関係代名詞とは、主文の要素を指示して副文を作る代名詞です。従って関係代名詞は主文のどれか(先行詞といいます)と意味が同じであり、しかも副文の要素でもあるという特徴を持っています。
ドイツ語の関係代名詞は、定関係代名詞と不定関係代名詞の二種類に分けられます。定関係代名詞が先行詞の意味を限定し、確定しようとするのに対し、不定関係代名詞は意味を確定する機能を持たず、更に先行詞も省略されて「〜するひとはだれでも/〜するものはなんでも」という不確定な意味を持ちます。今回は定関係代名詞を扱い、不定関係代名詞は次回に譲ります。
ドイツ語では、定関係代名詞は指示代名詞に由来します。形は指示代名詞のderと同じです。
1格 | 2格 | 3格 | 4格 | |
男性 | der デーア | dessen デッセン | dem デーム | den デーン |
女性 | die ディー | deren デーレン | der デーア | die ディー |
中性 | das ダス | dessen デッセン | dem デーム | das ダス |
複数 | die ディー | deren デーレン | denen デーネン | die ディー |
定関係代名詞は指示代名詞から発展したものですから、性と数は指示した名詞と一致し、格は副文の中での定関係代名詞の立場によって決まります。
Ich verlore ein Buch, das meinem Vater gehört.
イッヒ フェアローレ アイン ブッフ ダス マイネム ファーター ゲヘールト
[verlieren verlor verloren 失う gehören gehörte gehört (3格)のものである]
父親のものである本を無くしてしまった。(定関係代名詞による表現)
Ich verlore ein Buch. Das gehört meinem Vater.
イッヒ フェアローレ アイン ブッフ ダス ゲヘールト マイネム ファーター
私はある本を無くしてしまった。それは父親のものだった。(指示代名詞による表現)
定関係代名詞も指示代名詞も、指しているのは中性単数名詞Buchなので中性・単数の形を取り、そしてgehörtの主語となっているので1格となっています。
注:定関係代名詞は、形は指示代名詞と同じですが、アクセントが置かれません。定冠詞と指示代名詞と定関係代名詞の違いをまとめると、こうなります。
母音の長短 | アクセントの有無 | |
定冠詞 | 短 | 無 |
指示代名詞 | 長 | 有 |
定関係代名詞 | 長 | 無 |
英語の関係代名詞には、限定用法と非限定用法がありました。
(1)He has two daughters who are studying music.
(2)He has two daughters, who are studying music.
(1)、つまり関係代名詞の直前にコンマが置かれない場合を限定用法といい、先行詞の意味を関係代名詞節が限定します。これに対して(2)のようにコンマが置かれる場合を非限定用法といい、先行詞の意味を関係代名詞が限定するのではなく、先行詞の情報を更に付け加える役割を果たします。
具体的にどうなるのかというと、
(1)彼には音楽を勉強している娘が2人います。
(2)彼には娘が2人いて、2人とも音楽を勉強しています。
となります。
つまり(1)ではdaughtersの意味を関係代名詞が限定するため、彼の娘のうち音楽を勉強しているのが2人いる(つまり、音楽を勉強していない娘もいるかもしれない)という意味になっているのに対し、(2)ではまず「彼には娘が2人いる」という文があって、who以下がそのdaughtersについての情報を付け加えているので、彼には娘は2人しかおらず、2人とも音楽を勉強しているという意味になるわけです。
ドイツ語では、定関係代名詞はこの2つのどちらの用法も持っていますが、どちらの用法であっても関係代名詞の前にはコンマを置かなければなりません。従ってどちらの意味であるのかは文脈から判断するしかありません。
Er hat zwei Töchter, die Musik studieren.
エア ハット ツヴァイ テヒター ディー ムズィーク シュトゥディーレン
彼には音楽を勉強している娘が2人います/彼には娘が2人いて、2人とも音楽を勉強しています。
先ほどの文、
Er hat zwei Töchter, die Musik studieren.
このdieは女性名詞Musikにかかっている定冠詞にも見えます。ドイツ語では指示代名詞と定冠詞と定関係代名詞が(特に書き言葉では)同じ形をしているので、見分けるのにはちょっとコツが必要になります。
先ほどのdieが何者かは、どうやって判断すればいいのでしょうか。以下の手順を踏んでやっと可能になります。
(1)dieがコンマの後に来ているなあ
関係詞節はコンマで区切られますから、直前にコンマが来ているのはこのdieが定関係代名詞だからじゃないかと思われます。ですがこれは決定打ではありません。ひょっとするとこのコンマは他の理由──例えば後に不定詞句が来ているのだとか、名詞がいくつも並んでいるだけだとか──からここに現れたのかも知れません。
(2)studierenは不定詞じゃないぞ
次にコンマ以降の部分に注目し、その動詞を探します。動詞studierenはzuを伴っていませんから不定詞じゃありません。ということはこいつには主語が必要なはずです。
(3)Musikは4格だ
Musikは女性名詞ですが、単数形です。studierenは-enという語尾を取っているのだから主語は複数のはず。それにstudierenは自動詞にも他動詞にもなれます。ということはMusikは主語じゃなくて、他動詞studierenの4格目的語なのです。
(4)dieは定関係代名詞だ
Musikが4格である以上、studierenの主語はdieしかありえません。studierenが-enという語尾を取っているので、このdieは複数1格形だということがわかります。
(5)dieの先行詞はTöchterだな
dieが複数だと決まったので、主文から複数形の名詞を探します。ドイツ語の関係詞節はなるべく先行詞の直後に置かれるので、探すのはそれほど大変ではありません。直前にTöchterという複数形の名詞が見つかりました。しかも主文には他に複数形の名詞はありません。決定です。
(2)と(3)のプロセス、つまり関係詞節の動詞を見つけだし、節内の名詞とその動詞との関係を確定するという作業はとても重要です。関係詞節は全ての文成分が中に揃っているはずですから、動詞を見ればそれぞれの名詞がどのような役割を果たしているか決まってくるはずです。関係詞の出てくるような複雑な文を読むときは、名詞の性と数をきちんと調べ、動詞が何格の名詞をいくつ取るのかをきちんと調べるのが重要です。
時と場合によっては、定関係代名詞と定冠詞が並んで出てくることがあります。
Den Studenten, die das dem Doktoren ähnlichen Denken studierten, sprach ein Alte wider.
デン シュトゥデンテン ディー ダス デム ドクトーレン エーンリッヒェン デンケン シュトゥディーレン シュプラハ アイン アルテ ヴィーダー
[ähnlich (3格)と同じ Denken (中性)思想 wider|sprechen (3格)に反論する]
その博士と同じ思想を研究した学生たちに、ある老人が反論した。
ならんでいるdie das demのうち、最初のdieは定関係代名詞、複数1格。次のdasは定冠詞、中性4格(Denkenにかかります)。次のdemは定冠詞、男性3格(Dokutorenにかかります)。
さて次回は最終回。不定関係代名詞を扱っておしまいです。