九州南西海域工作船事件で露見した巡視船の脆弱性を見直して設計された新時代の大型巡視船。同事件で初めて明るみに出た北朝鮮工作船の武装は、予想を遥かに超えた重武装であった。携行地対空ミサイル(射程約5000メートル)や対戦車ロケットランチャー(射程約1000メートル)、14.5ミリ機関銃(射程約2000メートル)など、従来の巡視船では乗員の安全を保障しかねるとされ、これらのうち最大距離である5000メートル以遠からの対応能力を要求された経緯から、海上保安庁の巡視船の中でも優れた防弾性・射撃能力・速力を持つとされる。「高速高機能大型巡視船」というジャンルに分類され、特に工作船への対応を期待されている船である。
武装として40ミリ機関砲1門と20ミリ機関砲1門を搭載している。特に40ミリ機関砲は光学式FCS(射撃指揮装置)により5000メートル以上の射程と正確な射撃能力を併せ持つとされ、これは海上保安庁の中でも最も強力な武装の一つである。
後部には大型ヘリコプターの運用に対応したヘリコプター甲板が設置されており、格納庫こそ無いものの、SST(※1)とヘリコプターの連携による制圧を支援することも想定しているようだ。また、ヘリコプター撮影画像伝送システムの装備により、ヘリコプターが撮影した映像をリアルタイムに東京の海上保安庁で確認できるシステムが構築された。
高速で逃走する工作船を追尾するための速力としては30kt以上を確保しており、工作船事案発生時には高速高機能大型巡視船「あそ」型×1隻、高速特殊警備船「つるぎ」型×2隻と共に船隊を編成し、連携して制圧を図る体制が整えられている。現在では日本海側〜東シナ海にかけて3つの船隊が組織されている。(※2)
※1:<SST(特殊警備隊)>通常の海上保安官では対応困難な事案(シージャック制圧など)に対応するため1996年に創設された海上保安庁の特殊部隊。
※2:常設部隊として存在しているわけではなく、事案発生時に臨時的に組織される部隊である。