作曲家、源田 俊一郎(誕生年は分かりませんでした…)によるアレンジ曲。現在、混声4部、女声3部、男声4部版が出版されています。
この曲は日本の原風景を象徴する唱歌、「故郷」を軸に季節感溢れる数々の文部省唱歌を織り込んだ計14分(!)のピアノ伴奏付メドレーになっています。(オーケストラ版もあるらしいですが…)
合唱界では比較的ポピュラーなため、演奏会などでも比較的耳にすることが多い曲集かもしれません。私は混声版をほぼ全曲通し(演奏時間の都合で一部カット)でやったことがありますが、14分の曲というのは本当に長いし疲れますね(笑)
まずは混声4部版。(解説の下に女声3部、男声4部版もあります)
基本解説は混声版基準で行きますので、再生しながら説明を見るも良し、何も説明を見ないでワクワクしながら聞くも良し。
何分、登場する曲が全11曲と多すぎるので、ここで原曲を登場順に整理しておきましょう♪
@故郷
詩:高野 辰之 曲:岡野 貞一
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A春の小川
詩:高野 辰之(改作:林 柳波) 曲:岡野 貞一
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B朧月夜
詩:高野 辰之 曲:岡野 貞一
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C鯉のぼり
文部省唱歌
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D茶摘
文部省唱歌
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E夏は来ぬ
詩:佐佐木 信綱 曲:小山 作之助
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Fわれは海の子
文部省唱歌
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G村祭
文部省唱歌
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H紅葉
詩:高野 辰之 曲:岡野 貞一
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I冬景色
文部省唱歌
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J雪
文部省唱歌
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@故郷
詩:高野 辰之 曲:岡野 貞一
タイトルだけでは「?」な人も多いかもしれませんが、今さん一度は聞いたことあるはずです。
※解説は混声4部版基準です。
はじまりは「故郷」から。懐かしさを感じる前奏から、故郷への思いを歌うあの曲「♪兎追いし〜」が入っていきます。「故郷」が終わると、回想シーン(?)に入り、春から冬まで季節ごとの曲が歌われます。
トップバッターは「春の小川」。流れるようなテンポで生命に溢れた情景を描き出します。
つづいてはドラマチックな雰囲気に変わり、夕暮れ時「朧月夜」が始まります。この曲では女声のみが前半部を歌い、後半は男声を加えて厚みを増しています。
「朧月夜」の2番「♪さながら霞める」でフェルマータをかけてから、一気にテンポを上げて勇ましく「鯉のぼり」がスタート!(私の好きな部分です)なんと入りはTenorのソロパート!つづいてBassも加わりますが、1番は男声のみで歌いきります!「朧月夜」とは対照的です。2番では女声も加えて勇ましさの中に爽やかさがある仕上がりです。
「♪姿有り」からは軽い曲調となり、「茶摘み」がスタート。1番は女声のみ、2番は女声を男声が追いかける形態になっています。 この曲は手遊びをつけて歌われることが多いですが、私達が歌ったときには1番の休みの間男声でやってました(笑)
ハミングのあとで間奏。「夏は来ぬ」が爽やかに始まります。女声パートの裏での男声のハミングが効果的です。この曲は1番の2番の間の間奏がむちゃくちゃ格好いい!ドラマチックで繊細、とにかくここはピアノの聞き所です。
その爽やかな雰囲気から一転、男声により、「われは海の子」が勇ましく始まります。(この曲も好き)。2番では女声に主旋律を譲り、「♪吸いてわらべとなりにけり」をくり返して終了。
すると、どこからか太鼓の音が…「♪ドーンドドンドン…」Bass→Tenor→女声と加わっていき…「村祭」がスタートします。(これも好き)ここではTenorが村の少年、女声がその母or姉の台詞を喋る形態(Bassは太鼓や笛ばっかりですがこれも楽しい)で、そのほか太鼓や笛など、村祭りの楽しさが表現されています。
祭りが終わるとしっとりとした間奏が入り、「紅葉」がスタート。この曲は輪唱のような感じで歌われることが多いですが、この編曲でも女声を男声が追いかけています。
続いては「冬景色」。この曲は2番の「♪烏啼きて〜」でようやくBassに主旋律が回ってきます(笑)
さて、ここで「雪」が楽しげな間奏と共に始まります。1番と2番の間のハミングも冬の冷たさを感じさせてくれます。が、この曲Tenorがかなり高いんですよね(苦笑)
…これで回想は終わり。無伴奏で歌われるのは「故郷」の2番。「♪いかにいます父母〜」です。伴奏がないため、一層しみじみと、どこか悲痛に聞こえます。
そしてピアノが復活し、転調。3番「♪志を果たして〜」がスタート。最後は全パートで壮大な雰囲気で故郷を称えるように歌い上げます。
3番が終わると、Sopranoのソロパート「♪水は清き故郷」が入り、そこから「♪兎追いしかの山」をSoprano→Tenor→Alto→Bassで輪唱のようにかけ合って、盛り上げていき…最後は全パートの「Ah_」で壮大に締めくくられます。
こちらは女声3部版。こちらも基本構成は同じです。混声版とは又違った感じがしますね。
男声4部版も一部抜粋の演奏ながら発見。
構成は「故郷」→「紅葉」→「冬景色」→「雪」→「故郷」です。
ちなみに完全版はニコニコ動画にありました。会員の方はこちらもどうぞ↓
さて、このメドレーは元々の曲自体も素晴らしいのですが、編曲が非常に上手いんですね。
そもそも、合唱曲というと「合唱曲」としてつくられたものが多いのですが、一方で、ポップスや唱歌のアレンジも毎年多数出版されています。
その中には個人的には「?」なものも多いのですが、このメドレーに関してはしっかりとした先生が編曲されている上、完成度が高くアレンジ物の中では一級品です。(源田先生は他にも素晴らしいアレンジ作品が多いです。)
私が歌ったのは2010年の終わり頃でしたが、今もう一度歌うことになったら、込める感情は変わっているでしょう。多分、歌い終わるときには涙だらけだと思います。
あのとき、「想定外の津波」により(実際はそれだけではないと思いますが)人間の英知を集めた化学の結晶、原子力発電所が牙をむき、爆発。そこに住む人たちの「故郷」を汚し奪った…。私は原発事故の直接の被害者ではありませんが、いつも「故郷」やこのメドレーを聞くたび、故郷を奪われた方々のことを思わずにはいられません。
一日も早く、相双地方含め、東北沿岸が美しい故郷を取り戻し、被災者の皆さんが安心して故郷で暮らせるようになることを祈るばかりです。