クラス142「ペイサー」
British Rail Class 142 'Pacer'
旧ノーザン・レイルのクラス142。写真では2編成併結しての運用。
(撮影:アウトウッド駅、Outwood Station)
●基本データ
デビュー年 | 1985年 |
最高速度 | 120km/h |
製造会社 | ブリティッシュ・レイランド(British Leyland) イギリス国鉄鉄道工学部門ヨーク工場 (British Rail Engineering Limited, BREL York) |
運行会社 | ノーザン(Northern, NT) アリーヴァ・トレインズ・ウェールズ(Arriva Trains Wales, ATW) |
運行区間 | こちらを参照 |
編成詳細 |
クラス142 2連x96本製造、うち94本現役 |
●安価な車両を求めた結果英国鉄がたどり着いたレールバス
クラス142は「ペイサー(Pacer)」と呼ばれる英国鉄が製造したレールバスである。ペイサーには同種の他に試作車のクラス140、初量産型の141、そして現役のクラス143や144が存在し、主に非電化の地方路線でローカル列車の運用に入っている。2008年に制定されたバリアフリー法により2020年1月までにイギリスの鉄道車両は身体障害者が不自由なく使用できるように改造・新造されなければいけないため、車イスの乗車スペースや車イス対応トイレなどが備わっていないレールバスはそれまでに引退する見込みだ。レールバスとクラス142の導入背景
ペイサー・レールバスは1970年代後半に老朽化した旧世代のディーゼル車を置き換えるために英国鉄が製造した。当時英国鉄は苦しい財政難に陥っており、1950年代から使用し続けている旧型気動車をできるだけ安価で置き換えられる案を模索していた。伝統的に英国鉄は鉄道車両を自前で製造していたが、経費節減のため車両を外注する事も視野に入れていた。同時期にバス市場が非常に枯渇しており、バス製造会社であるブリティッシュ・レイランド社(British Leyland)は同じく財政難の状況。APT計画で一度協力した事のある両社は利害が一致し、バスの車体を鉄道用の台車に乗せた安価なレールバスの共同開発、製造に合意。
LEV1(Leyland Experimental Vehicle 1、レイランド試作車両)という単両の初期試作レールバスが1987年に製造され、試験走行を重ねた後本格的な試作車のクラス140が1980年に登場。英国鉄は改良を重ねた初の量産車であるクラス141を1984年に導入。翌年の1985年にはクラス142を2連x96編成を発注、導入し、更にはクラス143も発注。1986年からクラス144も加わり本格的にペイサー・レールバスをの導入を全国に展開した。
英国鉄時代の運用、相次ぐ故障の改善
クラス142/0と正式に呼称される1次車50編成が1985年春より導入され、グレーター・マンチェスター地区交通局(GMPTE, Greater Manchester Passenger Transport Executive)に14編成、イングランド南西に13編成、イングランド北部に23編成が配置された。1985年10月には英国鉄が46編成を追加で発注し、これらはクラス142/1と呼ばれこれらもニューキャッスルやリバプールを中心にイングランド北部に配属。ちなみに142/0と142/1の差異は後者に車体構造の補強が加えられただけであって通常は区別される事はない。
1990年代初頭にクラス142は改良工事を受け、機械式の動力伝達機器をフォイト製(Voith)の液体式に、エンジンはカミンス製(Cummins)のより出力の高いものに、更には二つ折り扉二枚のドアを二つ折り一枚に更新された。これにより信頼性は以前と比べ著しく向上したが、軽量な車体が原因の空転が未だに問題となっており、落ち葉が多い秋には遅延が頻発する。
現在の運用
イングランド北部:
