第三十三話 ミッションバイクの基本操作

  前回、「クラッチとギアチェンジ」ということで、ミッションバイクのツボであるクラッチのことに簡単であるが触れた。そして、今回は具体的な操作方法を説明したい。

 原付スクーターは右手のグリップがアクセルになっている。グリップを手前にひねるとアクセルが開いた状態になり、バイクが走り出す。そして、右手、左手のグリップには自転車と同じようなブレーキがついており、握るとブレーキがかかる。右手、左手はそれぞれ前輪、後輪に対応している(もっとも最近はブレーキを握るだけで自動的に前後輪のブレーキのかかり具合を制御してくれるものもあるのだが)。


 これに対してミッションバイクはどうか。
 右手のグリップがアクセルになっているのは同じであるし、エンジンを起動するときに、スタートボタンを押して起動させるのも同じである。しかし、エンジンをかけてグリップをひねっても、エンジンは回転数をあげるものの、バイクは走り出さない。そう、ギアがつながっていないので、エンジンの動力が車輪に伝わらないのだ。


 原付スクーターでいうところの左手のブレーキにあたるところが、クラッチレバーになっている(ちなみに右手は原付スクーターと同じくブレーキ)。これを握るとクラッチがはずれる。そして、バイクに跨ったときに左足がくるところの近くから突き出ているチェンジレバーを踏みつけると、ギアがニュートラルからロー(一速)にはいる。ニュートラル、ローといってもアトラスの名作RPG「女神転生」の属性のことではない(当たり前か)。  


 ニュートラルとはギアがはいっていない状態・・・つまり、エンジンの動力が車輪に伝わらない状態である。基本的にバイクを停める(エンジンをきる)時はこの状態にしておく。


 ニュートラルのギアは一速と二速の間にある。バイクのギアチェンジはチェンジレバーを蹴り上げると一速あがり、踏みつけると一速下がる。一速から二速にするとき、間にニュートラルがあるのならば二回蹴り上げないと二速にはいらないのでは? と思った方もいるだろう。しかし、普通にけりあげるとギアは一速から二速へとはいる。また、二速のときに普通に踏みつけても一速にはいる。ではニュートラルにはどうやっていれればいいのか? それは弱めに蹴り上げる、もしくは弱めに踏みつけるのである。


 バイクのギアは現在何速にはいっているか目で確認することはできない。よって、何度蹴り上げたのか、踏みつけたのか覚えていなければならない。もっとも、一速にするのは簡単で、チェンジレバーを踏みつけてもチェンジレバーが下がらなければ、そこが一速となる。ただ、例外としてニュートラルギアだけはニュートラルにはいっていると操縦桿の近くにあるランプが点灯するようになっている。

 このニュートラルにいれるというのが意外とくせもので、機体ごとに(この場合は製品の種類ごとにという意味ではなく個々の機体という意味である)クセがありニュートラルにはいりにくいものと、はいりやすいものがある。はいりにくいものは弱くチェンジレバーをけりあげてもニュートラルを飛び越して二速にはいってしまう、はいりやすいものは、普通の強さで蹴り上げているのに二速にとどかずニュートラルにはいってしまうのである。

 ニュートラルはあくまで停車時に使用するギアなので走行時に一速からニュートラルにはいるとエンジン音はけたたましい(エンジンが空回りしているので)のにバイクの速度が落ちていくのがわかる。もっとも、一速から二速のきりかえの時にニュートラルに入っても、速度はでていないので、さほど危険ではないのだが、バイクに乗り始めた頃、ニュートラルにはいっていることに気づかず、二速にはいっているつもりでいると、エンジン音はけたたましいのに、速度がでないので非常に焦った覚えがある。


 さて、バイクを発進させよう。まず、左手のクラッチレバーを握り締め(もちろん右手のブレーキレバーも握り締める)、右足に重心をかけ(つまり右足を地面につける)左足でチェンジレバーをローにいれる。そして今度は左足に重心をかける。基本的にバイクは左足を地面につけないといけない。右足で足をつくと実技試験のとき減点の対象にされる。なぜか。それは、右足の側にブレーキがついているからである。


