第二十二話 ジョグ!! なぜ動かん!!

  人間やはり調子に乗ってはいけないのだ。

 「第十五話・甦る闘志」で、私の乗っている原付・ジョグはスタンドにかけておくと、燃料計がガソリンの残量を本来よりも少なく表示してしまうと述べた。その構造に気づいて以降、私は燃料の残量にいささか無頓着になっていた。


 午後十時半・・・。バイトを終えて家路につく。ガソリンの残量はエンプティをさしていた。本来、エンプティを燃料計の針がさしているということは燃料がないことを示しているはずなのだが、実際、エンプティに針がきても結構走れるのだ。乗り始めた頃はエンプティに針がくる前に補充していたのだが、だんだんとザルになってきてエンプティを針がさしてからガソリンスタンドにいくくらいになっていた。


 私はバイクをスタンドから降ろす。針はあいかわらずエンプティをさしている。
 明日あたり燃料をいれにいこうか。と思い、バイクを走らせる。


 家までは約3キロの道のりである。バイトに来る時間の六時の時点では国道一号線は渋滞しているので裏道を走ってくるのだが、十時半ともなると国道一号線はすいている。なぜかというと、国道一号にほぼ並行して走っている浜名バイパスという自動車専用道路が、本来は有料なのだが午後十時から午前六時までは無料になるのだ。そのため、トラックなどは、浜名バイパスにはいってしまい、国道一号は結果としてすいているのだ。


 私は国道一号を走り始めてしばらくして異変に気づいた・・・エンジンの音がおかしい・・・。
 エンジンの音がだんだんと弱弱しくなっていき・・・ついに止まってしまったのだ・・・。


「燃料切れ・・・!?」


 まさかの燃料切れである。ためしに、キックでエンジンをかけてみたが、むなしくキックの音が響くだけであった。


しょうがないので、手でひっぱって帰ることにした・・・。以前ならば国道一号沿いに、ガソリンスタンドがあったので、そこまで引っ張っていって給油すればいいのだが、今は改装のため長期休業になっていた。そもそも、夜の十時半頃までやっていたかどうかというのも謎なのだが・・・。


 私が牽引していると、バイトの先輩の車が通り過ぎていった、私はチラッと先輩の顔をみたが、携帯で話をしていた。翌日きいたところ、友達と話をしており、私が原付を引いているところを目撃していたようで(私は歩道を歩いていたのでもしかしたら目撃されていないという可能性のあった)、


「あ」


と言ったそうである。電話の相手は何かあったのと聞いてきて、


「バイトの子がバイクを手でおしてる」


と応えたそうである。電話の相手には返答したが、私に対してはただ目視・・・いや黙視しただけであった、世は無情である。止まってあげなくて、ゴメンゴメンとは言っていたが・・・。


 さらにしばらくすると、正社員の人のシルビアが後ろから迫ってきた。速度が速いので目撃されずにすれ違うかと思っていたが、ちょうど信号で留まったところで発見された。正社員の人はさすがに無情な女と違って、車をとめて


「大丈夫?」


と声をかけてくれ、どうやって帰るよと救済の手を差し伸べてくれた。


 だが、さすがにシルビアの荷台に原付をのせて下さいとは頼めないし(翌日、昨日私を黙視したバイトの先輩は頼めば載せてくれたかもしんないよと言っていたが・・・)、かといって原付を放置して私だけ帰っても、原付はどうなるの? という問題が発生してくる。その時、私は


「家はそんなに遠くないので大丈夫です。」


 と言って正社員の人を見送った。大丈夫。とは言ったものの、三キロの道のりはさすがに長い。夏の終わりごろの夜だったので、熱かったり、寒かったりということはなかったので良かったのだが。


 途中、歩くのがいやになってきて、何を思ったかエンジンをかけてみようと思い、キックでエンジンを始動させてみた。


 すると・・・。 
 エンジンはかかったのである。なぜだか知らないがラッキーと思い、乗ろうとした・・・。
 しかし、次の瞬間、止まってしまった。


 どうやら、下り坂だったのでタンクの底に僅かながら残っていた燃料がタンク前方に集中し、一時的にエンジンに燃料が注入されたのだろう・・・。下り坂・・・私は惰性で進むだろうと思って、原付に跨ってみた。惰性で少し進んだ。ヘッドライトも弱弱しいものの、光を帯びていた。しかし、下り坂は短く原付を引っ張っていくことにかわりはなかった。


 家の近くまできたとき、バンカーからバイト中に電話がきていたので、バンカーに電話をかけてみた、バンカーは二輪免許取得のため教習所にいっており、その経過の報告をしたかったようだった、対して私は今のみじめな状況を語っていた。家について今日の惨劇を父にいうと、船用に保管しておいたガソリンをいれてくれた・・・。


 こういうことになるなら、燃料がなくなったとき、家に電話すれば良かったと思った・・・。だが、罵倒されて終わりという可能性もあったので、電話はできなかったのだ。今回の一件で、原付を手でひっぱるというのは惨めなことだと身にしみて理解した。


 しかし、私は懲りない男であったのである・・・。

棒