カンブリア紀の古生物達

○最初の取り扱い

 全くわけがわからない物に対し、どう扱ったらいいか迷ってしまうのは普通のことだろう。無論、学者達もそうだ。学問の場合、資料が十分にそろわないこともある。その時はなおさらだ。一例をあげよう。ネクトカリスという古生物がそうだ。彼等……とつけたいところだが、残念ながら彼は一匹しか見つかっていない。そして、その姿形は魚とエビが組み合わさったような不思議な形をしている。彼のことは、当然よく解ってなかったと思う。


 彼がすんでいた時代、すなわちカンプリア紀は不思議な生物達がたくさんいた。学者達は、時に生物の部分部分を別の生物と間違えたり、上と下と逆さに認識するといった勘違いをしながら、これらの生物実態を解明してきた。さあ、右の絵をのぞいてみようじゃないか。学者を悩ませ、また楽しませたキテレツな生物め世界を・・・。妙でとっつきにくくても、そのおもしろさは、君を魅了して止まないはずだ。そして、実は彼等は優れた生物であるという、とても重大なことに、君は気付くことだろうか。


○アノマロカリスという古生物
 ところで、君は犬にかまれたことがあるだろうか。ちなみに私はまだない。が、少なくともおそろしく痛そうだと思っている。しかし、蛇にかまれるよりはましであろう。例え毒がなくても気味悪く思う人は大勢いると思う。


 カンブリア紀には、かまれるともっとイヤな動物がいる。アノマロカリスだ。何がイヤか。こいつは、ご丁寧にも獲物を「一度に二度かむ」のである。


 どういうことか説明しよう。まずこいつの口は、真ん中が空いた菊の花状になっている。この花ぴら1つ1つが全方位に開く。丁度花のつぽみが開くように。そして閉じるわけだが、獲物は全方位からかまれるわけで、上下にかむ人間より、よっぼどイヤな捕食者といえよう。しかしこいつは、それだけではすまないのである。


 獲物はかまれた時、つぼみ状にもどる歯に押されて奥へと送られる。そして、つぼみが開いた時、奥にいる獲物は奥歯でかまれるのだ。この歯は円盛にトゲがついたような物で、それが三つあり、三方向から獲物をかむ。しかもかなり、大きいものである。 この歯を使うと便利なことがある。獲物は実際には口にたいして大きいので、花ぴら状の歯と奥の歯が二つとも当たるようになる。すると前の歯が開いた時に奥の歯が、奥の歯が開いている時に前の歯が閉じ、決して獲物を逃がさないようにできているのだ。当時、アノマロカリスを上回る力を持つ物はいなかった。アノマロカリスは、この口の力を使って繁栄していった。

●オパピニア & ピカイア
 次に、オパビニアというこれまた面白い(変な)動物を紹介しよう。この動物を一言であらわすならば、「顔に腕と五つ目信号機を備えた動物」である。腕というのは、カニのはさみのついた太いパイプ(?)のことで、オパビニアはこれを顔の先端につけ、これを使って食事をしていた。五つ目信号は、その1つ1つが目だ。ただし、残念ながらその色はわからない。カラフルではないと思う。(個人的にはそうであって欲しいが。)これは頭のてっぺんについていた。オパビニアはヒレでもって、このパイプ(穴はないが適当な表現がない)を「ちょうちんあんこう」のようにゆらしながら泳いでいたのかもしれない。例の信号機は、アノマロカリス等から逃げるために発達した高感度のカメラであった。


 このような様々な面白い生物が生まれたカンブリア紀だが、一体どうしてそうなったのだろう。一説に上ると、肉食動物の登場によるとも言われている。


 肉食動物の登場のため、生物は色々な自衛・攻撃手段段を持たなければならなかったというのである。この時代、種が爆発的に多様的になり、そして増え、様々な自衛手段を持った生物が登場した。その中には、今の生物につながる生物も出ており、「生物のデザインコンテストの時代」とも呼ばれている。そして、その「コンテスト」には、人類をはじめとする脊椎動物の祖先、「ピカイア」も出場している。


 では、ビカイアとはどんな生物だったのだろうか。

 実はこの生物、アノマロカリスやオパビニアに比べると、全然面白くも何ともない生物なのである。ナメクジウオを知っている人ならば、それに触角(?)を二本つけれぱすむと思ってよい.知らない人ならば、半透明の魚みたいなやつで、背索なる筋肉の俸があるのみと考えてほしい。この背索が後に背骨に代わり、魚へと進化していくのだが、当時は体の芯になって運動に便利なぐらいしか利点はない。その上、体のサイズなどもろもろの影響で、アノマロカリスのエサになることも、多かったようだ。


 ここに一つ、重大な事実がある。というのは、カンブリア紀に生まれたこれらの生物の多くが、絶滅した種族となったのだ。そして、その中にはアノマロカリスとオパビニアが合まれ、ピカイアは含まれることはなかった。何故なのだろう。


 たった一本の背索を通しただけのピカイアに較べ、アノマロカリスとオパピニアは実にユニークで実用的な体の造リをしていた。特にアノマロカリスの口(あのイヤな)は大変優れたものだと思う。しかし、彼等は絶滅したのだ。新しいライバルが現れた様子もない。生態系の頂点に立つ生物ほど絶滅しやすいという話があるが、海洋では大型動物ほど遊泳能力が高いので、一慨にはいえない。局部的な事件なら、小型生物の方が泳いで逃げられない分、不利なのだ。


 しかし、何故かビカイアが生き残った。

 こんな問いがある。「もしも進化をやり直したら同じ結果に准るでしょうか?」そして、古生物学者達はこれにこう答えているのである「おそらくそうはならないでしょう」と。そこには、何か偶然の要素が加わっているのだ。しかし.それは私達には分からない・・。ただ、進化という心の気まぐれさを感じられるのみである。


 *GIFアニメーション:http://www.ne.jp/asahi/komori/ugoku/ より
(執筆:馬藤永徳)

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