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第108回 ニッポン路線バス事情

担当:裏辺金好


1.便利になる?路線バス

ターミナル駅には、多数のバスが集まる。
(写真:仙台駅にて)
 鉄道とある時は連携し、ある時は驚異的なライバルとなるバス。近年、高速バスが好調な一方で、路線バスを中心に乗客数が落ち込み、自社を分割したり、または特に市町村経営のバスのように、既存の民間バス業者に業務を移管したりと、なかなか厳しい状況が出ております。それどころか、西日本JRバスは、なんと6割の路線の廃止するなど、ただごとではありません。一方、技術の進歩に伴い、私たちがより一層便利にバスが乗るための色々な切り札も登場しています。

 今回は、そんな路線バスの話。親サイト・裏辺研究所でお届けしている雑学万歳と共同の企画で掲載します。旅のお供にもなるバス。果たして最近のバスはどのような改良がされているのか。日本の旅で、掲載しちゃいます。旅の参考にしてくださいませ。
 
 ちなみに、バスの不便なところは、渋滞に弱い、外から来た人への案内の不親切さと、運転手の態度が悪いこともある、などと例を挙げればきりがないぐらいで、またそう考えてみれば、1つずつ改善できれば乗客数も増えるのではないかと私は考えております。特に、これは高速バスの運転手ですが、JRバス関東の例にあるように飲酒運転を防げないようでは、バスへの信頼は失われる一方でしょう。  

2.バスロケーションシステムと携帯電話

こちらは福島県福島市の福島交通のタイプ。
 暑い中、寒い中、バスを待っていると誰でも必ず感じたことのあるこのイライラ感。
 「私が乗るバスは、一体後どれぐらいで来るのか。」
 特に、定刻を過ぎてもバスが来ないと、本当に心配になります。

 そこで一部地域で導入されているのが、このバスロケーションシステム。路線バスの車両にGPSと通信装置を取り付け、停留所に現在地を送信。これによって、停留所にいながらにして、自分が乗るバスが、現在いくつ手前の停留所に止まっているのかの表示を見ることが出来ます。システムの登場自体は、意外と昔だったような気がしますが、少しずつ全国で普及を始めています。

 また最近では、携帯電話やパソコンのインターネットでも情報を手に入れることが出来ます。特に伊予鉄道のバスでは、次発バス検索 乗車区間を指定し、次発バスの運行状況(到着時間・目的地までの所要時分)を表示まで可能になっています。

3.ノンステップバス&ワンステップバス

京王バスのノンステップ。地面すれすれとまではいかないものの、かなり乗り降りしやすくなったことは間違いない。
 こちらは、もうすっかりお馴染みになったノンステップバス。段差が無く、路上からバスにスムーズに乗降できます。これも、バスの主要なお客である老人に配慮したものです。昔は大型車しか生産できませんでしたが、中型車でも生産可能になり、地方でも普及が開始しています。

 ただ、特に中型車はバスの床は低くても、座席の場所は従来通り高い位置にあることが多く、やや問題を持っています(もっとも、最近の技術進歩も凄いですが)。

 乗るのは簡単だが、座席に座るのが難しいのでは話になりません。そのため、あえてワンステップもうけることで、こういった問題を解決するバスも走っております。

3.ラッピングバス

これは路線バスではありませんが、このようにラッピングバスだとカラフルで楽しい広告が簡単に貼り付けられるわけです。写真は東京シティ競馬の広告。
 これはある意味、利用者にとっては関係もあり、ある意味で全く関係の無い話かもしれません。
 
 近年、全国のバスではラッピングバスが走っています。ラッピングというのは、図柄を印刷したフィルムシート、まあ特殊なシールをバスに貼り付けるものです。1996年にアメリカのアトランタオリンピックで始まった物で、特に東京のかなりのバスの側面一面に広告が出ています。東京都に於いては、石原知事が「バス・鉄道に全面広告を出していい」と決めさせたことから始まった広告システムで2000年4月1日に条例を改正してスタートしました。

