夕方、いつものようにバイトにやってくると、店先のお客さん用の自転車置き場にアメリカンバイクが停まって
いた。珍しいモノが停まっているなあと思い、何気にバイクを覗きこんだ。
白を基調としたボディーにはホンダのマークとMAGNA(マグナ)の文字が。 私 が乗っているジョグとは異なり、燃料計はついていない。どうやって残りの燃料みるんだろ・・・? どっかにメーターがついているのか?
シー ト手前にある燃料タンクの上についている速度計に目をやると・・・、
ん・・・?
メーターの目盛りは最高60キロ。私が乗っているジョグと同じだ・・・。まさかこのアメリカンバイク、ジョグより随分大きいが原付なの か・・・?
そ んな疑問を抱きつつ、店内に入る。事務所に入りタイムカードをうつと、店長に今日から新しい子入っているからと告げられる。
どうやら男の 子のバイトが入ったようだ。 閉店時間を迎え、店外の売り物が積んであるカーゴを室内へとしまう。カーゴを運ぼうと外へ出ると、出勤時にみたオートバイがまだ置いてあっ
た。 まさか・・・。 そう、今日からバイトに入った男の持ち物だったのだ。
ちなみにこの男、私と同じ町内の出身で、年を聞いたら弟の同級生だということが発覚 (親しい間柄ではないようだが)。少々生意気だが、ガンダムと映画をこよなく愛する男で私に「ギレンの野望」を攻略本とセットで貸してくれたりした。ガンダムシリーズの中で特にスターダストメモリーが好きだと言っていたので、主人公のコウ・ウラキにあやかりウラキと呼ぶこ
とにする。 私 はバイクがウラキのモノであることを確かめると、ウラキに問いかける。
「これ、メーター60キロまでしかないけど、原付なのか?」
「そうだよ。」
原付ってスクーターしかないと思っていたけど、アメリカンバイクの原付もあるのか・・・。正直、驚いた。
「燃料計ついてないけど、燃料ってどうやってみるの? メーターどっかについてるの?」
「メーターはついてないよ。燃料タンクがメインタンクとリザーブタンクに仕切られていて、メインタンクの燃料がなくなりそうになったら、ここのコックをひねって、メインタンクとリザーブタンクの仕切りをはずして、リザーブタンクのガソリンをメインタ
ンクに入れるようにするんだよ。リザーブタンクを使うことになったら給油のタイミングってこと。」
「なるほどね。燃料がなくなりそうになったかどうかの判断っていうのは、アクセルをいれても速度がでなくなっ たりとかのガス欠の症状が見えたらってこと?」
「まあ、そうだね。」
「結構怖いな・・・。」
「まあね。慣れなうちはリザーブへの切り替えの操作は停車してからコックをひねらないとならないけど、慣れる と燃料がなくなりそうな兆しがわかるようになって、走らせながらコックを切り替えることができるようになるらしいよ。」
ちなみに、ウラキはメインタンクとリザーブタンクの間には仕切りがあると説明してくれたが、実際はタンクに 仕切りはなく、タンク内に上下に配置されている二つの給油口が疑似的なメインタンクとリザーブタンクをつくっている。
数字をいれてみるとわかりやすいので、上部の給油口がタンク底辺よりも5センチ高いところにあり、下部の給油口は底辺にあると仮定する。
通常時は上部の給油口から燃料がエンジンへと供給される。しかし、燃料がタンクの底辺から5センチ未満になると上部の給油口から燃料を吸い 出すことができなくなる。これがメインタンクが空になった状態である。
そこでコックをひねると、下部の給油口が開き上部の給油口で吸い出すことのできなかった5センチ未満のガソリンを吸い出すことがきるように なる。これが、いわゆるリザーブタンクである。
ウラキ自身は容量の少ないリザーブタンクは「緊急手段」と考えていて、普段は走行距離計をみて、だいたいの給油時期を図り、リザーブタンク は使わないようにしているということだった。
そういえば、教習所で乗ったCB400も燃料計はついていなかったように思う。てっきり、私は走行距離を見て だいたいの見当をつけて燃料補給をするものだと思っていたが、それはあまりに危ないなと思った。マグナを見て、こんな原付もあるんだ、と感心した私ではあったが、シート下にモノをしまうことのできない実
用性のないオートバイに乗ろうとはこの時は毛頭思わなかった。
そもそも、50ccのアメリカンバイクってパワー不足で中途半端ではないかと思っていた。しかし、車に乗るようになった今になって思うと、荷物を運ぶ実用性を車に求めれば、趣味の領域であるオートバイに実用性を求める必要はない。また50ccの原付は保険も安いし、自動車保険の種類によっては自動車の保険に原付の保険がセットで
ついているものもある。
50ccのマグナはまさに、アメリカンバイクを所有したいという夢を手軽にかなえてくれる代物だったのだ。
だが、原付しか知らぬこの時の私に原付マグナの魅力は理解しうるはずもなかった。