ロンドン地下鉄―その2〜Subsurface編/イギリス〜
まずロンドン地下鉄の車両紹介で説明しなければならないのが、「subsurface」と「deep level」の違いである(以下SS、DLと略す)。今回紹介するのはSS車両だ。地下路線を掘る技術が発達していなかった1860年ごろ、地下鉄を作る唯一の方法は「Cut & Cover」(切って覆う)方式だった。その名の通り、地上から5メートルほど地下へ掘り、線路を引いたあと、上から土をかぶせて地下区間にするというものだった。なので、SS方式の路線は深くなく、ロンドン中心部を抜けるとすぐ地上にでる。
もちろん開業当時は電車も気動車もないころだから蒸気機関車が使用されていた。運転手達は駅付近では煙を出さないよう指示されていたという。窓も除き穴程度の大きさしかなかったらしい。煙の逃げ道を確保するためにところどころポッカリ空いている線区もある。
(リンク先の地下鉄の地図を参考にしながら解説を読むことを推薦します: http://www.tfl.gov.uk/assets/downloads/standard-tube-map.pdf)
SS方式の路線は現在4つ存在。
Metropolitan Line (メトロポリタン線、マルーン・深紫色)
1863年1月に開業した世界最古の地下鉄路線。ロンドンの中心部と北西を高速で結ぶ。Harrow-on-the-Hill駅以北は複々線区間で、ロンドン地下鉄で唯一快速運転を行っている。 使用車両はAストック(1960年に導入、8連)。実はこの車両、第4軌条電化方式での世界記録保持者なのだ!通常運行では50mph(80km/h)を出すが、性能的には70mph(112km/h)が可能。ちなみにAストックの幅は2.95mとイギリス国内で一番広い。
Circle Line (サークル線、黄色)
メトロポリタン線から伸びた路線が1884年に環状線となり、1949年に今のサークル線になった。ロンドン中心部を山手線のように一周して、同時に鉄道のターミナル駅も結ぶ。使用車両はCストック(1970年に導入、6連)。営業最高速度は35mph(56km/h)。
Hammersmith & City Line (ハマースミス&シティー線、ピンク色)
比較的最近までメトロポリタン線の支線だったが、1988年に独立した。使用車両はサークル線と同じくCストック。調査によれば、一番使用率が低い路線らしい。サークル線とハマースミス線を別々で運行するのは非効率的なので、2009年冬から二つの路線を統合する計画が立っている。
District Line (ディストリクト線、緑色)
1868年に開業して、様々な変化を経て現在の姿になっている。
本線の他にリッチモンド支線、イーリング支線、ウィンブルドン支線、ケンジングトン・オリンピア支線、エッジウェア支線があり、かなり複雑化している。 主な使用車両はDストック(6連)だが、エッジウェア支線とウィンブルドン支線の一部列車はCストックを使っている。Dストックは導入が1980年と比較的最近だったため、リニューアル工事が行われるのが遅く、2008年2月までは旧型車両が走っていた。
これら4線で使われている各A、C、Dストックは2013〜2018年の間、新型のSストックに置き換えられる予定だ。この車両は地下鉄初の冷房・暖房が備わっていて、車両間の行き来もできるため、ある意味革命的な車両かもしれない。
なお、2007年12月まではイースト・ロンドン線(オレンジ色)が走っていたが、改装工事のため路線は廃止され、変わりに代行バスが走っている。使用していた車両はAストック4連だった。 (解説&撮影:秩父路号)
●ギャラリー
メトロポリタン線用のAストック。厳密にはA60とA62の二種類があるが、違いはコンプレッサーの種類だけ。床下からの音で聞き分けられる。二つの寄り目が特徴的。
塗装は地下鉄全線共通で、前面は赤、車体下部は青、車体上部は白、ドアは赤となっている。Aストックは地下鉄車両というより近郊型車両で、片側2.5ドアとなっている。
車内は2+3のボックスシートとなっている。席にはバネが入っていてフカフカなのだが、
線路状態が悪いと上下の揺れが激しくて、まるでトランポリンに乗っているようだ。
Cストック。ハマースミス&シティー線とサークル線にはC69ストック、ディストリクト線の一部には
C77ストックが使用される。ロングシート、4ドアとなっている。
ディストリクト線の車両、Dストック(リニューアル車、正式にはD78ストック)。一枚扉の4ドアが特徴的。
Dストックの旧型車両。リニューアル前の地下鉄車両は全て灰色と赤の塗装だった。
旧型車両の車内。セミクロスシートとなっている。
Sストックの予想図。ユーストン駅前でモックアップの展示があった。
モックアップはほんの一部だった。
モックアップの車内、セミクロスシートとなっている。