1998年に、作曲家、鈴木 輝昭(1958〜)が、詩人宗 左近(1919〜2006)の3つの詩に作曲し発表した混声4部の組曲「宇宙の果物」の初曲。その後さらに女声3部版が出版されています。
この曲は一時全国の中高生合唱団がコンクールで演奏するほどの人気となった曲ですので、業界人には知られた曲ではあります。非常に独特な世界感の歌詞と、あまりにも複雑な現代的譜面の曲ですが、非常に格好いい曲の一つと言えるでしょう。
私もこれをコンクールで歌った一人ですが、複雑すぎて何度挫折しそうになったか…
※アカウントのない方には申し訳ないですが、今回は都合によりニコニコ動画のみです。
神秘的で不思議で哲学的な一曲。まず聞くもよし、下の解説を見てから聞くともっと深くなる(かも)。
こちらは女声3部版。(デイリーモーション動画から)
女声版は、「女の怖さ」なのか?混声版とは又違った迫力や怖さがあります…
※解説は混声4部版基準に女声3版の解説を加えています。女声版は譜面を持っていないので一部パートを誤表記の可能性があります。
まず、はじめに、この曲が変拍子であることを書いておきます。(詳しくは用語解説を参照願います)
しかも、この曲は特に複雑な変拍子が用いられ、例えば「♪鳥はなぜ〜」では、
「3/8+1/4(拍子)→2/4+3/8→4/4→3/4→2/4→1/4→3/8…」
といった、リズム感がない筆者には涙ものです(涙)
最後まで不規則なリズムが続きますが、問いかけ、語りかけの多い曲のため、かえって自然な様にも聞こえます。
はじまりはアカペラで打ち寄せる波のような各パートの「A」のヴォカリーズ。一旦盛り上がって収束し、再度浮き上がる、神秘的な雰囲気で導入していきます。
そしてここからは問答。言葉の形に合わせたと思われる変拍子が特徴的です。混声版では男声が「鳥」「魚」について問いかけると…女声から素敵な返事が(非常に意味深な言葉付きで)返ってきます。
女声版はMezzoに対してSopranoとAltoが返していきます。最後の「恋」は全パートで問いかけ、返答。その後の「♪むこうのむこうへ」をくり返して穏やかな気分に浸ります…
が!…その穏やかな空気を破壊するようにピアノが突入!雷や閃光を連想させる衝撃が響き渡ります!
ピアノ間奏のフェルマータが終わると、先ほどの問答が引き続き変拍子、テンポを上げ明るく伴奏付きで歌われます。私が思うに、先ほどの疑問が解決し、「そうか、そうなのか!」と純粋に嬉しがっているのではないかと。
しかし、これが終わると新たな疑問が。「地球はどうして回るのか?」「宇宙はどうして美しいか?」と、疑問の対象は拡大。「なぜ?」「どうして?」という叫びを表現したと思われる壮大なヴォカリーズ「A」が大きくなったり小さくなったり、段々と大きな波となって押し寄せてきます。
最後の波につけられた「フォルッティッシモピアノ※」からはシリアスな雰囲気となり、輪唱のように先ほどからの「地球」と「宇宙」の問答が繰り広げられます。まず混声版ではBass(女声版ではAlto)が「♪地球は〜」と入ると追いかけるようにSoprano(Mezzo)が「♪宇宙は〜」とはいり、それにTeror(Soprano)が「♪愛だから〜」とBass(Alto)に返答するとAlto(Alto)もSoprano(Mezzo)に「♪故郷だから〜」と返答。
その問答がくり返されると、全パートの「♪どこまでも」ののばしで曲中での最高速まで加速し、一気にドラマチックな雰囲気となります。ピアノも非常に激しく、一層複雑化!ここでは全パートで「自己と相手の生きる理由」を迫り来るように問い、回答。最後のゆったりとした「♪祈りだから」はくり返されて段々と力強くなっていき、何処までも広がる宇宙や空をイメージさせる雰囲気の長い間奏が入ります。(ここでテンポが落ちています)