 そう、ミッションバイクには右手のブレーキと足のブレーキ(フットブレーキ)という二つのブレーキがついているのだ。そしてこれらは性格が異なるブレーキなのである。


 右手のブレーキは前輪を司り、右足のブレーキは後輪を司っている。ここまでは原付スクーターの左右のブレーキが前後輪にそれぞれ対応しているのと同じである。だが、決定的にミッションバイクのブレーキが原付スクーターのブレーキと異なるのはその効き方である。後輪を制御するフットブレーキはゆっくりと、じわじわと効いていくブレーキだが、前輪を司る右手のブレーキは一気に強く効く。なので、バイクをとめるときはフットブレーキで減速していき、ある程度まで速度がおちてきたらジョジョに右手ブレーキを効かせていく(いきなり強く握ると急停止するので)という形になる。

 私は最初、普段から使い慣れている右手ブレーキを使っていたが、いかんせん効き方が原付スクーターと全然異なり、正直使うのが怖かった。そこで、フットブレーキを使ってみるとこちらのほうが使い勝手がよく、フットブレーキだけで停車するようになった・・・。もっともこれが後に災いの種になるのだが・・・。


 右足のブレーキは右足の定位置やや後方、足をくの字にしないと踏めないところにあり、最初はブレーキを踏もうと思っても、空振りしてしまうことも多々あった。それに対しギアチェンジのペダルはちょうど左足の定位置の真下にある。バイクを信号などで一時停止させるときは、常にこのフットブレーキを右足で踏んでブレーキをかけておかねばならない。よって、右足を地面につけてはいけないのだ。


 話がそれたがいよいよ発進である。


 ギアをローにいれたら右手のブレーキを離し、右手のグリップを手前にひいてエンジンをふかし、左手のクラッチレバーをじょじょに開いていく。そして半クラッチの状態までくると、エンジンの動力が車輪に伝わりゆっくりと動き出す。動き出したら地面についていた左足を離し、少し速度がでてきたら、今度はアクセルを戻し、クラッチをきってチェンジレバーを蹴り上げてセカンド(二速)にギアをかえる。そして再びクラッチを繋ぎなおして、同時にアクセルをふかす。


 二速から三速にかえるのも同様の手順でおこなう。ただ、ギアをあげるということは、そのギアに見合った速度がでていないといけないわけで、減速して走行するときにはブレーキをかけて速度を適度に落とし、減速チェンジレバーを踏みつけてギアを落とす必要があるわけだ。


 尚、二速以降のギアのときはクラッチを完全につなげてしまって構わないのだが、一速のときは、クラッチは完全につなげてはならず、半クラッチの状態を維持しないといけないとのことだ。なぜクラッチを完全につなげてはいけないのか教官に聞いたのだが、教官もよく知らないようだった。私はこっそり、一速のときにクラッチを完全に繋げたが特に弊害はなかったのだが・・・。


 さて、バイクの基本的な操縦方法を説明してきたが、車に乗らない人(正確には運転しない方)、バイクをよく知らない人にはよくわからないかなと思う。要点をまとめると、


 ・右手のグリップがアクセルになっている。
 ・右手のブレーキは前輪のブレーキになっており、非常に効きが良い。
 ・右足の近くについているフットブレーキは後輪のブレーキ。効きはあまりよくない。
 ・左手の自転車でいうところのブレーキパッドの部分は、クラッチになっており。これを握る(クラッチをきる)とエンジンの動力が車体に伝わらなくなり、離す(クラッチをつなぐ)とエンジンの動力が車体に伝わるようになる。
 ・左足の下のほうにはチェンジペダルがついており、クラッチをきった状態で蹴り上げるとギアが一速あがり、踏みつけると一速下がる。


 ・・・あれこれ説明したが結局は上の五点に集約されるというわけである。



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