いよいよ二輪教習所に入所することになった。手続きをすませ入所式にのぞむ。
案内された部屋にはいると既に六、七名の方が集まっていた。私がどうやら最後の一人のようだった。部屋の正面のプロジェクターには入所式の時間まで暇をつぶせるようにバイクの操作テクニックのビデオが流されていた。私が部屋に入って三分ほどしたら入所式がはじまったので私は少ししか見ることができなかったのだが、インストラクターがオフロードバイクを駆ってウイリーをやっていた。インストラクターは、だいたい皆ウイリーをやろうとするとバイクを上にひっぱりあげようとする傾向があるのだが、それではダメでウイリーをやるにはバイクを後ろにひっぱるようにしなければならないと言っていた。いわれてみれば、バイクを上に引っ張ったところで、座っているときど同様、体重は足元にかかっているわけでバイクの前輪が上にあがるはずはない。後ろに引っ張って重心を後方に持っていけば前輪があがるのは道理ではないだろうか。私も自転車でウイリーをやろうと引っ張っていたができないわけである。そしてビデオのインストラクターは最後に
「危ないので公道ではやらないで」
といっていたが、やりません。というか、私はまさか教習にウイリーとかあるのか!? とビビってしまった。
時間が来た。ビデオの上映は終了となる。
まずは所長のお話である。所長いわく
「絶好のバイクシーズン到来。」
ちなみにこの時、十一月中旬。バイクきついって・・・。今でさえ寒いのにこれからどんどん寒くなっていくんですけど・・・。夏だろうが冬だろうが「絶好のバイクシーズン到来!」といっているような気が・・・。しかし、その後にいっていたことに私は感銘を覚えた。
「バイク免許をとりにきたということは、免許を取りたくてきている。」
「バイクは車よりもスポーツ性に優れ、乗る、見る、後ろに乗るという三つの楽しみがある。」
いい言葉である。自動車免許と違ってバイクの免許は自分で取りたいと思ったからこそ取るものなのである。
所長のありがたい言葉のあとに教官が教習の進め方などの説明をしてくれた。その中でこんなエピソードが語られた。
「今まで教習で一番時間がかかった人は55時間(確か)かかりました。」
二輪免許は実技の規定は17時間である。本当はこういう話は笑い話にするところなのだが、自動車教習の際に、私は実技時間が大幅にオーバーしてしまい、教官の判子をおす欄(一時間教習をうけると、教習時間の確認のために、強制的に判子をうたれる欄。教習項目がクリアできているかどうかを確認する欄とは別の欄である)が一杯になってしまって(ちなみに、この時間数確認の欄は教習時間をオーバーすることを想定して多めにつくられている。実際、規定時間ギリギリで卒業できる人はそうはいない)、判子を押す欄を張り合わせて追加されてしまうという醜態をさらしていた。
17時間って短いよな・・・。時間内にクリアできねーんじゃないかな・・・。
不安にかられる(ちなみに教習時間十七時間オーバーすると教習一時間につき五千円ほど払わなくてはいかなくなる)。しかし、教官の話によると55時間かかった人は自転車に乗れなかったらしい。二輪車の場合、走行速度が速いほうがバランスは取りやすくなる。自転車よりバイクのほうが車輪も太いしバランスはとりやすいだろう。しかし、カーブで機体を倒したり、低速での移動、発進には、自転車なみのバランス感覚が必要とされる。特にカーブではバイクは自転車と違って重いのでバランスを崩すと機体の重さによって簡単にひっくりかえってしまう。また、スピードがでているとカーブでしっかり機体を倒さないと曲がりきれない。
自転車に乗れる人が無意識にやっているバランスとりができないというのはやはりキツイ。自転車に乗れる人でさえバイクに乗って転倒することはあるのだから・・・。自動車は自転車に乗れなくても問題はないが、バイクは自転車に乗れないとキツイ。
しかし、そのチャレンジ精神には感服する。できないと決め付けずに挑戦し、免許をとったのはまぎれもない事実なのだから・・・。
教官の話のあと、適性検査が行われる。知能テストのようなものなのだが、私は早く正確にものごとをこなしていくということが、どうも苦手である。この手のテストは早く正確にこなしていくと、えてして高評価がえられる。
問題の中に次の筆の染みをみて何を連想しますかという問題があった、深く考えないでと書いてあるのだが、自分のイメージと選択肢の回答のイメージのどれとも結びつかないものが多いんですけど・・・。しかも、選択肢には「忍者」とか「悪魔」とかあるし・・・。悪魔って答えたら被害妄想があると思われそうだ・・・。そもそもこの染み自体が「染み」としか答えられない代物ばかりだったのだが・・・。さらに質問を飛ばして先に進めない仕様になっているし・・・。
後日、テストの結果を渡されたのだが、運転技能が低いのはいいとしても(自動車免許を取ったときにも同様の試験があり同様の結果だったので)、「自分勝手で冷血」といったことがサラッと書いてあってかなり怒れてくるものだった。あながち間違いともいえないのだが・・・。ちょうどこの頃、就職活動関係でクレペリン検査や正確診断テストなどをやって自己分析をすすめていたので、参考にはなった。かろうじて「素直な性質」というのが救いだった(これはクレペリン検査でも分析されていた)。しかし「自分勝手で冷血で素直」っていったどういうものだろうか? いいものなんだろうか? いい悪いの問題じゃないかもしれないけど・・・。二重人格!?
しかし、これでいいやと妥協で選ぶことしかできなかった「染み」の問題で性格が判断されたというのは納得いかないんですけど。