 裏を返せばそれまで東京では、バスをはじめ、公共交通機関の車に大きな広告を付けて走らせてはいけませんでした。都市の美観を守るというのがその理由。しかし、バスの業績が悪化。もちろん都営バスも例外ではなく・・・収入を増やすためにとった苦肉の策というわけです。ちなみにラッピングのお値段は500万円ぐらい。

 昔はペンキで色を塗ってバス広告を作っていたものですが、こちらはフィルムをバスに貼り付けるだけ。広告契約期間が終わっても、ペンキを塗り直しすることなく、ただフィルムをはがせばいいと言うのでお安く済みます。パソコンで編集してラッピングを作るわけですので、ペンキの色数を気にすることもなく、グラデーションの表現も容易。きれいなデザインのものができます。こんな感じで、ラッピングって非常に便利なのです。もちろん、全国のバス業者もこれに目を付け普及を始めています。

 が、ラッピングといいますか、この全面広告には、致命的な問題点があります。それは、なんといっても、前面を除けば車体が広告で埋もれているため、一見どこの会社のバスかわかりづらくなるということです。バス停に立ってみると、広告のない前面をしっかり見ておかなければ「あれ、このバスどこの会社のバス?」となってしまうのです。また、やはり広告ですから、あまり感じのいい色使いをしてなかったり、見てて嫌みがあるのもあります。まったく、世の中難しいものです。 それでも東京では専門家を交えた「デザイン審査委員会」で、このラッピング広告を審査し、OK,ダメを出しています。

 特にダメと言われるのは、一般の車のドライバーが目移りして事故を起こしてしまいそうな奇抜なデザイン。奇抜じゃないと広告としては役に立たないのですが、事故を起こしてもらっては困る。広告デザイナーの方々の悩みの種ですが、そこを上手くクリアすることこそ、上手いデザイナーと言えるでしょう。
 
 いずれいせよ、このマイカーの時代。公共交通機関はいかにして乗客以外から収入を獲るかが鍵となっております。なお、このラッピングはバスのみならず、JRなどの鉄道各社、路面電車などにも普及しています。

4.ワンコイン制度&バスカード

山形市の中心部100円循環バス(2001年当時)。
現在はさらにノンステップバス(後述)になり、緑色と紫色、2台の「アートバス」が循環している。乗りやすさ&見た目は非常に重要。
こちらは静岡県浜松市の「まちなかループバス〜くるる〜」。西回りと東回りの2つが存在し、駅と中心部、浜松城・学校などを回り様々な人に便利。こんな小さなバスだが、これもノンステップバスで乗降しやすい。
  さて、乗客減に悩むバス会社。諦めてバス事業を辞めてしまうところもありますが、何だかんだと乗客獲得に向けて頑張っております。

 例えばワンコイン制度。ワンコインというのは100円玉のことで、100円でバスに乗れる区間を設定するものです。100円ショップで証明済みのように、我々は100円だと結構甘くなります。このシステムは全国に普及し、
 ・駅前と郊外のショッピングセンターを結ぶバス、
 ・コミュニティバスとして市町村が既存バス会社に運行を委託し、市内の観光地や病院などの公共施設を回るバス
 がでの「100円システム」多く、さらに一定の区間を循環する例が多く見受けられます。

 なお、この制度を導入したバス業者は「運賃収入は増えなかったが、お客はかなり増えた」そうで、減り続ける乗客数に歯止めはかかっているそうです。

 また、全国に普及したバスカードも忘れてはいけません。たいてい1000円のバスカードで1100円まで、3000円で3300円まで、5000円で5800円までバスの運賃として支払うことが可能で、お得。また、バスの車内に設置されたカードリーダーに通せば自動的に精算してくれるので、運賃を気にして財布をごそごそする必要がない。非常に便利です。

 ただ、鉄道の自動改札機みたいにパッと通せば、パッと出てくる・・とはいかず、やや精算に時間がかかるのが難点。また、複数の人で一枚のカードを利用するとき「大人2人、子供1人」などと、運転手に告げて、機械の設定をして頂かなければならず、面倒。また、時間もかかる。まあ、お客にとっては運賃計算が不要になったことは確かで、非常に良いシステムでしょう。

