天体コラム(1) ビッグバン理論はこうして出来た

○宇宙は太古から一定!?

 実は、宇宙に始まりがあったと考えられるようになったのは20世紀になってから。それまで、宇宙は遠い昔からずっと変わらない形で存在し続けていると科学者たちは考えていました。1916年に一般相対性理論を発表したアルベルト・アインシュタインでさえ、当初はこの考えを持っていました。

 そのため、実は一般相対性理論における重力場の方程式の解が宇宙の膨張や収縮を示していたにもかかわらず、アインシュタインは定数項を付け加えて、方程式の修正をしていたほど。後に「これは失敗だった」とアインシュタインは語っています。

 いずれにせよ、これから紹介するビッグバン理論の全体的な枠組みは、アインシュタインによって既に大成され、これから紹介する科学者による観測結果や理論と、一般相対性理論の細部の修正によって形作られています。

○膨張する宇宙

 宇宙の形が変わらないという考えを覆したのが、エドウィン・ハッブル(1889〜1953年)というアメリカの天文学者です。
 彼は観測によって、銀河は地球からの距離の遠さに比例して、大きな速度で地球から遠ざかっていることを発見しました。なぜ解ったのか?ということは後で書くことにして、距離に比例して遠ざかっていくということは、つまり宇宙が膨張しているんだ、ということを突き止めたのです。これをハッブルの法則といいます。

 ちなみに、「銀河は地球からの距離の遠さに比例して」と書きましたが、地球を含む太陽系が膨張の中心点として固定されているというわけではなく、どこの銀河で観測しても、その銀河から見て距離に比例して他の銀河が遠ざかっていくように見える、そうなのです。それは、各銀河がどこか中心点を基準としてそこから移動しているからではなく、これら銀河が存在する空間そのものが膨張しているからです。

 さて、銀河どうしが距離に比例してどんどん遠ざかっていく、つまり宇宙が日々膨張していくということは。
 逆に過去にさかのぼれば、宇宙の始まりは1点に集まっていたという推定が成り立ちます。

○ハッブルの法則の根拠とは?

 ちなみに何故、観測で銀河が遠ざかってくることがわかったのか。ここで登場するのがドップラー効果です。
 救急車が出すサイレンの音は一定の音であるにもかかわらず、救急車が近づいてくるときは音程が高く聞こえ、遠ざかっていくときは低く聞こえますよね?

 音のドップラー効果は有名ですが、これは光の波長にも当てはまります。
 すなわち、近づいてくるものから発せられる光の波長は圧縮され青く、遠ざかるものは引き伸ばされ赤くなるという法則なのです。
 
 ハッブルが長期にわたって、様々な銀河から来る光のスペクトルを調べたところ、殆どのスペクトルが赤いほうに向かってずれていること(赤方偏移)が解りました。赤いといっても、その赤さは様々。遠くにある銀河のほうが、光の波長がより引き伸ばされ、光がより赤く変化します。こうして、ハッブルの法則が導きだされたのです。

○宇宙の始まりは高温で高密度?

 宇宙の始まりはどのような姿だったのか?
 1946年、ロシア生まれのアメリカの天文学者であるジョージ・ガモフ(1904〜68年)は「宇宙はかつて、高温で高密度だった」との説を提唱します。この根拠となるのが、自然界に存在する水素とヘリウムの量でした。

 実は自然界では、水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム・・・からウランまで、実に92種類の元素があるのですが、各々の割合がどの程度かご存知でしょうか?実は、水素が92.4%、ヘリウムが7.5%。ということは、その他の元素は全部合わせても0.1%にしかなりません。ガモフは、自然界における水素とヘリウムが割合が高すぎることに着目しました。

 次に考えたはヘリウムってどうやって出来るのか?ということ。
 ヘリウムは、太陽などの恒星内部、高温・高密度の環境下で、水素から核融合反応によって作られることがわかっていました。しかし、太陽をみても、自身の核融合反応だけでは、太陽にあるヘリウムの量が多すぎるということ。

 また、この水素とヘリウムの比率は、太陽だけでなく、おおむね他の恒星の表面を観測しても近い値となっていました。

 すなわち、もともと宇宙全体に水素とヘリウムが一様の比率で広がっており、それは、恒星の核融合反応だけでは説明しづらい。

 そこでガモフは、ハッブルの法則で過去の宇宙の姿を推定し、宇宙の始まりは今よりはるか小さい状態で、高温・高密度であった。そこには水素が満ちていて、そこでの活発な核融合反応によって大量のヘリウムが合成された、と提唱しました。

 これに対してイギリスの天文学者であるフレッド・ホイル(1915〜2001年)は「定常宇宙論」を根拠にしていたため、ガモフの理論には否定的で、1950年にガモフの理論を「ビッグバン」(大爆発)と呼び捨てました。ガモフの理論がどうやって立証されたかは後ほど紹介しますが、このビッグバンという呼び方は解りやすく、すっかり定着しています。

○ガモフの主張を裏付けろ

 続いて1965年、アメリカの電波天文学者であるアーノ・ペンジアス(1933年〜)と、ロバート・W・ウィルソン(1936年〜)によって、宇宙のあらゆる方角からほぼ同程度の強さで届く、可視光よりも遥かに長い波長の光を発見しました(宇宙背景放射)。特定の天体からではなく、宇宙の背景からやってくるその光を、彼らは天体観測のノイズだとして、取り除こうとします。

 じゃあ、この天体観測のノイズとやらは何だ!?という答えを出したのが、アメリカの宇宙論研究者であるロバート・ディッケ(1916〜1987年)と、ジェームズ・ピーブルズ(1935年〜)でした。

 実は
 ・高温の物質は波長の短い光を放つ
 ・低温の物質は波長の長い光を放つ
 という法則があります。

 そこで、ビッグバン直後の宇宙を満たしていた高温で波長の短い光が、宇宙の膨張によって引き伸ばされたと仮定したとき、ペンシアスらの観測したノイズの波長とほぼ一致することを突き止めたのです。ということは・・・ビッグバン時代には波長の短い光で満たされていた。・・・すなわち、高温状態であったんだということが、観測によって明らかになったのでした。

 こうしてビッグバン理論の基礎が出来上がり、多くの科学者たちが宇宙の最初はビッグバンから始まったことを支持しています。

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