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第115回 公共交通を考えよう(2)
路面電車の課題と海外の事例

担当:裏辺金好

○はじめに

 前回、大雑把に日本全国にはどんな路面電車が走っていて、どんな課題を抱えているのかをみました。
 今回はそれを発展させて、海外の事例も含めて路面電車問題を考えていきたいと思います。

1.路面電車って何?

前回紹介しましたが、福井の路面電車は元・名古屋市営地下鉄の車両は郊外から直通。
(撮影:雑学の博物館)

長崎の最新型路面電車
(撮影:裏辺金好)

広島で活躍する、元・大阪市電
(撮影:裏辺金好)

 本題に入る前に、ごく基本的なことを確認。前回で紹介すべきでした。
 んで。
 路面電車というのは、意外と定義が難しいのですが、簡単に言ってしまえば道路の上にひかれた軌道を走る電車です。ですから厳密に言えば、東急世田谷線のように全線専用軌道は路面電車になりませんし、広島電鉄の宮島線も元々は大型の鉄道車両が走っていたことからも解るように路面電車区間ではありません。逆に、福井鉄道の福井市中心部は、大型の鉄道車両が道路の上を走っていますが、これは路面電車と言うことになります。

 とは言え、先ほど「厳密に言えば」と言ったくせに、特に法律上に明確な定義があるわけでもなく、まあ基本的には路面電車タイプの車両が走っていれば、路面電車とまとめられています。


2.なぜ、路面電車が便利なの?
 路面電車が何故便利なのか。
 それは、これから御紹介する海外の進化した路面電車の事例を見て頂ければ「なるほど」と思われると信じていますが、既存の日本の路面電車でも以下のメリットがあります。すなわち、
 1.バスと同じように、路上から気軽に乗ることが出来る。
 2.渋滞に巻き込まれないため、自家用車やバスと違い、比較的定時制が保たれる。
 3.建設費が安く、場所と条件によって異なりますが、地下鉄建設の10分の1
 4.編成を長くすれば、バスよりも多くの乗客を運ぶことが出来る。
 5.一般の鉄道より、多くの駅(停留所)が設置出来るため、様々な場所で乗降出来る。
 6.車やバスと違って排気ガスなどを殆ど出さないため、路面電車に乗客がシフトすれば、CO2削減と都市の空気が綺麗になる。

3.日本の路面電車の課題
 前回、各地の路面電車の持つそれぞれの問題点をまとめてみましたが、まとめ&共通の問題点を書くとこのような形になります。
 1.相次ぐ廃止によって路線が短く、乗ることが出来る場所が限られている。
 2.一般の鉄道やバスとの連携があまり考慮されておらず不便。
 3.廃止予定の岐阜市のように、行政が路面電車を嫌っている場合、軌道内に自動車乗り入れを可能にさせられ、渋滞に巻き込まれ定時制が確保出来なくなる。
 4.電停に屋根がない場合が多く、雨の日は電車を待つのが面倒。また、夏は暑い。
 5.運賃支払いに手間がかかり、特に「あれ?100円玉はどこに行ったかのぅ・・・」なんて人がいると、なかなか発車出来ない。
 6.路面電車現存都市が少なく、外から観光に来た人の場合、乗り方が解らず躊躇してしまう(基本的にはバスと同じなんですよ)。
 7.ホーム(安全島)が狭い場合が多く、車椅子での利用が不便の場合が、さらに、直ぐ側を通る車が結構怖い。

 他にも様々な問題点がありますが、それでは海外の進化した路面電車(アメリカではLRT、フランスではトラム、ドイツではシュタットバーン等と呼ばれます)では、どのような形で運転されているのでしょうか。フランスとドイツから1例ずつ見ていきましょう。

 もちろん、ここで紹介する海外の事例を、そのまま日本に当てはめれば何事も上手くいく、と言うわけではありません。しかし、当然の事ながら参考にすべきものは多く、「日本では無理だ」と決めてかかるのはあまりにも勿体ないというお話です。

4.海外の路面電車の現状〜ストラスブール〜

オム・ド・フェール広場 Homme de Fer
南北に走るAトラム、Dトラムと、
東西に走るBトラムとCトラムが交差します。

Montagne Vertの芝生軌道


P+Rが整備されている、トラムBの終点、Hoenheim Gare(オーエンハイム・ゲート)のターミナル。
写真は全て、南 聡一郎さま提供
http://letram.hp.infoseek.co.jp