間奏が終わるとテンポが下がり、最初のような神秘的な雰囲気に戻ります。ここでは最初の波を連想させる穏やかな言葉の掛け合いが続き、ラストに向けて期待を高めていきます。
最後は当初のテンポに戻り、「♪曙の中に わたしたちがいる」と非常に意味深すぎる言葉を残し、消えてゆきます。
※フォルティッシモピアノ:記号は「ffp」と表記=「フォルティッシモ(更に強く)からいきなりピアノ(弱く)にする」の意)
ここで私なりの解釈で連想される場面です。
…とある早朝の海岸、波が穏やかに打ち寄せては引いていく。時に早く、時にゆっくりと。
同じように太陽も揺れながら昇っていく。
そこに少年が立っている。誰かと話しているようだが姿が見えない。
「どうして鳥は空を飛ぶの?」
…どこからか声がする。「それは羽があるからだよ。それで光を渡るんだ。」
「どうして魚は泳ぐの?」
…また声。「それはひれを持っているからさ。闇を潜るために。」
「どうして人は恋するの?」
…またまた声がする。「それは相手にあこがれるからだよ。それでむこうの世界を目指すんだよ・・・・」
…突然閃光と闇が交差する!少年が目を開けると、そこは宇宙。そこにもう一人の自分そっくりの少年が立っていた。
二人は再びさっきの話を確認しあった。最初は疑問だったけど、そんな簡単だったのかとおもう。
しかし、しばらくして周りを見渡し少年は思った。
「地球は何でまわっているのか?」「宇宙はどうしてこんなに綺麗なんだ?」どうしてなのか分からない。彼は叫んだ。心のわだかまりを。
少年は向かい合う少年に迫った。
「地球は何でまわっているのか?」…「それは僕たちの愛だよ。だからそれに答えていつまでも回る」
「宇宙はどうしてこんなに綺麗なんだ?」…「それは僕たちの故郷だから。だからどこまでも美しく見える」
少年は最後の質問をぶつけた。
「僕たちはどうして生きなければならないんだ?」
…「それは何かに祈らなければならないから。それは何時、何処でも同じだ」
すると、彼らは宇宙から自由落下をはじめた。きらめく宇宙が離れていく。きらめく朝日が迫る。美しい地球が包んでいく。
…少年は海岸に戻っていた。横には先の少年はいない。
波が穏やかに打ち寄せる。
昇りゆく朝日を見て少年は気付いた。
「…ねえ、あそこに僕たちが映っているよ。」
…うむむ。かなり解説に困る曲ですね。特に最後は消化不良です。ごめんなさい。でもこう書くことしかできません。
まず詩が非常に理解が難しい。ただでさえ意味深な言葉がくっついてくるのに、最後の最後で「なんで『わたしたち』(しかも曙のなかの)を見ることが出来るのか?」という、かなり疑問を残したまま完璧に解決しないで去っていく曲です。
まあ、皆さん、曲聞けば大体作詞者や作曲者の伝えたいことは分かるものですし、分からなかったら何度でも聞いてみてくださいな。(という名の解説放棄)
しかし、この独特で難解な詩に複雑で現代的な譜面が絡み合って何とも言えない世界を形成しています。
そもそも「輝昭の曲」というのは非常に歌詞や技法が特徴的で、非常に賛否が分かれるところ(いわゆる「コンクール用」の一般向きじゃない曲が多い気がします)なのですね(苦笑)。
ここ数年輝昭作品はコンクール用として(特に女声合唱で?)人気が継続していまして…以前とある大会で「作曲:鈴木輝昭」(すべて別の曲)を続けて聞きましたが、やはり(当然か)展開や表現が似ていて正直飽きました。(歌っていた方ごめんなさい)
ですが、単発で聞く分には聞いていて展開が面白いですので、独特な輝昭ワールドを楽しんだり、歌詞の持つ雰囲気を味わってその後で考えてみたりと、そんな楽しみ方をしてみるのも一興です。
少なくとも、万人受けはしないことは確かですが、合唱曲ってそうゆうのが大半ですよ。