作曲家、木下 牧子(1956〜)が、詩人、堀口 大學(1892〜1981)の詩に作曲した無伴奏の男声合唱曲集「恋のない日」の4曲目として収録される曲。内容を簡潔に話すと、「人間はどう生きるべきか?」とでも言えるでしょう。…あれ、タイトルと関係ない?詳しくは後述します。
この曲は2011年度の「連盟」男声合唱の課題曲のひとつでしたので、大会でとある団体の演奏を聴き、大変インパクトある歌詞に衝撃を受けました。
これは一度聴くと忘れられない曲。文句なしに格好良く、文句なしに感動的。
冒頭、BassとBaritoneのユニゾンが「♪人間よ〜」と呼びかけ、TenorTとUが加わり「♪知ろうとするな」。このインパクトあるSFチックな旋律が基本の旋律となります。そして、フォルティッシモの「♪在、不在」これもまた迫力あります。この後「♪〜緊急時…」でグリッサンドをかけるように音が下降し、テンポも下がっていきます。
同時に転調し、Batitoneから始まる「♪生きて在る」「♪死なずに在る」の掛け合いがスタート。ここからは安らぎの場面。そしてTenorTがファルセットで「♪感謝し給へ」。これ綺麗ですね。そのあとのTenorTからの「♪調和ある」の掛け合いからの…全パートで「♪宇宙の一点」(原文では点は旧字体の「黒占」です。)
そして転調、祈りの場面となり神秘的な雰囲気になります。ここのTenorTの「♪生きものとして在つたこと」…綺麗ですなぁ。そのあとは全パートで高らかに場面を歌い上げ「♪…そのものに」でフェルマータ…
曲もいよいよ終盤、調とテンポが元に戻り最初の旋律が復活します。ここからは終結に向け「♪人間よ知ろうとするな」を繰り返し…全パートで「♪墜落途上の隕石よ」!とフォルティッシモで歌い上げ、曲を終結させます。
人間を隕石に見立てるという斬新な発想、迫力と雄大さを兼ね備えた旋律がそれを一層引き立てており格好いいですね。
そもそもこの曲を思い出したのは私が受験勉強ラストスパートの頃、ロシア・チェリャビンスク州に飛来した巨大な隕石の映像を見たところ「♪にんげんよ〜」と最初の旋律が頭の中に流れてきまして(笑)。
で、近くに座っていた祖母が祖父に言うには、「戦争中の爆弾(焼夷弾?)もこれぐらい明るかったよね?」…ちょっとこれは曲の解釈の上でヒントになりそうです。
調べたところ、この詩が書かれたのは戦時中〜戦後にかけてと言われており、作者自身空襲や沢山の人の死を経験しているはずです。これは私の勝手な解釈ですが、作者は焼夷弾から隕石のイメージを持ったのではないでしょうか?また、隕石は全てが地上に落ちることはなく、大気圏で燃え尽きて流れ星となってしまうものもあるわけですが、そこに焼夷弾の犠牲者を見たのだと思います。
そこで作者は戦争という愚行で命よりも勝利を優先しようとする、まさに「墜落」状態にある人々に対し、「生きていると言うことが大事なんだ!」とでも伝え、またそのような状況下でも自分が何とか生きていられる事を何か神のような大きな存在に感謝したかったのではないでしょうか。
確かに、生きているということは、どんな喜びにも勝るものです。
しかし、人間は何か物質的な幸せを知ってしまったが故に、例えばお金がないとか、仕事がないとか、そういうだけで不幸に感じてしまうんですよね…。
この曲はそんな人々に本当の幸せを気付かせてくれるかもしれません。