二輪教習も四時間目になると、教習開始直後の「慣らし運転」に参加することができる。慣らし運転は同じ時間に教習を受ける教習生が教官の後についてコースを走り回るという、いわば準備運動のようなものである。よって、教習を始めたばかりの人では足手まといになってしまうので、教習時間が四時間以上の教習生のみ(といっても、ほとんどが四時間以上の教習生なのだが)で行われる。
・・・といっても、私も足手まといになることが多く、前を走る人と引き離されてしまい、ショートカットして合流するようにといわれたこともある。かなり屈辱である・・・。また、この慣らし運転をどのようにやるかは教官の裁量に任されているらしく、周回道路をブンブン走る教官もいれば、クランクやエス字などの課題となるポイントを中心に走る教官もいた。
さて、慣らし運転が終わると、だいたい同じくらいの教習課程の人間が集められ、教官から指示がだされる。といっても、教習生の数に比べて教官は少ないので、後で呼ぶから、とりあえずコース走っていてという指示をだされたりもする。教官から召集がかけられたので、バイクをひいて教官のもとに集まる・・・。と、私のバイクが重くてうごかない・・・。
(おかしいな・・・?)
さっきは、手でひいても動いたのに今は動かない・・・。そこで私はエンジンをかけて半クラッチの状態にして、私の歩行速度と同じくらいになるように速度を調整して教官のもとへ行くと、教官が近寄ってきて
「危ないじゃないか!!」
と、開口一番怒られた。なぜ危険かというと、言うまでもないことかもしれないが、バイクにまたがらずに、エンジンをかけてクラッチをつなげると、なにかのはずみで速度がでてしまった場合、バイクを制御することができず、バイクに体がひきずられてしまう格好になってしまったりするからだ。
私はバイクが重くて動かせなかったというと、それはギアがニュートラルにはいっていないからだといわれてしまった。前にも述べたようにギアが入っている状態だと、エンジンと車輪がつながっているので、車輪を動かすには、車体の重量に加えてエンジンのギアを動かす力が必要になってしまう。つまり、エンジンの仕事を自分でやらなくてはいけないというわけだ。
しかし、ニュートラルの状態。つまり、車輪とエンジンが繋がっていない状態だと、純粋にバイクの重量を押すだけですむ。自動車の教習のときにも、ニュートラルギアの仕組みを勉強したが、自動車を押すということは、まずないので、真にニュートラルがどういう状態か理解できていなかったのだ。
そして、この日の課題に入る・・・今日はなんだろう・・・。
(・・・え!? もうやるの!?)
なんと、教官につれてこられた場所は一本橋だった。前にも述べたが、一本橋といっても谷に掛かっているような橋ではなく、二輪の車輪の幅よりも少し広い幅で、周囲よりも十センチ程高くなっている直線のスロープである。こんなアクロバティックな教習は教習課程がすべておわろうかという時に挑む課題だと思っていたのだが・・・。
ちなみに一本橋は、ただ橋を渡ればいいというわけではない。橋をゆっくりと通過しなくてはならず、卒業試験の際には、規定の通過時間よりも早く通過してしまうと、時間に応じて減点されてしまうのである。しかしながら、途中で橋から落ちてしまうと、その時点で失格になってしまう。ムリしてがんばると損をする場合もあるというわけである。
まずは、橋を無事通過するところからはじまる。橋はゆるやかなスロープを登っていく形になっているので、橋に乗り始めるときは、速度をだして一気に上る必要がある。
教官に言われた通りに早速やってみる。
(できるのか!?)
私はアクセルを吹かし橋に挑む・・・、バイクは勢いをつけて橋の上にのり・・・橋の上を走り・・・通過・・・。
「あれ!?」
想像と異なり、あっけないくらい簡単に通過してしまった。一緒に教習を受けている教習生達も悠々とクリアしている。
そして、何度か橋に挑むと、今度はフットブレーキを使いながら速度を調整し、ゆっくりと橋を通過する練習にはいる。フットブレーキは制動力が小さいので、速度の調整がしやすい。クラッチをつないだままにして、フットブレーキで速度を落とす。速度を落としすぎると、バランスが崩れるので速度を落としすぎたなと思ったら、フットブレーキを離して速度をだす・・・。これも、思っていた以上に簡単にできた。
最初は戸惑っていたフットブレーキの扱いにも慣れてきたようだ。やってみなければ分からないとはいうが、まさにその通り。簡単そうに見えて難しいこともあれば、難しそうにみえて簡単なこともある。こうして、最大の難関だと思っていた一本橋は以外とあっさりクリアできてしまった。