ドイツ語入門編(5) 人称代名詞の格変化と規則動詞の人称変化

 今回はドイツ語学習前半のキーポイント。重要な文法事項を2つも扱います。どちらも重要なので、気合い入れてかかりましょう。まず格変化について、そして人称変化についてです。どちらも英語では摩耗してしまっている文法事項ですが、ヨーロッパの言語では無視できない問題です。

○格とは

 格とは、名詞がその文で果たす役割のことをいいます。ドイツ語では格は4つあります。
 1格(主格) 名詞は文の主語、あるいは主格補語となる。
 2格(属格) 名詞は所有や所属を表し、他の名詞にかかる。
 3格(与格) 名詞はその文によって利益や損害を受けるものを表す。
 4格(対格) 名詞はその文の動詞の動作を受けるものを表す。
 
 日本語でいえば1格は「〜は」「〜が」、2格は「〜の」、3格は「〜に」、4格は「〜を」に対応することが多い、と言えます。但し必ず対応しているというわけではありませんが。

 また、格は名詞の形を指す言葉でもあります(ややこしい話ですが……まあ、あまり区別されていないのです)。もちろん1格形は文中で1格として、つまり主語あるいは主格補語として使われ、2格形は2格として、つまり所有や所属を表すために使われ、……という対応があります。
 ですが、わがままな動詞があって、目的語に2格の名詞が来ないとヤだとか3格の名詞が来ないと納得できないと駄々をこねることがあります。

 bedürfen ベデュルフェン (2格)を必要とする
 helfen ルフェン (3格)を助ける
 trauen トウエン (3格)を信用する など。

 
「〜を」という意味に引きずられてこういった動詞の目的語を4格にしないように気をつけましょう。

 前置詞は必ず後ろに来る名詞に決まった格になることを要求します。例えば前回さりげなく出てきた前置詞vonは、3格の名詞を要求します。これを前置詞の格支配と言います。ドイツ語では格支配することが前置詞の証です。

○人称代名詞の格変化

 では人称代名詞の格変化を見ましょう。

人称1格「〜は」2格3格「〜に」4格「〜を」
単数1「私」ich ッヒmeiner イナーmir mich ッヒ
2「君」du ドゥーdeiner イナーdir ディdich ディッヒ
3「彼、彼女、それ」er seiner イナーihm イーihn イー
sie ズィーihrer イーラーihr イーsie ズィー
es seiner イナーihm イーes 
複数1「私たち」wir ヴィunser ンザーuns ンスuns ンス
2「君たち」ihr イーeuer イアーeuch イヒeuch イヒ
3「彼ら、彼女ら、それら」sie ズィーihrer イーラーihnen イーネンsie ズィー

 
 ちょっとややこしいですね。ですが、このうち2人称は親しい間柄でなければ使わず、2格は、「〜の」という言い回しでは使えず、代わりに所有冠詞というものを使います(入門編13で扱う予定です)。ですから、覚えなきゃいけないのはこれだけです。


人称1格3格4格
単数ich ッヒmir mich ッヒ
er ihm イーihn イー
sie ズィーihr イーsie ズィー
es ihm イーes 
複数wir ヴィuns ンスuns ンス
sie ズィーihnen イーネンsie ズィー


 これだけは覚えないとしょうがないので、頑張って覚えましょう。
 ちなみに2格や3格、4格でも3人称複数を使って2人称を表す場合には、頭文字を大文字にします。Ihnen「あなたに/あなた方に」、Sie「あなたは/あなたがたは/あなたを/あなたがたを」。

○規則動詞の人称変化

 さて、規則動詞trauenを使って、ドイツ語の人称変化の基本を覚えましょう。この-enという形は、不定詞です。辞書の見出し語には不定詞を使うのが規則です。


人称単数複数
traue トウエtrauen トウエン
traust トウストtraut トウト
traut トウトtrauen トウエン


 赤字で表したところが変化語尾です。変化しない部分、すなわちtrau-を語幹といい、実はこの部分が動詞の本体です。
 動詞の変化は、このようにまとめることが出来ます。


動詞の現在直説法変化

 不定詞の語尾-enを取り、以下の変化語尾に変える。

人称単数複数
-e-en
-st-t
-t-en


 では例です。trauenは3格を取る動詞なのでした。

 Ich traue Ihnen. イッヒ トウエ イーネン (私は)あなた(たち)を信じている。
 Er traut uns. ア トウト ンス 彼は我々を信じている。


 否定を表すnichtは文末に来ます。前回言いましたように、文全体を否定する、言い換えれば動詞の内容を否定するnichtは文末に来るのです。
 Wir trauen ihm nicht. ヴィア トウエン イーム ヒト 我々は彼を信じない。


 疑問文では、ドイツ語の場合、一般動詞を文頭に置きます。英語のようにdoを使ってDo you trust me?などとして動詞が最初に来ないようにしたりはしません。

 Trauen Sie mir? トウエン ズィー ミーア? (あなた(たち)は)私を信じますか?


 なお、ここで挙げた例文では疑問文以外は全て主語が文頭に来ていますが、主語が文頭に来なければならないわけではありません。ドイツ語では動詞は頭から2番目に来なければなりませんが、それ以外の成分はどのように配置してもかまいません。つまり、こういうことも可能です。

 Ihnen traue ich. あなた(たち)を私は信じているよ。
 Ihm trauen wir nicht. 彼を、我々は信じません。


 3人称女性単数と複数のsieと、3人称中性単数のesが1格と4格で同じ形なのには注意が必要です。文頭にsieが来たからといって主語とは限りません。ややこしい例を、動詞studieren「勉強する」を使ってあげてみます。

 Sie studiere ich. ズィー シュトゥディーレ イッヒ それ(ら)を私は勉強しています。


 文頭のSieは主語ではありません。もし主語なら、studierenはstudiert(単数の場合)かstudieren(複数の場合)という形を取っているはずです。それに文末のichは1格でしかあり得ません。 

 ドイツ語では、英語よりも語順の自由度が高いです。これは、人称代名詞だけではなく名詞でもきちんと格があって、英語のように「文頭は主語!」と決めなくてもどれが主語かわかるためです。しかし、その一方でドイツ語では女性名詞、中性名詞、複数形で1格と4格が必ず同じ形になるという問題があります。文頭に主語っぽい言葉があっても主語だと決めつけないようにしましょう。


 さて、今回は人称代名詞の格変化だけを扱いました。次回からはいよいよ、名詞そのものの格変化に入っていきます。まず次回は女性名詞の格変化を扱います。

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