 最初に御紹介するのは、フランスのストラスブール市。
 ドイツ国境近く、アルザス地方の中心都市で、EU議会があります。美しい街並みや、活版技術の発明者・グーテンベルクが住んだことでも有名です。また、人口は約26万人。まあ、人口については市の面積、路面電車の周辺の人口などで同じ数字でも路面電車に与える影響は異なってきますので、あくまで参考程度。
 
 さて、フランスでは日本と同じように、第2次世界大戦後に路面電車の廃止を進めます。

 ストラスブールも例外ではなく、1960年に全線が廃止となりました。フランスで路面電車が残ったのは、リール、マルセイユ、サンティエンヌの3都市のみ。まだ日本の方がマシなぐらいです。

 ところが、ストラスブール市では1994年に路面電車が復活!(90年の市長選で、地下鉄建設派の候補をカトリーヌ= ロットマン女史が破って当選したことが契機)。

 写真を見て頂けると解りますが、イメージをガラリと変えて登場。超低床車両で乗り降りしやすく、さらに車体も長く(9連接車)乗客の収容力も大きいです。そして、市域をカバーすべく、現在は4路線が運行。

 のみならず、やはりデザインが素晴らしい。
 路面電車そのもののデザインもさることながら、ご覧のように停留所のデザインもこだわっています。さらに、郊外では「芝生軌道」を採用し、見た目の美しさもさることながら、騒音の低減にも貢献しています。

 さて、こうして復活した路面電車(フランスでは”トラム”)ですが、以下のような特徴があります。

 1.バスはトラムのフィーダー輸送に徹する。
 日本では、バスと路面電車が競合していますが、競合そのものはまあ、功罪あるとして、連携が非常に上手くいっておらず、双方が別個の交通網を形成していないことが多い。ところが、ストラスブールの場合、バスは路面電車と接続することを目的とし、乗り換えもスムーズ。

 2.道路はトラムと歩行者を優先
 現在、4路線を持つストラスブールのトラムですが、建設用地は道路の車線を削減して捻出
 さらに、中心市街地からは自動車を締め出し、代わりに郊外停留所の8カ所に大規模な駐車場を整備(これを地元では、P+R、すなわちパーキング+リレーと言います)。ちなみに、物流用トラックと都心部に住む人の自動車乗り入れは許可。また、歩行者道路を広げ、さらに自転車道も整備。

 3.高速で走行
 なんと言っても、このトラムは速度が速く、地下鉄の約3分の2のスピードを出します。

 4.新たなる都市の魅力と賑わいを引き出す
 ストラスブールに限らず、ヨーロッパのLRTは「お客を郊外から中心市街地へ呼ぶ」という目的を持っています。先ほど、郊外に大規模駐車場を設置して、と言う話を出しましたが、これによって駐車場のスペース確保の問題をクリアし、人を市街地に招き入れるのです。

 このような施策の結果、利用客数は、日本でも有数の路面電車利用客がある熊本市(人口66.2万人)の路面電車の5.7倍という数字をはじき出しています。デザイン的に優れたこの路面電車は、歴史的な街並みとも調和し、交通弱者も安心して買い物を楽しむことが可能です。

○市民の合意の必要性

 そんな利便性の高く、さらに乗客数の多いストラスブールのトラムですが、一度全廃された物を復活させることは並大抵の事ではありませんでした。車社会に依存してしまうと、そこから脱却しようと呼びかけても、なかなか合意が得られません。

 そのため、最初のトラムを建設する事業の期間中に合計500回に及ぶ協議が行われ、その結果、反対派の8割が賛成に転じたとか。日本でも路面電車復活の動きは各地で起こってから久しくなってきましたが、「中心市街地がさらに衰退する」と、商店街などの反対も多く、こうした反対派をねばり強く市当局者が納得させ、さらに市民の間で路面電車建設容認の空気を作っていけるかが鍵となっています。

 ちなみに、こうした市民との対話の必要性は、何も路面電車建設に限ったことではありませんね。もっとも、現状では、説明無しの建設、事業実施や、逆に市民側が関心を示さないなど、色々と問題ですが・・・。



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