二十億光年の孤独
詩:谷川 俊太郎 作曲:木下 牧子
“Nijyuoku-kounen no kodoku”
poem:Tanikawa Shuntaro music:Kinoshita Makiko

(曲解説:U-lineのA)
○どんな曲?

 1952年に詩人谷川 俊太郎(1931〜)の処女作として発表された詩に、作曲家、木下 牧子(1956〜)が1992年に作曲したピアノ伴奏付きの合唱曲。

 当初は混声3部として作曲されましたが、後に混声/女声・同声/男声合唱曲集「地平線のかなたに」の出版にあたりそれぞれ混声4部版、女声・同声3部合唱版、男声4部合唱版も作曲されています。

 内容ですが、そもそもタイトルの「二十億光年」というのは当時観測できた最も遠い星雲との距離のことだそうで、詩では果てしなく広い宇宙の姿が描かれ、音楽も緩急のメリハリがきき、転調が多用されたダイナミックな非常に格好いい音楽に仕上がっています。

 この曲は原詩自体も評価が非常に高く有名でしたが、合唱曲のほうも発表直後からかなりの人気。現在でも中学・高校内の合唱コンクールやNコン、連盟でも演奏されるケースが多いため、90年代以降の中高生なら合唱に興味がなくとも聞いたことがあるのではないでしょうか?筆者は高校のクラスで混声4部版をやりましたが、難易度はやや高いものの非常に格好良く、若いうちに歌えて良かったなと思っています。

○混声4部版 

20億光年の孤独 札幌市立手稲東中学校 投稿者 rapidstyle

 一番オーソドックスなヴァージョン。後で紹介する混声3部版の進化形とも言える存在です。
 他版と異なり4声部のため、一部の掛け合いが多いなど若干異なる点も多く、男声が2つになったことでハモリも増え、時々現れるTenorの格好いい高音やBassの安定感ある低音により聞き映えがするように思い個人的には一番オススメです。

○混声3部版 

 最も最初に発表されたヴァージョン。中学合唱では混声4部版と同じぐらいのシェアがあるようです。
 4部版に見られる男声の低音がそれほどでもないため混声4部のような深みこそありませんが、こちらも十分な聴き応えです。男声が少ない場合や中学生にはおススメかも。

○女声・同声3部版 

 女声・同声3部版もあります。私も最近まで存在を知りませんでした(笑)演奏は女声での演奏です。小学生による同声の演奏も時々見られます。
 女声合唱という特質上低音がないのが物足りないという向きもあると思いますが、女性の澄んだ声により軽やかで後味スッキリな仕上がりです。この演奏はちょっと早めですが、これぐらい早くてもいいかもしれませんね。

○男声4部版 

 2004年の男声4部版「地平線のかなたへ」発表にあたり編曲されたもっとも新しいバージョン。(ようやく探し当てました)雰囲気的には混声4部版を男声用にアレンジしたような感じですね。重低音がなんとも「万有引力」「ひずんでいる」な感じ(?)を出していて好感です。


 一応、木下先生は「若者向け」に作曲したと仰っていましたが、若々しい心を持っていれば歌うのに年は関係ない!(動画情報ではこの合唱団の平均年齢は65歳…)


 なお、この動画は後半で同じ曲集に収録の「卒業式」(こちらもいずれ解説予定)を演奏しておりますのでこちらも聴いてみてください。

○曲の聞き所

 ここでは曲の大まかな流れを見ていきます。

  ※パートの記述は基本的に省略します。表記する場合は当然各版で異なりますので、緑…混声4部 青…混声3部 赤…女声・同声3部 とします。(男声4部版は解説を省略します。)また、混声3部の男声は「Male」で表記します。

 曲の導入は、無限に広がる宇宙にぽつんと浮かぶ地球をイメージさせる無伴奏で穏やかに導入。伸ばすパートの裏で別パートが優しく「♪上で」を掛けあいます。

 前半部は地球に住む「人類」の生き様が描かれておりますが、特にこの部分は導入と言うことで「目覚め(眠り→起き)」を表現しているのでは?

 そして段々と目覚めるように声量が大きくなり、「♪火星に(←コレ重要!)仲間を欲しがったりする」で一旦収束。次の「♪する」で、メゾフォルテピアノで一気に声量を落としてから急速にフォルテまでクレッシェンド(記号ではmfp<f)しビッグバンのように曲がスタートします!!
  
