第五十二話 卒業検定

 ついに卒業検定の日を迎えた。あっという間に今日という日を迎えてしまったように思う。果たして今の実力で合格することはできるのか・・・。一抹の不安を抱きながら教習所へと向かう。昨日の夜、雨が降っていたようだが今日は晴れ渡っている。遠州名物空っ風も今日は穏やかだ。



 卒業検定に挑む者達は講堂に集められた。普通の卒業検定者が四名と大型の卒業検定者が四名の計八名。普通の列の一番手前には私が座っていた。入校順か何かで並ぶ順番は決まっていたような気がする。しかし、その配列が私に幸運をもたらすことになった。




 検定の説明が行われた。普通と大型では検定のコースが多少異なるが基本項目は共通しているので、基本事項が説明される。



 まず、検定は減点方式で採点されるということ。


 次に一発で落ちてしまう項目として、接触や転倒、一本橋での脱落(一本橋から降りるときに後輪が脱輪してもダメ。前輪が無事通過したのでホッとして油断し、後輪が脱落することがある)、急制動での停止線を越えての停止があげられる。


ちなみに、昔は右足が地面に着くと失格という項目があったらしいが、あまりの厳しさのために右足を着いても減点のみという採点方法に変更されたそうだ。

 何故、右足を着いてはいけないのか? バイクの運転は右足がフットブレーキの上に常におかれ、左足が地面に着くというのが基本姿勢だ。その前提条件から鑑みると右足を着くというのはバランスを崩したという証拠である。また、公道を走る場合、バイクは道路の一番左側を走っている。バイクの運転手が右側に足を着くと右側を走る車に接触する恐れがある。私は右足をつくなと何度も教官にきつく叱られた。そのお陰で普段スクーターに乗るときでさえ、右足をつけないように心がけるようになった。



 一通り減点事項が説明された後、減点されない事項が説明された。例えば「止まれ」の標識のない交差点で停止しても減点はされない、なた、交差点で停止した場合、何分停車していても構わないとのこと。次のコースをよく思い出して、準備ができたら走り出せば良いとのことだ。



 一通りの説明が終ると検定コースが示される。検定コースにはAコースとBコースがあり、それぞれのコースは第一段階の教習の頃より走りこんでいる。当日はどちらのコースになるか分からないとのことだったが、2コースはS字があり、S字の進入が苦手な(転倒経験有)私は是非とも1コースで検定を受けたかった。



 さて、どちらのコースになるのかと気を揉んでいると、教官が私に向かって、


「1コースと2コースどちらがいい?」


と聞いてきた。どうやら、一番手前に居る者に決定権があるらしい、すかさず私は


「1コースで。」


と答えた。私の発言で普通の検定試験は1コースに決まった。前に座っててラッキー。しかし、これで落ちたら言い訳ができないなあ。



 コースが決まり、いよいよ教習コースへと出る。ここで幸運がもう一つ。昨日の雨で路面が濡れているため、急制動の停止ラインは雨天時のラインでオッケーとのこと。雨天時よりも遥かに条件のいい路面であるにも関わらず、停止ラインが雨天時のラインとは、またしてもラッキーだ。しかし、ここまで幸運が重なるとかえって怖いな・・・。



 普通二輪の卒業検定は私が一番に走る。一番は俄然緊張する。でも、いつまでもドキドキしているよりマシか。まずはバイクの安全確認をして、コースを一周回る慣らし運転をする。実は私たちがバイクに乗る前に教官達がかなりハードな慣らし運転をしてくれていて、バイクは充分に暖まっている。異常もなさそうだ。教官達の合格させようという熱意と愛情がバイクの鼓動とともに伝わってくる。




 試験官の合図をもらい検定スタート。走り出す前は交差点で止まったら、じっくりコースを思い出して進んでいこうと思っていたが、コースをド忘れすることはなく、むしろ何度も走ったコースが脳裏にはっきりと浮かんでくる。逆に、じっくり止まっていては忘れてしまうのではないかと思うくらいだった。



 一発で失格になってしまう項目に注意を払いつつ進む。一本橋は粘りすぎて橋から脱落しては洒落にならないので、一杯一杯になる前に通過した。また、直線では速度をだすようにと教官に言われたのを思い出し、直線は速度を出して走り抜けた(速度がでていないと減点になったような気がする)。苦手なスラロームは接触に極力気を払って加速はほどほどにして無難に通過することにした。



 自分の検定が終ると、教習コース中央にある監視塔の一階へと集められ、他の研修生が終るのを待つ。塔に入ったところで試験官に


「スラロームが遅い。六十キロ以上で走っていて、正面から車が突っ込んできたら、かわせないよ。六十キロ以上ださないように!」



と言われてしまった。なるほど、スラロームは緊急回避の練習だったのか・・・。



 一番に終ったので何気なく他の試験者を塔の窓から見る。試験者の中には交差点でいくら止まっても減点にはならないという規定を利用して、交差点ごとで停止し、じっくりと体勢を整えてから進む人もいる。



 私は普段はこういうところで知らない人と話をしたりはしないのだが、検定が思ったよりも上手くいき多少興奮気味だったのもあり、同じくらいに試験を終えて塔に入ってきた大型の試験者の人と話をした。私はその人に何故、大型の免許を? と聞くと、その人は昔、普通免許をとった時はバイクに乗っていたが、車に乗り出してからはバイクに乗らなくなってしまった。しかし、またバイクに乗りたくなったので大型の免許を取りに来たとのこと。ちなみに、大型(750cc)に乗ると、普通(400cc)は原付(50ccみたいに感じるとのことだ。私にはまだ分からぬ領域の話ではあるが、確かに普通免許の教習を始めてからは原付が自転車のような感覚になってきている。



 そして、全員の試験が終わり、試験の説明を受けた講堂に移動する。いよいよ検定結果の発表である・・・。





棒