Whenever You Are
(あなたがどこにいても)
作曲:ポール ミーラー
composed:Paul Mealor

(曲解説:U-lineのA 2013年5月)

○どんな曲?

 2011年にイギリスの作曲家ポール ミーラー(1975〜)が作曲したもの。

 この曲はイギリス公共放送BBCの番組「The Choir」の企画(後述)で作曲されたもので、当初は女声3部(ピアノ・弦楽伴奏付き)でしたが、楽譜出版時に混声4部版がつくられ、いずれもピアノのみの伴奏となっています。

 ここで、その番組について紹介。(紹介しないと説明が上手くいかないんで)
 …この番組は若き合唱指揮者ギャレス マローンがそれまで歌とは無縁の生活をしていた人たちを合唱によって一つにまとめるという、合唱バラエティー(ドキュメンタリー?)。日本でもNHKがEテレやBS1で時折放送しています。

 この回のタイトルは「Military Wives Choir(軍人の妻合唱団)」(!)で、歌うのは英軍兵士の妻や恋人達(勿論素人)。彼女らはアフガニスタンなどへ派遣された愛する人の事を思い精神的に不安な毎日を送りつつも、表面上はタフに生きていた。ギャレスは英軍のチャリティイベントでの演奏を目標に猛特訓を始める… (この話はYouTubeで探せば英語版は見られますので興味のある方は是非!)

 …背景はざっとこんな感じですが、と、言うわけでこの曲はアフガニスタンへ派遣された兵士とその妻らの手紙をもとに、遙か離れた危険な地で任務を遂行する愛する人への愛が歌われています。

 この曲は2011年の「The Royal British Legion Festival of Remembrance(英国王室軍団戦没者追悼式典)」で演奏され、年末に「Military Wives Choir」のデビューシングルとして発売。発売から5日で45万枚を売り上げる驚異的ヒットを飛ばしています!(知らなかった…)

 U-lineのAはその翌年、受験勉強真っ盛りで合唱から離れていた頃たまたまNHKをつけたら「The Choir」を放送していて聴いたのですが、久しぶりに合唱曲で感動し、「合唱っていいな〜」と思い、「大学受かってやってやるぞ!」と思ったのでありました。(笑)
 ※日本語版のタイトルは直訳すると「あなたはいつでも」ですが、何となく不自然ですので、NHKでの訳を使用しました。

○女声3部(ピアノ・弦楽伴奏)版
           
 
 アップ時点ではこの版に関連するものしか動画がありませんでしたのでご了承ください。
 この動画は「Military Wives Choir(軍人の妻合唱団)」のシングルCDデビュー関連のPVで、テロップが付いていますので歌詞も分かりやすいかと。にしても彼女たち本当に元々素人だったの??にしては上手すぎです。(自分もここまで上手いかどうか)
 


○曲の聞き所

 ※今回は女声3部版を基準に解説します。

 この曲はSoprano、Mezzo、Altoに加え、SopranoにSolo(以下Solo)が設定されています。
 最初は実に美しいピアノ伴奏とSolo(+他パート)が、ヴォカリーズで導入します。このSolo格好いいですね〜。そして、Soloにより詩の最初の言葉が歌われます。この詩の前半は妻が戦場の夫へ送る手紙の内容となっていますので、彼女はその妻の役割といったところでしょうか。
 続いて他パートがユニゾンで歌い出しますが、フレーズの後半から段々とハモリ出しまして…

 「♪Light up the darkness,(闇を照らして!)」
 この部分、何とも素敵な旋律と伴奏と言葉とハモリ…非常に素敵で感動的です。 なお、歌詞中の「♪my prince of peace」は「私のキリスト」のような意味合いがあり、恐らく歌詞中の夫婦は互いを心の支えとして信頼していたのでしょうね。

 Soloのヴォカリーズを挟んで続いては夫から祖国の妻への手紙。この部分は男性が語るシーンのためか、Altoが主旋律を担当(とはいっても極端に低い音域ではないですけど)し、Sop.とMezzoは美しい高音でハモっています。

 そして、「♪Light up the darkness,(闇を照らして!)」…さっきと全く同じなんですけど何度聞いても素敵ですなぁ…
   最後はSoloの素敵なヴォカリーズとその裏での「♪may your courage never cease.(あなたの勇気が消えませんように)」で穏やかにフェードアウトするように終わっていきます。


○まとめ
 この曲はただ歌詞を聴いただけでは純粋に離れている2人の手紙交換を描いたバラード調合唱曲…といった具合なんでしょうけど、作曲の背景を知ると少し心が痛みますね。2013年現在もアメリカやイギリス、フランス等多くの国が危険な地域へ介入し軍隊を派遣しています。また、日本もPKOで自衛隊を危険の残る地域に派遣することもありますし(ここではそれが違憲かどうかについては保留しておきます)、多くのNGOやライターが紛争地へ赴いています。

 その現場で働く本人はもとより、大好きな家族や恋人と会えない、しかもその彼(彼女)は何時死ぬか分からないという状況におかれている祖国の家族や友人の苦しみはいかばかりのものでしょうか?実際、時には毎日のように戦地で多くの兵士や記者が亡くなっていくのですから。

 日本人でも記憶に新しいところでは、2012年にシリアで反政府勢力を取材中の日本人ライターが政府軍により射殺、軍事関連ではありませんが2013年にアルジェリアで武装組織のテロ攻撃等により日本人10名が死亡…など多くの事件が毎年発生しています。

 この曲を聴きますと世界は日本のように安全な(?)国はごく少数で、多くの現場でこういった不安にさいなまれている人がいたり、悲惨な事例が起きているのだなあと感じられます。世界が何処にも争いがなく安全ならば、家族が苦しい日々を送ることや、愛する人が争いで死んで悲しむこと、ましてや軍隊を派遣する必要なんて無いのですから。

  この曲を歌う際には、そういった人々や国際情勢についても理解を深めることで、より一層心のこもった感動的な演奏になるかもしれませんね。