1985年に発生した日向灘不審船事件において、高速航行が可能な巡視船の必要性に迫られ開発された小型巡視船。同事件で海上保安庁は大規模な追尾・捕捉体制を敷いたのにも関わらず、高速で航行する不審船に追いつけず、逃走を許してしまった。従来の巡視船の最高速力といえば凡そ20kt程度であり、40ktを超すともいわれる速力を有する不審船を追尾するなどどだい不可能であるという事実を認識した海上保安庁は、巡視船の大幅な設計変更に迫られた。そこで開発されたのが「しんざん」型である。
新たな思想をもって設計された「しんざん」型では船体の形状が従来の巡視船とは大きく異なる。船体を従来の排水型(※1)から、修正V型(※2)の採用により半滑走型(※3)とした点において顕著な進化が見られる。また船体の材質には軽合金を採用することで軽量化を実現した。このような船体構造を一から見直した改善の結果、最終的に速力35ktを実現することとなり、海上保安庁史上最速(当時)の巡視船の完成に至った。
武装として20ミリ多銃身機関砲(JM61バルカン)を1門搭載している。これは目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)と連接されたものであり、安全な船橋内から極めて正確な射撃が行えるシステムを確立した。当初は甲板上で乗組員が操作する12.7ミリ単装機関銃であったが、これは後に換装された。
2001年に発生した九州南西海域工作船事件においては3番船「いなさ」と4番船「きりしま」が工作船の追尾にあたり、時化に見舞われながらも前述のRFS付20ミリ多銃身機関砲で正確な射撃を実施した。同事件は最終的に工作船が巡視船に対し発砲を加え、2隻ともに被弾。また「あまみ」(別タイプ・PM型巡視船)が船橋に多数の銃撃を受け乗組員に負傷者が出る中、同じく工作船からの反撃を受けた「いなさ」は工作船に対し正当防衛射撃を実施した。
このような設計思想の巡視船はこの後、「らいざん」型に引き継がれ、また2度の不審船事件を経て『警備型巡視船』としてそのカテゴリーを確立することとなるが、「しんざん」型はその礎を築いたタイプであることは間違いあるまい。
※1:<排水型>航行中も停泊中も喫水線の位置が大して変わらないタイプ。水の抵抗が大きいので高速航行に向かない。船底が丸底であることに起因する。
※2:<修正V型>船底に丸底とV底型を組み合わせたものを採用したタイプ。
※3:<半滑走型>高速航行中はV字型の船底によって得られる揚力で船体が浮き上がるタイプ。海面との接触面が少なくなり、水の抵抗を軽減できる。
(解説:鯛風雲)