領域の作品も現れ、まだまだ終着駅は遥か先のようです。


 さて、ゲームの華といえば、自分たちが生きている世界とは異なる「ファンタジー世界」をもとにしたもの。人間とは異なる異形のモノが溢れる世界。時にプレイヤー達の前に立ち塞がる恐ろしい敵となり、時には自らを導き助ける役割を果たしたりと、人知を超えた様々な「力」を発揮するこの存在は、ファンタジーものの大きな魅力です。

 しかしこの異形のモノたちの多くには意外にも「元ネタ」があり、面白いことにそれはファンタジー作品中に出てくる「それ」とは全く趣を異にするものも存在します。今回はそのようなファンタジー作品に登場する異形のモノの中から、美しい美少女といった趣のある「妖精」、首の無い恐ろしい騎士「デュラハン」、実在はしますが、虫系型怪物の代表格「タランチュラ」、この3つの「真実の姿」について調べてみようと思います。


1.妖精はそんなに綺麗なもんじゃない

 一言「妖精」と言った時、すぐに脳裏に浮かぶのは綺麗な少女の姿をした、羽根の生えた小さな精霊でしょう。実際様々なファンタジー系小説やゲームの中では、このような姿で登場することが殆どです。しかしながら、ただ単に「妖精」と言った場合その種類は実に豊富で、実のところ先述のような妖精はごくごく少数しか存在していないようです。また、作品の主人公に助言をしたり導いたりという姿も多くみられますが、これも一面的な姿でしかありません。人に災いをもたらすような妖精も少なくなく、場合によっては生命を奪ってしまうようなものも多いとか。


 代表的な名前を挙げると「ゴブリン」がそうです。一般的にはモンスターとして真っ先にプレイヤーに叩かれるのが宿命のような存在ですが、これも「妖精」の仲間になります。ただしこのゴブリンという妖精、人の役に立つどころか非常に悪戯好きな存在で、道しるべの向きを逆にする、台所を荒らす、果樹園の果物を落とすなどのことをするそうです。


 また、一般にイメージする妖精の姿は「エルフ」と呼ばれる、人に近い姿形をした妖精なのですが、これも実は非常に恐ろしい存在です。元々人間とは違う世界に居る存在である彼、彼女らは、時として人間を誘惑し、妖精界に連れ去ってしまいます。その人間は人間界に帰ることもできずそこで一生を過ごし、運良く帰れても狂人となってしまうそうです。また、エルフの機嫌を損ねた者は、一瞬にしてその生命を奪われてしまう、という言い伝えもあります。

 一方で、エルフの機嫌を取った人間が、一生の幸福を貰ったという話もあるので、一概に邪悪な存在ではありません。

妖精というのは一般に想像するような綺麗な存在であるだけでなく、時として人に取り返しの付かない不幸をもたらし、最悪死に至らしめるという恐ろしい存在でもあります。もっとも、その両義性が妖精を妖精たらしめている最大の魅力で、今日まで人々に様々なインスピレーションを与えている要因であるとは思いますが・・・。


2.実は「萌え」だった?デュラハン

 RPG作品に良く出てくるこの怪物は、かなり有名なモンスターでしょう。
 自身の首を脇に抱え、同じく首の無い馬に跨った騎士の姿、を想像する人が多いと思います。

 私もそうでした…が、調べてみるとこの一般のイメージとは全く異なる、驚くべきデュラハンの正体が…。


 デュラハン(Dullahan)は主に北欧…特にアイルランド地方で語られる伝承に登場する、上記にある「妖精」の仲間で、
自分の首を片手に持った「女性(←これ最重要)」の姿で現れるそうです。同じく首の無い馬「コシュタ・バワー(Coiste-bodhar)」の引く馬車に乗って夜の街に出現し、近い内に死者の出る家の前に止まります。そして、家人が家の戸を開けると、盥一杯の血を顔に浴びせかけて去っていくそうです。なんとメイワクな。

 一部地域では首の無い騎士として言い伝えられていますが、基本的には同じく「死を予告する存在」であります。現在はこちらのイメージが圧倒的多数ですが、本来は先述の女性の姿をした方が一般的だということだそうな。


