第十三話 GSへ!!

 バイトにいくときに原付に乗るようになった。

 最初はとまどいを感じていたが、日がたつにつれ原付が体に馴染んできた。自転車と違い自分の足で漕いで動かすわけではないので、疲れないし、夏ということもあって向かい風が気持ちいいくらいだった。さすがに、冬になったら寒くて無理だろうなあと思いつつ乗っていたが。


 さらに原付で通勤することでもう一つのメリットが生じた。自転車で通勤しても交通費はでないが、原付で行くと交通費が支給されるのだ。


 バイト先の会社の交通費の支給金額の決定方式は距離計算なのだが、車でも原付でも貰える金額は同じなのである。自動車に比べて原付は燃費がよいので(自動車の場合、個体差があるのでなんともいえないが、1200ccクラスならだいたいガソリン1リッターでだいたい12キロくらい。私の乗っている原付は1リッターで20キロから23キロくらい)、結果的に車で通勤するより多くもらっているのだ。実際、会社の通勤のみに原付を使用した場合、交通費の半分くらいはまるまる懐におさまった。


 さらに車で通勤すると駐車場代(月千円らしいがよくしらない)を払わなければならないのだが、原付やバイクでいくと払わなくてよいのだ。後に自動車と原付を併用して通勤するようになるのだが、通勤の申請は原付でだしたままだったので、駐車場代は払わずに済んだ。正社員でなくバイトだったから申請の変更をしなくても許されたのだが。


 思い出せば、交通費支給の申請をだしたときに、原付の名前(ヤマハ・ジョグ)を書いたのだが、提出するとき、早く二輪免許をとって新しいバイクを買って、乗用車変更の申請をバイクの名で! だしたい。と思ったことを今でもハッキリと覚えている。


 原付はあくまで通勤の手段でしかなかったので、ガソリンはなかなか減らなかった。ガソリンが減ってくると、父が船用にタンクにいれて保管してあるガソリンをいれてくれた。


 私は正直、ガソリンスタンドにいきたくなかった。車でガソリンをいれにいったことはある。しかし、車の場合、窓をあけてガソリンの給油口のカバーをあければ(最初、給油口のカバーをあけるスイッチがどこにあるのかわからず、さらに給油機の近くに上手く停めれるか? という心配もあったので、車でいくのも嫌だった)、あとは座って待っているだけでいいのだが、原付の場合、立って待っていないといけない。これが嫌だと思ったのだ。


 車だと車内という隔離された空間におり、スタンドのスタッフも用があるときにしか、運転席側にはやってこない。しかし、原付の場合、スタッフがガソリンをいれてる側で立って待っていないといけない。その時間・・・その空間が、なんだか嫌だ・・・。別に話をする必要とかは一切ないはずなのだが・・・。


 しかし、だからといってガソリンスタンドにいかずにずっと父にいれてもらうわけにもいかないと思った。今後、二輪免許をとった以降のことを考えてみるとどうか? 父がいないときに燃料が少なくなっていたらどうするのか? 備蓄のガソリンが底をつきてたらどうするのか? よしんば遠出したときに燃料がなくなったらどうするのか?


 結論として、私はガソリンスタンドにいくことにした。


 この頃の私は妙な自信というか挑戦心に溢れていた。バイクに乗るという目標のため、原付に乗り出したことが精神的な面で影響を与えていたように思う。小心者の私にとって原付で公道を走ってバイトにいくというのは、ちょっとした冒険であった。その壁をのりこえたことと、原付で走る爽快感みたいなもののが一種の自信になっていた。


 とりあえず、父が給油してくれているのを横でみて、どこから燃料をいれるかというのを確認しておく。


 燃料の給油口はシート後方にあり、給油口のキャップは鍵を差し込んでとることができるということを確認した。ついでに、給油口の絞め方も確認しておいた。フタのはまるポイントがあるので、そこにフタをあわせて押し込んで、鍵をかけるのだ。


 下準備はよし。


 原付でバイトにいきはじめた頃は、本当に通勤の足でしかなかったが一ヶ月もたつと、ちょっと出かけるときに使用するようになり、だんだんと行動半径も広がってきた。それに従い燃料も減るようになってきた。父は休日にしか原付の燃料をチェックしないので、適当に燃料が減ったときに給油してみることにした。場所はバイトにいく途中にあるガソリンスタンドだ。


 スタンドにはいって、給油機の横に原付をとめてスタンドをかける。スタッフがやってくる。


「満タンで?」


と聞いてきたので。お願いしますと答え、鍵を一緒に渡す。給油口からガソリンがいれらる。自分の原付・・・ヤマハのジョグの燃料タンクは最大3.6リッターほど、ものの数秒でいっぱいになる。給油がおわり、給油口がしめられ、精算となる。ものの数秒であったが給油時間の沈黙はなんだか嫌だった。だが、原付も最初は嫌だったが、だんだん慣れていったように、給油もだんだんなれていくだろうという確信があった。


ガソリンスタンドという課題もこうしてクリアした。課題というほどのことではないかもしれないが、私にとっては課題だった。



棒