歴史研究所世界史レポート
第10回 十字軍概略 担当:海苔

はじめに

 「宗教的熱狂が生み出した先例のない、そして予測不可能の運動であった東方の十字軍は、ある特定の危機に応じようとする衝動に始まったものであるが、ほぼ二世紀の間に、中世社会の、火山の爆発にも比すべき反復的エピソードとなり、人間の感情の生み出した運動で、現実の行動に移されたものとして、おそらくいまなお最もめざましいもので、近代人の心には、典型的・独占的に中世的なものと見えた」
キリスト教史3・十字軍の章より  十字軍についての解釈を広めるという意味で、今回、寄稿させていただくにあたり、私にとっての十字軍というものに触れておきたいと思う。

私が十字軍を取り上げる理由

 十字軍は世界史等で皆さんも学生時代に習ったことの一つであろう。イベリア半島のイスラム教徒などに向けられたレコンキスタ(reconquista……一般的には「国土回復運動」と訳されているが、本来の意味は、綴りの通り、「レ・コンキスタ」から「再征服」となる)の狂おしいまでの熱情。これが行き詰まった中世社会の問題点を外的要因としたことによって、またさらにそれを拡大させたことによって、十字軍として表面化した。

 私を長年に渡って十字軍に対する理解に走らせる魅力とは、他ならぬ「熱狂さ」故である。彼らは、聞いただけで身悶えする程の殺戮と略奪を行い、そしていつしかそれらの手段そのものが目的に取って代わり、歴史の流れの中で摩滅していった。

 この運動全体の、そしてそれに関わった者達それぞれの想い・思惑はどこにあったのか。この欲求に、緩急こそあれ、終わりは見えてこない。

 十字軍というものを輝かせる最大の要因は、これが「本来の目的から外れ、諸々の感情に走らされた出来事」だからである。
 人間性の追及、心理学、哲学、社会学……あらゆる学問に対する私の欲求の源は、十字軍以外に有り得なかったであろうし、事実そうだった。


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