自然災害から出来た地名
担当:氷川雨水+裏辺金好

1.自然災害と地名(by氷川雨水)
 地名はそもそも、その土地の地形や、特産物、生息する動植物、幕府や藩の行政機関、神社や城といった建物、住んでいた人々の職業身分、および出来事などに由来していることが一般的です。

 つまり、地名にはその土地の地理歴史が集約されていると言ってもよいでしょう。
 今回はその中でも自然災害から名付けられた地名よくつけられる『音』に注目してみましょう。

 まず、河川の氾濫があった場所。 扇状地ではアオギ、シバ、イノ、イノウ、ソネ、ワダ、ハヤシ。
 谷地、低地ではサクラダニ、サコ、ソウタ、ナベ。
 平地ではヒロ、アサヒ、キライ、エダ、イマイ、ナガレダ、カマ、ヒジ、フケ、ミスキなど。

 高潮、津波などがあった場所はヒロ、カガ、カチ、スカ、フクラ、アマベなど。
 地すべり、土砂崩れなどは、ホケ、フキ、アナ、クラ、カキ、ウメ、ナベ、フタ、クレ、タイ、アソなど。

 表記は意味に関係なく、音だけで漢字が当てられることが多いのであまり参考にならないようです。また、新興住宅地に多い「〜〜台」や「〜〜ヶ丘」「〜〜野」などは不動産業者が勝手に命名したものであることが大半ですので、これも当てになりません(そのうち行政上の地名に昇格することもありますが)。なお、例として東京に多い「富士見台」「ふじみ野」「ひばりヶ丘」。

 もちろん、「こうなっていることが多い」程度のものですので、このような音を持つ地名でもそんな事実は無かったかもしれませんし、その逆も然りです。

2.自然災害と地名(by裏辺金好)

 この他、まさにそのまま災害を表した地名もあります。
 例えば神奈川県秦野市にある震生湖(しんせいこ)。関東大震災で、市西部の渋沢丘陵の一部が崩れたため、谷川の一部がせき止められ、湖が発生したことに由来しています。

 では、実際の例で見ていきましょう。

 例えば、氷川相談役が土砂崩れであげた「クラ」は、自然災害に由来する代表的な地名です。例として長野県、妙高山の麓にある赤倉。新潟県十日町市や東頸城郡などにも、赤倉と呼ばれる土地がいくつかあります。クラ関連では、大倉という地名もあります。こちらは、新潟県だと佐渡や西蒲原、コシヒカリで有名な魚沼地域に数カ所あります。もともとクラとは急斜面を表し、非常に危険な場所。そこから、崖崩れなどの災害に起こった土地に付けられたと考えられています。

 今では様々な対策がとられているので、クラの付く地名でも非常に安全で、災害など起こりそうにない場所もあります。しかし、そこは昔、崖崩れなどで多くの人を苦しめたという歴史があることが、地名から解ると言うことです。土地を買うときなんかは要注意ですね。ただし、先ほども述べましたが、当て字や、合成で出来た地名もありますので、あくまで目安と言うことで。

 あと、「タイ」。これは緩い傾斜地、扇状地、低湿地を表します。
 平地の例であげられた「イマイ」は、今井と表記されることが多く、新しい水路、あるいは堰(せき)を表し、そこから出来た集落に付けられます。自然災害から守るために造る物ですね。日本各地に存在しています。

 そうそう、当て字と言えば演歌でも有名な伊豆の天城(あまぎ)峠というのがあります。一説によると、「あま」とは雨に由来しているものだとか。ここも、雨という自然災害に悩まされていたようです。

  意外なところでは「クサ」というのにも要注意。クサとは、もちろん「草」のことですが、この場合は枯れ草(しかも悪臭を放っている)を表します。何故草が枯れるか、それは湿地だからです。例えば、鹿児島県に川辺郡川辺町小野字草場という地名があり、実際にここでは1993年の台風13号により、土石流が発生、9名の犠牲者が出ました。

 この他、千葉県浦安市に若草という何とも綺麗な名前がありますが、これも自然災害の「クサ」。大正6(1917)年、9月30日に浦安をおそった台風による2メートルの高波によって、多くの人が流され、死者44名、こわれたり流されたりした住宅は1800戸という被害を受けています。

 またリュウ=「」にも注意。なんだか縁起がよいと思っていたら、実は語源が「流」にあったりします。そう、土石流の「流」です。代表例として福井県の九頭竜(くずりゅう)川。これ、九頭の竜に見えるほど、川がグチャグチャに氾濫したというわけでしょう。

 それからシバ。・・とりゃ、ですが、これも川の近くにあった地名で、ここも災害が起こりやすい場所です。
 なお、注意しないといけないのは、男はつらいよの主人公、寅さんの故郷葛飾区柴又。「柴又」ってわけで、これもそうなのか?と思いきや、違います。奈良東大寺の正倉院に保管されている「養老五年(721)下総国葛飾郡大嶋郷戸籍」に「嶋俣里」の記載があるように、この「嶋俣(しままた)」が「しばまた」に転訛したものです。ただし、この嶋俣自体は、、「嶋」はデルタ地帯に形成された島状の地形をあらわし、「俣(また)」とは河川が合流する地点を意味していて、自然災害と無関係ではありません。

 なお、嶋俣以降、ここの地名は柴俣、芝又、芝亦、柴亦と変遷し、江戸中期以降、柴又となりました。

3.ウメと大坂(by裏辺金好)
 次に「ウメ」。梅という字が当てられることがしばしばですが、これは埋め立て地のウメ。しかも、人工・・ではなく地滑りで埋まってしまった場所です。もちろん、「梅」自体は、この他にも色々な意味で使われていますので、単純に自然災害と結びつけてしまうのも早計です。

 そういや、大阪市の大阪駅前は「梅田」という地名がありますね。これは、地滑りではありませんが、元々は湿地帯だった場所を埋め立てました。その後、田畑として利用されていましたが、明治7年に東海道線の大阪駅が開業。その後私鉄も隣接して梅田駅を建設し、大発展。ビジネスなどの一大拠点へと変貌しています。そうそう、なんで大阪駅と梅田駅が併存しているのか疑問の人もいると思いますが、つまり、大阪駅がある場所は「梅田」という地名であるはずの場所なのです。あくまで大阪市という広い行政区分の玄関であるから、国鉄・JRは大阪駅を名乗っています。

 話がずれますが、それでは大阪とは本来どこを表すのでしょうか?そしてどう由来しているのでしょうか?
 もともと、大阪城のすぐ南にある難波宮が表すとおり、古代、あの周辺は「難波(なにわ 今ではナンバという読む地名になっています)」でございました。それが室町時代に、大坂と呼ばれるように。「坂」であることに注意です。つまり、坂が多い場所に由来し、そこは市街地東部の「上町(かみまち)」に坂が多かったことから由来しています。

 ちなみに、最初は小坂と呼ばれますが、小さくてはダメなので「大坂」へ。さらに「坂」も縁起が悪いと言うことに。
 「土」偏に「反」では、土に返る・・・すなわち死ぬことを意味すると、こじつけも良いところですが、そこで「阪」の字になりましたとさ。更に余談ですが、松阪牛の三重県松阪(まつさか)市。ここも、同じ理由で「阪」を使っています。

 ただし全国的には、こんなこじつけを考えるところは多くなかったとみえ、香川県坂出市、広島県坂町などが存在しています。

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