 デュラハンは人目につくのを嫌うため、街中で出くわすとどこまでも追い掛け回してきます。それこそ何かのコントのように、行く先々に先回りして待っている、な感じで。これから逃げるためには、河に掛かっている橋を渡って逃げると良いそうです。コシュタ・バワーは流れる水を嫌うため、そこから先に進めなくなるんだとか。知っておくと役に立つかもしれません。いや、立つかよ莫迦。


 なお、このデュラハンはあくまでも「妖精」なので、現在の一般的な認識である「アンデッド」ではありません。念の為。
しかしあのデュラハンが実は女性の姿をしていたなんて…ここは一つ、誰か最近巷で色々言われている「萌え」なデュラハンの絵を描いてくれませんか(笑)

 我こそは、という人は是非研究室に連絡を。


3.死を招く踊り…タランチュラとその真実

 RPGゲームなど敵として出てくる場合は、主に主人公たちがあまり鍛えられていない序盤に登場することが多い気がします。ゲームの世界のみならず、その異様からクモは多くの場合「害虫」として認識されます。家の中にいると、知らないうちに壁に大人の掌ほどもある大きさのクモが居座っていて、悲鳴を上げた人も多いかと思います。

 見かけたら問答無用で叩き潰す、ということも多いのでしょう。


 モンスター的なクモ、と言ったときに最初に脳裏に浮かぶのは「タランチュラ」ではないでしょうか。
 毒々しい色をしていて、噛み付いた人を死に至らしめる…というのが想像される姿かと思います。
 この「タランチュラ」という名前は、噛まれた者が毒によって狂ったように踊り出し、やがて死んでしまうという逸話から来ているそうです。また一説には、死を免れるためにはこの踊りを踊り続ければよい、という伝承もあるそうですが、真偽のほどは不明。

 いずれにしろ、この激しい踊りを伝承の伝わる地方の名を取って「タランテラ」と呼び、それがこのクモの名の由来になったそうです。もっと詳しく説明すると、「タランチュラ」という名前は特定のクモを指すものではなく、クモの中でも「オオツチグモ科」に属する種族の総称だそうです。その種類は数百種にも及び、生息形態などによって更に「バードイーター」「ツリースパイダー」などといったカテゴリ分けがされています。

 また、本来クモは臆病な性質なので、モンスターのように積極的に人に襲い掛かることはなく、人を死に至らしめるような毒を持つものも極稀だとか。近年はそれに加え、環境の変化に強く、非常に小食(週1回の食事でも平気)で扱いやすいことから、ペットとしても人気なのだそうです。

 因みに日本で見られる最強のGハンター「アシダカグモ」は「タランチュラ」の種類ではありませんのでご安心を。

 いずれにしろ、クモは人間側からちょっかいを出さない限りは害のない生き物です(精神ダメージは甚大でしょうが)。
というよりむしろ、ハエや蚊、ゴキブリといった害虫を片っ端から退治してくれる良いヤツでもあります。見かけてもゲームのように叩き潰さず、そっとしておいてあげるのがよいでしょう。


※それでもクモが死ぬほど苦手な人のために
 まず絶対にクモを「殺して」はいけません。
 クモが居なくなる→天敵が居なくなったので餌となっていた虫が増える→それを求めてクモがまたやってくる
 …という悪循環に陥りかねません。

 クモを駆除するときは、その餌となる生物から除いていくのが一番でしょう。
 常に部屋を清潔にしたり、スキマをなくすなどして、カやハエ、ゴキブリが出現しにくい環境を整えれば、自然とクモも居なくなっていきます。また、先述のようにクモは臆病なので、人が居る、ということをアピールし続け(照明とか音とかで)れば、それに脅えて逃げていきます。


 自分たちが小説やゲームの中で知っている異形のモノたちは、その原点を辿ると意外にも作中とは全く違う存在であった、ということは多くあるでしょう。自分が気になった異形のモノについては、文献などでちょっと調べてみるのも面白いのではないでしょうか。作中とはまた異なる彼らの「真実の」姿が見えたとき、私たちは更に幻想の世界により深く入り込めて行くのかもしれません。


参考文献
「妖精」 著・草野巧(新紀元社)
クモ属の特徴について Wikipediaの記述を参照
など
棒