 それを合図にテンポが上がりピアノ伴奏がスタート!このピアノ伴奏も聞き所が多いので後々も注意して聞いてみてくださいね。
 間奏の後で歌われるのは先ほどと同じですが、テンポが上がり、弾むようなピアノ伴奏で躍動感ある展開(働きを表現?)になっています。特に「♪上で、上で…」の盛り上がりの最後に来るAlto(MaleAlto)による「♪球の上で」が格好いい!その後の「♪眠り〜欲しがったりする」もスピードと躍動感を保ちながら歌い上げます。

 間奏の後で転調し、どこかシリアスな雰囲気になったところでTenor(MaleMezzo)ソロパートで現れる「火星人」!!(ここ混声版では男声の見せ場です!) 中盤は荒涼とした火星、火星人の生き様を想像します。転調により先ほどとはアレンジが変わっており、「♪球の上で」Soprano(他の版も同様)の高音に変わりこれも格好いい!

 そして「♪或いは…」からは「ネリリ」「キルル」「ハララ」という意味不明な言葉群が迫ってきます!
 なお、この言葉の意味ですが、解釈としては、「火星語」ということになっているようです。意味については音韻などから「寝る」「起きる」「働く」と呼応しているようですが、正確な意味はありません。そもそも何をしているかは「知らない」訳ですから、解釈は演奏者や聴き手の想像次第ですね。
※そういえば高校で、とある先生が「これは火星人同士で殺し合いをしているんだろう?」と解釈しましたが(「キルル」から連想?)、ちょっとその解釈は……(苦笑)

 そして「♪それはそれは…」と期待感を高めるように掛け合いで膨らませると、スフォルザンド(sfz)「♪まったく」→「♪たしかな…」これも聞かせどころ!
(あれ?何をしているか知らないんじゃなかったの??とは言ってはいけませんwww)

 間奏を挟んで転調し、ここからは宇宙の理を解説。
 力強い「♪万有引力…」、流れて広がるような「♪宇宙は…」が交互に現れます。
 この掛け合いは段々と音域と声量を上げ、それぞれの周期が短くなっていき、混ざり合ってカオスな状態になりますが、最終的には「♪ふくらんでゆく」で一体化。この時、曲はフォルティッシモ(ff)で最高の盛り上がりとなりますが…。
 すぐさまグリッサンドで下降しながらしぼんでしまいます…
 そして転調して「♪みんなは…」を各パートでかけ合い、ピアノもなくなっていき、先ほどの対極とも言える静かな雰囲気のなか「♪不安である」

 最後は伴奏が復活し再び明るく転調、先ほどと同じ旋律が戻ってきますが、先ほどとは少々構成が異なり(特に混声版は前半が女声のみに)、「♪上で」での盛り上がりも一回多い。そしてタイトル「二十億光年の孤独」が語られ、各パートの掛け合いにより「♪僕は思わず、僕は思わず…」と次の展開を期待させますが…
 …現れるのは予想を裏切って「くしゃみ」(笑)!!

 そして「♪した」もスフォルザンドピアノから急速にフォルテまでクレッシェンド(sfzp<f)して、くしゃみを表現(笑)。Soprano(他も同様)はそのまま「♪たぁー」と伸ばし続ける一方、下の他パートでは「ネリリ」「キルル」「ハララ」が再登場!何とも言えぬ不思議な雰囲気のままフォルティッシモ(ff)で曲は終了します。  

○まとめ
 先にも書いたとおり、この詩は1952年に書かれた谷川 俊太郎のデビュー作であり、既に発表から60年以上が経過しています。しかし現代においても表現が古くなるどころか逆に斬新なのは不思議なところ。さらにこれが収録された詩集「二十億光年の孤独」の出版当時、彼は19歳だったというのですから一層驚きです。

 詩については多くの方が見解を発表していますのでそちらに詳しいところは譲りますが、私としては宇宙において自分などの生命体や天体はちっぽけであること、それからくる孤独感と不安感の表現なのかなと。

 曲のほうも、詩に合わせて(?)かなりひねくれているというか…。意外性の塊ですね。
 めまぐるしく(?)転調し、穏やかな雰囲気が突然激しくなったり、盛り上げた声量が突然乱降下したり、突然火星語(?)が現れたり、何が出るかと思えば「くしゃみ」とか…聞く側の予想をいい意味で裏切って進行していくところが面白いですね。
 

 
 ご覧になっている方の中にはこれから演奏するという方もいるかと思います。ここで演奏した人としてのこの曲のポイントは

@聞き手に意外性を感じさせる
A緩急、強弱をはっきり
B楽しく歌う
C詩からイマジネーションを広げる

 なのだろうなと思います。これを考えるだけで聞き映えが大幅に良くなると思います。
 正直この曲は作曲者自身「難易度が高め」と曲集に書いていますし、かなり独特な表現が連続し、解釈も大変。(クラス合唱なら)それなりの覚悟で挑む必要があると思いますが、やってみるとかなりの楽しさとおもしろさを感じ病み付きになること間違いなし!!(自分がそうなので)もし、やりたいのでしたら、迷わずにやってみてください。後悔はしないはずです。