魚梁瀬森林鉄道〜高知県安芸郡安田町・奈半利町・北川村など〜
○解説
魚梁瀬森林鉄道(やなせしんりんてつどう)は、高知県東部にかつて存在した木材を運搬する森林鉄道で、1907(明治40)年に安田川山線に手押し軌道が開設され、1911(明治44)年に田野〜馬路間の軌道が敷設されて以降、路線を拡大。鉄道による本格的な木材輸送が行われます。しかし、戦後はトラック輸送に切り替わり、軌道の一部は車道に転用されていきます。そして、1963(昭和38)年に全線が廃止になりました。しかし、貴重な土木遺産が残されたことから、平成に入ってから再び脚光を浴び、2009(平成21)年に魚梁瀬森林鉄道の9件が経済産業省に近代化産業遺産に、さらに同年に橋梁や隧道など18箇所の土木建造物が国重要文化財に指定されました。
(上解説:裏辺金好/写真&下解説:リン)
○場所
○風景
エヤ隧道 【国指定重要文化財】 (安田町)
馬路村への重要な道路でもある県道12号線を北上しつつ安田川線の遺構を巡っていきます。まずはエヤ隧道。明治44年築で、安田川線で建設されたトンネルとしては最も下流側にあります。当時のトンネルは道路用に転用されているモノも多いのですが、古いせいか川側に道路を作っており現在は使用されていません。
エヤ隧道 【国指定重要文化財】 (安田町)
上流側ポータル。右側の石に下流からの順番を示す「I」が刻印されています。
明神口(みょうじんぐち)橋 【国指定重要文化財】 (安田町)
こちらはやや時代が新しくなりますが、それでも昭和4年築。建築当初はヒノキ材で作られた橋だったようですが、後に鉄橋に架け替えられています。現在は右の看板にあるように軽自動車以下通行可の町道として活用されています。
明神口(みょうじんぐち)橋 【国指定重要文化財】 (安田町)
ちなみに橋はこんな感じで下が見通せます。
明神口(みょうじんぐち)橋 【国指定重要文化財】 (安田町)
下流側の県道から見ることが出来、周囲の風景ともマッチしています。ちなみに安田川はアユの好漁場として賑わっており、この橋の下でも釣り人が川に入りアユ釣りをしています。
オオムカエ隧道 【国指定重要文化財】 (安田町)
明神口橋を渡った、すぐそばにあります。他のトンネルと同じく明治44年築ですが、建築当時の面影を残す下流側ポータルに対し、上流側は後年のコンクリートでの補修がなされている関係で、南側7mだけが重文指定されています。
釜ヶ谷(かまがたに)桟道 【国指定重要文化財】 (安田町)
当初は木造、後の機関車導入に伴い昭和8年に下流の明神口橋などと同様に重量に絶えられる橋として石積みのアーチ橋に架け替えられ現在に至るようです。県道の直下にあるため、当初は気が付かずに通過してしまいました。
釜ヶ谷橋 【国指定重要文化財】 (安田町)
釜ヶ谷桟道の20mほど上流側にある釜ヶ谷橋。県道用に整備されつつも大正15年の建築当時の桁や擁壁が残存しています。
平瀬(ひらせ)隧道 【国指定重要文化財】 (馬路村)
明治44年築。下流から5番目のトンネルです。現在は使われておらず、最初にここを走行した時には下流側ポータルが法面工事などで使われる鉄板で見えないようになっており全く気づきませんでした。
五味(ごみ)隧道 【国指定重要文化財】 (馬路村)
明治44年の路線開通時の建築。馬路地区の入口にあり、麓から登ってきた列車に便乗していた乗客はトンネルを抜け眼前に広がる村の風景を目にし「帰ってきた」と実感していたそうです。
五味(ごみ)隧道 【国指定重要文化財】 (馬路村)
ポータル部。下流側は道路造成のために埋められており、その際の土砂が微かにこちら側からも確認できますが、この上流側は道路などに転用されることもなかったためかレールまで含め現存しています。
五味(ごみ)隧道 【国指定重要文化財】 (馬路村)
対岸側から。トンネルを出てすぐの橋梁部はかなりコンクリートの劣化が激しいように見えました。レールが残っているなどいかにも廃線跡という感じがしてどうしても撮影しておかなければということでしたが、これには納得。来て正解でした。
魚梁瀬丸山公園 (馬路村)
展示運転されているかつてのディーゼル機関車を復元した列車。往時の車両ではなく、平成に入ってからの新しい車両です。
魚梁瀬丸山公園 (馬路村)
車庫内に保存されているのは本物の当時の車両。ただ、重すぎてなかなか普段は運転されないそうです。
掘ヶ生(ほりがを)橋 【国指定重要文化財】 (北川村)
昭和16年築の鉄筋コンクリート造。同時期の橋としては国内最大級とのことで、橋の中央にある待避所が鉄道で使用されていた時代を偲ばせます。眼下の川の透明度は素晴らしく、かなりの水深でありながら川底が見えるほどでした。
掘ヶ生橋のすぐ隣にあるトンネル。特に文化財指定はなされていないようですが、場所が場所だけに使われているものや使われていないものなど相当な数の遺構が残されているようです。
二股橋 【国指定重要文化財】 (北川村)
昭和15年築で、戦時下で金属の使用が制限されていたことから無筋コンクリートで建造されています(その割に先ほどの掘ヶ生橋は鉄筋入りですが)。台風も度々襲撃する土地でありながら今年で築75年。それなりに補修されているものの現役の橋というのは当時のコンクリートの質の高さが窺えます。
さて、ここからはR493を奈半利町方面に走行します。
小島橋 【国指定重要文化財】 (北川村)
昭和7年築。現存する魚梁瀬森林鉄道の遺構群の中では最大規模を誇るもので、全長143m。かなりの距離を渡河することからトラス橋とガーダー橋の併用とされたようです。
現在は軽自動車以下の車両と歩行者のみが渡れる状態ですが、明神口橋と違ってきちんと舗装されているので渡りやすいです。
立岡(たちおか)二号桟道 【国指定重要文化財】 (田野町)
昭和8年築。奈半利町と安田町の間にある田野町の町域にあり、前後の築堤共々かなりの規模で残されています。写真には写っていませんが、奥側には奈半利川に架かっていた橋梁の橋脚も現存しています。
法恩寺(ほうおんじ)跨線橋 【国指定重要文化財】 (奈半利町)
昭和8年頃築で、その名の通り寺への参道として建築されたもの。海岸沿いの集落内にあり、その景観も独特であることから一度は目にしておきたい遺構でした。