第56回海上保安庁観閲式及び総合訓練
       Japan Coast Guard Inspection parade 2012
●密輸容疑船補足・制圧訓練
 海上保安庁といえば海難救助や消防だけが任務ではありません。もっとも、どれも重要な任務であることには変わりはないのですが、ここ数年で「警察的」任務の重要性が高まっているのもまた事実です。日本の全ての国境は海であり、平時、海を守るのは彼らなのです。

 今回は密輸船が航行しているのが目撃され、それを海上保安庁ならびに関係機関の船舶が追尾し容疑者を確保する、というミッションでした。

 MH930「日本海」が上空から捜索を行い容疑船を発見。海上部隊に位置情報を連絡し、部隊の到着まで上空で監視を続けます。海上保安庁のヘリコプターは海上自衛隊の哨戒ヘリコプターのように高性能のセンサーを搭載しているわけではないので、基本的に目視での捜索となります。

 ヘリコプターからの連絡を受けた巡視艇と関係機関の船艇で船隊を編成し、容疑船を追尾します。


 巡視船隊の先頭をゆく巡視艇「ことなみ」が容疑船に対し警告を発し、停船を促します。
 『はまかぜ(容疑船)、本船は海上保安庁巡視船ことなみである。逃走をやめ、直ちに停船せよ。』

 訓練だからこそ日本語で警告していますが、相手の乗員の国籍が不明な場合は英語・中国語・ロシア語など様々な言語で警告を行います。不審船事件等のビデオを見ると、どの事案においても途中から警告を行う海上保安官の声も怒声や絶叫に近いものに変わるあたり、現場の緊迫感に思わず背筋を冷たいものが走る感覚に襲われます。

 巡視艇「ことなみ」と巡視艇「みやかぜ」が並走しつつ容疑船を追い詰めます。

 巡視艇「みやかぜ」が容疑船との距離を詰めます。「みやかぜ」船橋上には防護盾で囲った中に小銃手が待機している様子が伺えます。

 巡視艇「ことなみ」も後方から「ライトメール(日本語名:停船命令等表示装置)」と呼ばれる電光掲示板で警告を繰り返します。この電光掲示板は様々な言語での表示が可能であり、あらゆる国籍の不審船にも対応できるようになっています。

 容疑船側も多勢に無勢である以上、いよいよ行動に必死さが滲み出て来ます。しかしこれが逆に危険の徴候でもあります。特に密輸事件や工作船の場合、なんとしてでも逃げ切ろうとしますから、そこに武器行使が伴うのはもはや必然と言っても過言ではありません。

 痺れを切れした容疑船乗組員が遂に巡視艇に対し自動小銃による銃撃を加えます。事実、01年に発生した九州南西海域工作船事件において、北朝鮮の工作船乗組員がAK−74自動小銃で巡視船を攻撃、防弾仕様ではなかった巡視船の乗組員が負傷する事態となりました。

 銃撃を受けた巡視艇は自動小銃により正当防衛射撃を実施。今回は対処に当たったのが固定武装を搭載していない巡視艇であったことや、容疑者側も自動小銃程度の攻撃だったために、この程度の正当防衛射撃で済みましたが、相手がロケット弾など大火力の武器を所持していると判明した場合、遠距離から大口径の機関銃で対処する場合もあります。

 勝ち目が無いと判断した容疑者は大人しく白旗を揚げ、従う意思を示しました。もっとも、いけないクスリの密輸船や某国の工作船だった場合はこのように従順に従うわけはなく、01年に発生した九州南西海域工作船事件においては「自爆」という結末で幕を閉じました。


 巡視艇「みやかぜ」に乗船していた特別警備隊(警察における機動隊に準ずる部隊)が突入の準備をしつつ接近します。

 強制立ち入り検査において最も緊張感を伴うのがこの乗り移りのシーンでありまして、一歩間違えれば海にドボン、もしくは降伏を装った容疑者が再び自動小銃を持ちださないとも限りません。ここは東京湾なので海面は穏やかですが、荒れた日本海や、相手が停船していない状態で強行接舷という形で乗り移りを決行する場合もあります。

 けん銃で牽制しつつ容疑者の身柄を確保しました。特別警備隊は多種多様な事案に対応するために自動小銃などの銃器を携行しており、彼らもまた危険を顧みずに最前線の現場で戦う防人なのです。