「見ていた?そんなに近くなのか?」
「はい。場所は…、えーっと…。何て言えばいいか…、その…。」
川田はこの辺りの地理に明るくはない。目では見えていても、地名が分からないため、説明できないのだろう。どうしようかと考えていると、無線の先の声が変わった。
「KH7GIH、KH7GIH、各局聞こえますか?どうぞ?」
…親父だ。
「親父…、無線コードや、無線用語を使わんでくれ…。こっちは素人だ。」
「了解。爆発が起こったのは、白神山、ちょうど公園の辺りだ。こちらの窓から良く見える。」
白神山…、ちょうど役場の裏手にある山だ。あんなところに何が…。
「了解。規模はどの程度か分かるか?」
「かなりデカイ。そうだな…、家が1件ブッ飛ぶ程度だと思う。」
…確かにデカイ。一体何があったというのか…。
「了解。その他に何か、変わった事はないか?」
「いや、特にない。そっちはどうだ?」
こちらの状況を答えようとすると、新たに音声を受信した。
「…えるか?こちらは岡崎だ。繰り返す。聞こえるか?こちらは岡崎だ。」
「閣下!無事ですか?」
ようやく応答があった。今まで何をしていたのだろう?
「岡崎?閣下?貴様…、何者だ?」
…そういえば親父には岡崎に無線機を渡したことを言っていなかった、というより、無線機を使っての会話は初めてだ。慌てて岡崎が何者で、どういう経緯で無線機を渡したか説明する。
「それで、閣下、先ほどの爆発はそちらでも確認されましたか?」
次の瞬間、全く予想しなかった答えが返ってきた。
「ああ…。と言うより、今、現場にいるんだ。」
「はぁ?!」
突然のリアクションだが、それでも無線機に向かってしゃべっている自分はすごいと思う…。
「現場にいるって、どういうことですか、閣下?!」
「どうって…、言葉通りの意味さ。俺は今、白神山にいる。さらに言えば、あの爆発の原因も俺達だからな。さっきまでの会話は聞いていたよ。しかし、手が離せなくてね。応答が遅れてしまった。」
さらりと爆弾発言をしてくれる…。ツッコミどころも満載だ。親父など、さっきから何も発言がないところをみると、あっけに取られているかも知れない。
「俺達?誰か一緒にいるのか?それに原因って、そこで何があった?」
「誰って…。いいや、説明がめんどくさい。」
「めんどくさい?そんなこと言ってる場合か!?さっさと説明してくれ!」
あまりに理不尽な理由に声を荒らげる。しかし、岡崎は冷静だった。
「逆に言えば、そんなことを説明してる場合か?状況は時間と共に変化してるんだぜ?」
…確かに岡崎の言うとおりだった。痛いところを突かれて何も言えなくなる…。
「とにかく、この爆発について君達が心配することは何もない。君達は君達のできることをやればいい。」
いつの間にか、イニシアティヴを取られたことが悔しい。
「…了解。本当に問題無いんだな?」
「ああ、そっちはどうだ?」
…この男、自分は何も言わないで、俺にはそれを求めるのか?…まあいい。
「白藍病院で亀村以外の4人を発見した。ここでの捜索を続行する予定だ。こちらも特に問題はない。」
「本当か!?みんなの様子はどうだ?亀村は?」
今、自分で説明している暇はないと言ったくせに…。
「全員問題ない。亀村もすぐ見つかるだろう。他に連絡事項は無いな?」
「ああ、特には…。」
「よし、ならば交信終了。各自の無事と健闘を祈る!」
「「了解!」」
二つの声がシンクロして聞こえた。このような無線でしゃべると、どうも軍人もどきの口調になってしまう。しかし、何とかイニシアティヴは取り返すことが出来たようだ。本当はこんなことを気にしている場合ではないことは分かっているのだが…。
時々自分のプライドが嫌になる…。