2002年に作曲家、千原 英喜(1957〜)が発表した、室町時代の「御伽草子」をテキストとした無伴奏の3曲のうちの1曲目。 タイトル通り、この曲は「浦島太郎」をベースにストーリーが展開していきます。 話が皆さんご存じなだけに、理解もしやすい曲かと思います。
私はこれを高校の合唱部に入って間もなく大会用に練習したのですが、この頃音楽はずぶの素人でしたのでもう大変で大変で…(苦笑)必死で歌いまくった思い出の曲です。
基本的には原典の「浦島太郎」をベースとしていますので、勿論言葉は歴史的仮名遣いで歌われ、設定も皆さんが知っている浦島太郎とは若干異なる部分もあります。(例えば、「亀」=「乙姫」という設定だったり…)
最初にTenorとBassにより、浦島太郎が亀に「お前は命があり、長く生きるから返してやろう。」と語るシーンから物語がスタート。 続いて女声も加わって亀(乙姫?)に連れられ竜宮城に着くまでをざっくり紹介。竜宮城に着いたところで、次の展開へと向かって行きます。
そして一気にテンポが速くなり、東西南北で四季が異なる竜宮城の美しさ、時を忘れて楽しむ竜宮城でのあっと言う間の3年間(長い!)の浦島と乙姫の生活が一気に描かれます。ここが非常にテンポ良く、楽しく格好よい!(歌う方は地獄ですが…)
ここでTenorのソロ。「私に30日の暇を下さい。」Bassと他のTenorも加わり「父母のことが心配です!」…3年遊びほうけてようやく我に返ったようですね(笑)
。ここからは和歌による受け答えのシーンとなります。古典作品にはつきものの和歌ですが、やはり枕詞や掛詞など修辞技法てんこ盛りですので全音楽譜出版社から出ている楽譜についている解説を参照してちょっと解説。
乙姫:「日数えて重ねし夜半の旅衣 たち別れつついつかきて見ん」
(訳)(毎日毎晩重ねてきたあなたとの生活。でも、あなたは旅にでてしまう。ここで別れてもいつかまた再開したいですね。(叶わないことだけど…))
※「重ね」→「旅衣」=「旅」と「月日(を重ねる)」、「たち」=「(布を)裁つ←(旅衣)」と「立ち別れ」、「きて」=「(また)来て」と「(旅衣)着て」
んでまあ、「これが私の形見(玉手箱)です。絶対に開けないでね…(泣)」と言うと、事情を知らない浦島は…
浦島:「別れゆく上の空なる唐衣 ちぎり深くは又もきて見ん」
(訳)((そんな心配すんな)今は私の心もうつろで別れていくが、固く約束したんだ、必ず帰って来るよ!(笑))
ちなみに、この部分には沖縄音楽の旋律が使われ、どことなく南国(=竜宮城)のような雰囲気に仕上がっています。
再度場面転換し、浦島は故郷に帰ってくるのですが、皆さんご存じの通り、竜宮城の1年は現実世界の数百年に相当するようで、故郷は虎が寝そべる寂しい野辺となってしまっていたのです!
ここからは、ハミングや「a__」、「o__」が続いており、詳細な場面は分かりませんが、私は、最初は現実に絶望し泣き叫ぶ浦島を表現し、後半部では玉手箱を開け、煙に包まれ翁となる様子が表現されているように思います。
そして翁となった浦島の和歌。この和歌は浦島の和歌にもかかわらず男声と女声で歌われています。恐らく浦島の心には乙姫の声が…。
浦島:「君に逢う夜は浦島が玉手箱 あけてくやしきわが涙かな」
(訳)(君と過ごした夜は浦島の玉手箱のようなものだった。玉手箱を開けて悔しいように、夜が明け君と別れてしまうのが悔しくて涙が出てくる)
と乙姫との過去を懐かしむ後悔の和歌が2度くり返され、「u_」→「o_」→「a_」とハミングで幻想的に締めくくられます。
さて、この曲は言葉やストーリーで聞かせる音楽なので、純粋に浦島のストーリーと日本的・琉球的な音楽を楽しんで見ることをお薦めします。展開も簡潔で分かりやすいので、劇を見ているかのような気分になります。
合唱曲というと、どことなく外国的なイメージを持つ方も多いと思いますが、実はこのようなかなり日本的な曲もあるんですね。
なお、千原先生の楽曲には東洋や日本の音楽や古典を活かしたものが多く、いずれもオススメです。