5.バス専用道路
 でもねえ、もう一度言うけど、それでもバスは本当に不便だねえ。時間どおりにこないことが多すぎ。

 で、それを解消するため、例えば名古屋市では「基幹」という路線を設けてまして、バス専用の道路があります。これによりバスを渋滞から守っています。もちろん、専用道路に堂々と走る一般車両もいますが。 もう一つ、さらに名古屋市ではバス線用の高架路線を造りました。これは、ガイドウェイバスシステムといって、なんとバスから案内軸とよばれる車輪が出て、特殊なレールみたいのに接着。しかも自動運転となります。いわば、新交通システムの車両がバスになってようなもの。専用車両が必要ですが、道路上は普通のバスとして走られるのが強みです。 これについては日本の旅・で取り上げています。


  また、奈良市では、一部時間帯にバス専用道路を設けます。皆さん涙ぐましい努力。行政が公共交通のことを考えていればこういうことも可能なんですなあ。

 なかなか乗りづらく、敬遠されがちなバス。各社とも生き残りをかけて都市・田舎を問わず必死に経営建て直しへの策を練っているところです。その際、行政の支援が必要不可欠なのは言うまでもありません。公共交通部門への支出は減少傾向にありますが、福祉とも絡むこの分野に、行政にも民間事業者にも、より一層の施策が求められています。

6.伊予鉄道の奮闘

 注目すべき取り組みは愛媛県松山市を本社とする伊予鉄道の取り組みです。
 ここの会社は、鉄道・路面電車・バス、それから自社の松山市駅に「いよてつ高島屋百貨店」を所有することが強みで、これらの連携を上手く使いました。

 その取り組みは「電車・バスをもっと身近な交通機関にしたい」をキーワードに平成13年4月の「サービス向上宣言第1弾」に始まり、「サービス向上宣言第2弾」(平成13年10月)、「サービス向上宣言第3弾」(平成14年4月)、「サービス向上宣言第4弾」(平成14年10月)、「サービス向上宣言第5弾」(平成15年4月)の計5回にわたり「サービス向上宣言」を実施致し、現在第6弾が進行中。

 具体的に何をしたかと申しますと、値下げと便利さアップを同時に実行したことで
 第1弾で電車・バスが最低150円最高600円へ、市内電車・ループバス1Dayチケット300円発売。国道四線バス幹線軸計画としてバス、都心循環線(8の字ループ線ほか)開設。 65歳以上の方が1日100円でバス・電車に乗れるシルバー定期券の導入、1枚の定期券で、電車・バス乗り換え可能に。
 
 第2弾で松山市駅のバリアフリー化、松山市駅にある観覧車で夜景を楽しんでもらおうと、30〜40分最終便延長する。
 バスでお買物。お昼便大幅増便(普通は昼間の便は減られされます)。 いよてつ高島屋とのお得なセット券。
 運賃を値下げし、さらに50円刻みにすることで解りやすくする。

 第3弾で、路面電車に超低床車両の導入、バスにバスロケーションシステムの導入と急行便を開設。

 第4弾で乗換拠点からループバス本格運行スタートし、循環バスを3路線に導入。ノンステップバスの一層の導入。
 
 第5弾で100円バスを総合福祉センターに乗り入れ、バス最終便を延長、バスロケーションシステムの増設。定期券のインターネット予約開始。

 第6弾でバスの増便や全駅・全停留所で禁煙化などなど・・。

 こうした施策の結果、大抵こういう物はジワジワ表れてくるところなのですが、一気に乗客が増加。
 図は伊予鉄道HPより抜粋しましたが、特にバスに関してはこれほどののびを記録し、鉄道路線に於いても今年は大幅な乗客アップにつながっています。もちろん、これにはかなりの経費もかかるはずで、なかなか財政の厳しい業者には実施しづらいでしょうが、1つの成功例として認識しておいて良いでしょう。

 ちなみに伊予鉄道の場合は鉄道と百貨店などを所有しており連携しましたが、バス単独事業者の場合は、JRや地元百貨店・公共施設などとの連携も視野に入れると、Goodじゃないんですか!?

棒