一時期リバプール近郊を管轄下に置くマージ―サイド地区交通局(Merseyside Passenger Transport Executive)が独自の塗装で英国鉄所有のクラス142を運行していたことがあった。英国鉄民営化時には国鉄所有のクラス142はファースト・ノース・ウェスタン(First North Western)とアリーヴァ・トレインズ・ノーザン(Arriva Trains Northern)に振り分けられ、2004年には両社の管轄下の路線が一つのフランチャイズにまとまり、ノーザン・レイルがクラス142を受け継いた。2016年からは再びフランチャイズが更新され、現在はアリーヴァの子会社であるノーザン(NT)が運用。現在はローカル線だけでなく車両不足のために本来想定されていなかった都市間輸送にも使用されている。リバプール、マンチェスター、シェフィールド、リーズ、そしてニューキャッスルなどイングランド北部の都市圏ではよく見かける。
ウェールズ:
カーディフ近郊路線には英国鉄民営化後にクラス142が導入された。当時の運行会社であるヴァリー・ラインズ(Valley Lines)は自社のクラス150/2をアリーヴァ・トレインズ・ノーザンのクラス142と交換。現運行会社のアリーヴァ・トレインズ・ウェールズ(ATW)も同じくカーディフ近郊路線をクラス150/2やクラス143と共に担当している。
イングランド南西:
ファースト・グレート・ウェスタンはNTからクラス142を12本リースし、2007年12月からイングランド南西のローカル線での運行を開始。自社のクラス150を始めとするスプリンター気動車の改装とクラス158の3両編成化を補うため導入した。スプリンター改装が終了した2008年秋には5本がNTに返却され、残りの7本はクラス172/0の導入でロンドン・オーバーグラウンドから余剰となったクラス150が転属してきたのを期に2011年11月に返却。現在イングランド南西でのクラス142運用はない。
クラス142の仕様
車体はブリティッシュ・レイランド社のバスをベースにしており、車内の備品もバス向けに作られたものが多い。なにより特徴的なのは製造コストを抑えるために足回りはボギー台車ではなく二軸台車の採用。長いホイールベースの二軸車であるクラス142は急カーブ通過時に大きいフランジ音が鳴り、時速80キロ以上の運行では乗り心地が悪化。更には初期の座席はバス用の安価なものを流用していたために乗客からは敬遠されていた。現在では運行会社による座席の更新やトイレの設置なども進み幾分かは改良されたが乗る列車にペイサー・レールバスが充当された時はハズレくじを引いたと感じる乗客がほとんど。上記のように2020年までの運用で、その期限までにスプリンターやターボスターなどのより近代的な気動車に置き換えられる予定である。
(解説・撮影:秩父路号、2016年4月更新)
●ギャラリー
NT所属のクラス142の車内。2+2配置の高背もたれ座席に更新されたので居住性は以前と比べて増した。
アリーヴァ・トレインズ・ウェールズ(ATW)のクラス142。カーディフ近郊路線を担当。
(撮影:カーディフ・クイーン・ストリート駅、Cardiff Queen Street Station)
ATWのクラス142もラッシュ時には4連で運行する。
(撮影:カーディフ中央駅、Cardiff Central Station)
マージ―サイド地区交通局塗装。現在はNT標準塗装に更新。
(撮影:ヨーク駅, York Station)
リニューアル前の車内の様子(NT)。バス用の座席を流用した2+3配置。
ファースト・グレート・ウェスタンで運行されていた時のクラス142。塗装自体は同系列会社のファースト・ノース・ウェスタンのもの。
(撮影:ドーリッシュ〜ドーリッシュ・ウォレン駅間、Dawlish - Dawlish Warren)
ファースト・グレート・ウェスタン運用時代の車内。モケットはファースト系列の近代的なデザインに更新されたものの座席自体は相変わらずバス用のものだった。
●参考文献・ウェブページ
・「Traction Recognition, Third Edition」 (Ian Allan Publishing) ISBN 978-0-7110-3792-2・Paserchaser: Pacer Page 1- Class 142
・Paserchaser: Pacer Page 3- History and Background
・AROnline: Rail Projects: The BRE-Leyland Pacers - the dream becomes a nightmare