鉄道ローカル線の切り札?DMVを徹底紹介

担当:裏辺金好


○はじめに

 今回はJR北海道が開発したDMV(デュアル・モード・ビークル)を特集します。
 これは線路と、道路の双方で運転することの出来る乗り物で、これまでの公共交通の常識を大きく変え、特にローカル線の活性化に貢献することが多くの自治体、鉄道事業者から寄せられています。

 



 現在、DMVはJR北海道で試験的営業運行が行われていますが、その写真をkenura様より投稿していただきましたので、DMVについて写真と共に色々と御紹介していきましょう。

1.DMV誕生までの歴史

 そもそも、線路と道路の双方を走ることが出来る乗り物が合ったら便利・・・というのは、前々から考えられていたことで、約70年前のイギリスやドイツでも開発が進められていました。しかし、これは実用化にいたらず。さらに日本では1960年代に、日本国有鉄道こと国鉄がアンヒビアン・バス(*アンヒビアンとは、英語で両生類の意味)043形を開発したことがあります。これは、西ドイツで実用化されていたもので、現在の三菱ふそう製R-480形をベースに製作されました。

 ところが、線路を走行するモードに変更するときは、鉄道の台車の上にバス車体を載せるという方式であり、それはもう手間がかかかるもの。そこまでするのだったら駅前で鉄道からバスに乗り換えてしまえば良いだけの話で、結局は実用化されませんでした。
*参考&写真:ホビダス 消えた車輌写真館 http://www.hobidas.com/blog/rail/photo/archives/2006/04/0432001.html

 一方で、線路を走る自動車としては保線や架線保守用の車両として実現し、各地で使用されています。

 例えば、上写真みたいなやつですね(写真は小田急電鉄の架線保守用作業車。筆者撮影)。ちなみに、ジャッキで車体を持ち上げて線路に載せるという手間がかかります。ともあれ、そんなわけで、別に線路上を走る自動車自体は、今回が初めてではありません。

2.JR北海道のDMV

 そうした経緯を踏まえ、JR北海道は2004年にDMVを開発しました。これは、日産のシビリアンというマイクロバスを改造したもので、まずは1両(901号)が登場し、両生類のサンショウウオから「サラマンダー」と命名。日高本線と札沼線で試験が開始されます。また2007年には、静岡県の岳南鉄道に貸し出されて試験が行われたこともありました。

 そして、2005年には背中合わせで2両連結を可能にした、911号、912号が登場。
 こちらは新規に製造したもので、「U−DMV」と呼ばれ、今回写真で紹介しているのは、全部こちらです。今のところ、1両単位で試験営業を行っています。

 さて、このDMV。
 GPSによる運転システムと運転保安システムが基本。そして、道路を走るためのゴムタイヤと、線路を走るための金属車輪の2種類を最初から装備。道路上では金属車輪は格納されていますが(先頭部のボンネット形状は、金属車輪を格納するため)、線路上では前輪の金属車輪が線路に降りてきて、前輪のゴムタイヤを浮かせて役割を交代。一方、後輪は金属車輪が線路と接触するのはもちろん、後輪のゴムタイヤが駆動輪として活躍します。

 というわけで、前後の金属車輪は線路を走るためのガイド的役割で、後輪のゴムタイヤが駆動するわけです。



 道路←→線路の、走行モード切替は線路と道路の切り替えポイントに設置されたガイドウェイを利用することによって、DMVを上手く線路上に誘導し、その間に線路と車輪の位置合わせがスムーズに行われます。なお、モード切替は運転席右上の切り替えスイッチをワンタッチすると実行されます。10〜15秒で金属輪が出てきて、前輪のゴムタイヤが浮きます。

 駆動装置はバスのものをそのまま流用し、フロントのディーゼルエンジンで後輪のゴムタイヤを駆動する方式です。ちなみに、タイヤはスタッドレスタイヤ。線路上を走行するときに、後輪が滑らないように対策がされています。さらに、後輪は金属輪とゴムタイヤ双方の負担を軽減するため、後部の金属輪にかかる荷重を走行状況に応じ、40〜64%の間で可変させているのも特徴です。
 *ただし、この機能は最初に登場した901号にはありません。

3.DMVのメリット

 線路上では渋滞とは無縁のため、鉄道の利点である定時輸送が実現できます。また、中心市街地や公共施設、観光名所、空港などが駅から離れていても、そのまま直通することが可能であるのが最大の魅力です。さらに、仮に鉄道が天災などで普通となっても、バスとして沿線を走ることが出来るため、完全に運休という致命的なダメージを防ぐことが可能。

 そして注目のお値段ですが、鉄道車両と比べればはるかに安く、現在のところ改造費も含めて1両2000万円。もっとも、バスに比べれば高いので、この辺は考えどころでしょうか。それでも、燃費は鉄道車両のは4分の1、重さは7分の1と、大変魅力的です。

4.DMVのデメリット

 ところが良いことばかりではありません。
 例えば、たしかに線路上では定時輸送が出来るかもしれませんが、道路上では渋滞に巻き込まれることもあり、それが通常の鉄道車両による輸送にまで悪影響を与えてしまう可能性があります。そのため、あまりにも距離の長い路線設定は控えておいた方が無難でしょう。


 それから、現在のDMVはマイクロバスを改造したものであるため輸送力が小さいのが難点。今回紹介しているDMVは定員は28名しかない上に、鉄輪や油圧装置などをつけたため、重量の関係で道路上は定員17人が上限だとか。そのため、鉄道区間で多くの乗客が乗り込んできた場合、さばききれない恐れがあります。


 また、通常の鉄道車両とは車体の高さが異なっているため、駅では専用の乗り場を設置する必要性も出てきます。


 安全面では、鉄道車両とDMVが衝突事故を起こした場合、DMV側に大きなダメージが出ることも予想。また、鉄道車両に比べて軽いため、既存の鉄道の安全装置(信号や踏切のシステム)がきちんと動作してくれるかも不安だったりします。まあ、これは少しずつ改良が進められていくことでしょう。

 あと個人的には速度の問題もあると思います。現在、試験営業で使用されているDMVの最高速度は70km/h程度で、鉄道車両としてみると比較的遅い部類に(営業運転では、さらにゆっくりとしたスピードです)。これでは、駅構内での鉄道とバスの乗換えをスムーズに改良したほうが便利では?という気もするわけで、解決すべき課題の1つではないでしょうか。


5.試験的営業運行

 2007年4月14日〜6月30日までの土日と、5月1日・2日、JR釧網本線の浜清水駅→藻琴駅で運転中。行きは線路の上を走り、帰りは国道244号を使って浜清水駅前へ戻ってきます。所要時間は往復約1時間程度。ちなみに現在のところ、道路上はバスの運転士が運転しないといけない上、このエリアはJR北海道はバスを担当していないため、網走バスが国道区間を担当。JR北海道の車両ですが、車体には網走バスと表記されているのも特徴です。



【参考文献】
鉄道ジャーナル2007年7月号 DMVの素顔
鉄道ファン 2005年7月号
鉄道ファン 2005年12月号
【参考サイト】
JR北海道ホームページ DMV(デュアル・モード・ビークル) http://www.jrhokkaido.co.jp/new/dmv/
今すぐ!!北海道のニュースサイト BNN [Brain News Network] http://www.bnn-s.com/news/05/04/H20021022549.html

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