2009年に作曲家、松下 耕(1962〜)が、愛の詩人、八木 重吉(1898〜1927)の詩に作曲した無伴奏の男声合唱曲。 内容は、ずばり「かなしみ」。自分から自分に降り注ぎ、積もり積もってゆく悲しみを静かに、時々感情的に歌い上げます。
この曲は2012年度の「連盟」男声合唱の課題曲のひとつでしたので、大会でとある団体の演奏を聴きましたが、なんとまあ力強く美しいこと!改めて男声合唱もいいなと思った次第です。
単なる悲しい曲に終始せず、ドロドロした作者の内面を出しつつ、後味よく仕上げているのが好感です。
導入部は全パートで「しずかに」導入。最後にBassが木霊のように現れます。「♪たまり〜」からはTenorTが高らかに主旋律を歌い上げ、その裏で他のパートが和音を作り上げ、Bassはここでも木霊のように現れます。
「♪ひそかに〜」からは各パート間で言葉をかけ合いながら盛り上げ、「♪透きとほつてゆく」で曲は一旦収束。(←ここは聞いていて心地よいです)
次は同じ歌詞を先ほどよりも「しずかに」展開しますが、途中で一気に語気を強め、「痴人(=馬鹿な人)のごとく」「かなしみをたべ」続ける自分の様子が語られます!
ここのTenorTの主旋律がただでさえ格好いいのですが、階段状にTenorT→TenorU→Baritone→Bassと掛けあう他パートの「♪たべている」、そして最後に多パートが和音で伸ばす中、それを変化させるTenorU(さらに2つに別れています)の「♪たべている」…これにより一層曲が感情的になっています。
後半はTenorTと、他パートが追いかけっこをするような展開で盛り上げていきますが、「Ah…」とフォルテピアノ(fp)で小さくなり「たまってゆく」…
他パートがそのまま伸ばす中、Baritoneが最初の主旋律をソロパートで歌い上げ、最後はTenorTはそのままですが、TenorUとBassを加え、「♪しずかに」…とフェードアウトしていきます。
作詩の八木 重吉について調べますと、熱心なプロテスタント信者だったようですが、それ故罪の意識にいつも苦しんでいたとのこと。そして、29歳の若さで結核で病没、詩集が世に出されたのはその後でした。歌詞を見れば分かりますが、「かなしみ」をどうすることも出来ずただただ罪の意識(悲しみ)を溜め込んでしまう…というつらさがにじみ出てきますね。
また、以前「今年」でも書きましたが、松下先生の曲は「情熱的」な点があるそうで、それ故、曲も調からして決して明るくないのですが、前半の緊張から、中盤は前半で抑え溜め込んでいた感情が爆発するように曲が変化し、最後はそれを上手く収めて終結することで、単に静かで退屈で悲しい曲にせず、後味は悪くなく、むしろ心地よく仕上げています。
さて今回、初めて男声合唱曲を単独で取り上げました。また、男声合唱の動画が少ない故、他版は紹介できても男声版が紹介できない(泣)というパターンも多々あったため、男声の曲自体でもかなり久しぶりな感じですね。
そもそも男声合唱というジャンル自体、日本ではかなりマイナーな部類にはいるのですが、実際の所愛好者は結構いますし、混声や女声にない迫力にとりつかれると抜け出せなくなります。
特に男声合唱はこういう古い詩人の固い詩を歌わせると魅力が分かりますね。
私は中学→高校と混声合唱でやってきたものの(先日引退しました…)とある県立男子校(栃木の進学校では男女別学が主流です)の男声合唱を聞くたび、こっちもいいなあと思ったものです。
皆さんも混声や女声だけでなく、男声も沢山聞いてあげてください。(お願いですよ!)