第119回 地震〜そこが知りたい基礎知識〜
担当:裏辺金好
この記事を書いている頃は、ちょうど新潟中越地震の余震が続いている時期に当たります。
東京でも、時折震度2〜3ぐらいの揺れが来まして少し怖い。地震大国日本に住む以上、覚悟しなければなりませんが、出来れば勘弁して欲しいものです。んで、今回はその「地震」について、最低限このぐらいは知っておこう、というお話です。なお、被災された方には心よりお見舞いを申し上げると共に、亡くなられた方にはご冥福をお祈りします。とは言え、明日は我が身・・・と言う感じもします。みなさん、避難セットの準備、家の耐震補強など、地震の備えだけは万全に。
地震のメカニズムを説明する前にここから行きたいと思います。
だいたい感覚的には解る人が多いと思いますが、ニュースでよく聞く、この2つの言葉。
一体どのような関係があるのでしょうか!?
まず、マグニチュード(M)というのは、地震そのものの規模を表し、震央から100kmにある標準地震計における記録紙上の最大震幅A[μm=マイクロメートル]によって決められます。その関係式は、
M=log10 A
となり、例えば記録紙上で、最大振幅10ミリ=1マイクロメートルを記録した場合
M=log10 10000 となり、10000=10の4乗・・・マグニチュードは4となります。対数のお勉強はここで扱う物ではないので、解らなければ無視してください。
そしてマグニチュードが1大きくなると、地震のエネルギーは約32倍(ルート1000倍)に、さらにマグニチュードが2大きくなるとエネルギーは約1000倍になります。一応、この地震波のエネルギーE[J]と、マグニチュード(M)の関係を式で表すと
log10 E=1.5M+4.8
となります。まあ、ここは地学を扱う場所ではないので、この数式なんて小難しい話は、このぐらいで。
ちなみに、よく「小さい地震が沢山起これば、大きな地震のエネルギーが発散されるので安心」なんて意見を聞きますが、マグニチュード2大きい=エネルギー1000倍の差・・・と書きましたように、例えば超強力なマグニチュード8クラスの地震1回分のエネルギーが消費されるためには、マグニチュード6の地震が1000回も起きないといけません。
さらに、マグニチュード7の地震=マグニチュード4の地震で27000回!!
そんなわけで、小さな地震が何回か起これば大きな地震は来なくなる、なんてウソです。そんなもんじゃありません。なお、今までで最大の地震はチリ地震[1960(昭和35)年]で、マグニチュードは今の基準で9.5となっています。これ以上大きな地震が起こるかどうかは不明ですが、さすがにエネルギーも貯めておく量に限界があるらしいので、そうそう滅多には起こらないと思われます。
なお、この考え方はアメリカの地質学者チャールズ・リヒターに由来して「リヒターの基準」と呼ばれています。
続きまして、震度です。
こちらは、各観測地点での揺れの大きさを表す物です。もちろん、基本的にはマグニチュードが大きいと震度も比例して大きくなりますが、あくまで「観測地点、それぞれの揺れの大きさ」ですので、マグニチュードとは分類も違えば、数字の大きさも変わってきます。そしてこれは、1996年10月から10階級に分かれています。と言っても、震度8とか9とか10なんて見ませんよね。そう、震度5弱、5強、震度6弱、6強と、ここだけ各2段階に分類されているのです。
震度ごとの違いですが、気象庁のホームページで解りやすい図が示されていました。
ちょっと使わせていただきましょう(不適切だったら削除致します)。
ちなみに新潟中越地震では、一般には最大で震度6強とされていますが、小千谷市内の小学校に設置された地震計では震度7を記録しているそうです。これは阪神大震災の最大値と同じで、これが東京で発生していたら・・・と思うとゾッとしますね。
なお、これは20世紀の初めにイタリアの地震学者G.メルカリが提唱した物がベースとなっています(メルカリの基準)。
てなわけで てなわけでマグニチュードは地震の原因の大きさ、震度は地震が起こった結果の場所ごとの大きさと考えましょう。
さて、そうしますと「なるほど、マグニチュードや震度が大きいと、被害は大きくなるんだな」と考えられる人もいると思います。
しかし、それは全くの間違いではないのですが、たとえば超巨大地震でも、少し離れた海の深い部分を震源とする物と、阪神・淡路大震災のように、
震源が浅く、しかも
人が住んでいる都市部の直下で起きた物を比べますと、後者の方が揺れの影響をモロに喰らいますので、大きな震度を記録し、被害は大きくなります(なお、このように内陸部を震源とする地震を
直下型地震と言うこともありますが、必ずしも厳密な定義がされている言葉ではないので注意が必要です)。
さらに、地盤がゆるんでいる場所では被害は大きくなりますし、もちろん人が密集している場所でも被害は大きくなります。また、本筋とはずれますが耐震補強されている建造物が多ければ被害は少なくなりますので、今回の新潟中越地震の場合、上越新幹線の橋脚が倒れず、新幹線も脱線程度で済んだのは、このあたりも関係しています。
まず地震ですが、これは地殻内部の一部(震源)で突然発生した震動が、
地震波となって周囲に伝わり大地の振動を引き起こす物です。
ところで、地震が起こると最初にカタカタと小刻みに揺れまして(初期振動)、そのあとでドーン!と大振動が来ます(主振動)。
これは震源から地球内部を伝わる
地震波が2つあることに由来し、初期振動に対応するものを縦波である
P波(Primary
wave)、続いてくる主振動を横波である
S波(Secondary wave)と言います。
そして、英語を見れば解るとおり、P波の方が先に到達し、それからS波が来るまでを
初期微動継続時間と言います。だいたい、P波はS波の約1.73倍です。プレイステーション(PS)と覚えてしまうと良いですね。しかも、
PSは
縦におく。地学を勉強する人はこれで完璧。
また、震源が遠ければP波とS波の到達時間(
初期微動継続時間)の差は大きくなります。
ちなみに、既に130年頃に中国・漢の数学者・天文学者である
張衡は「地震は、震源から地震波が伝わってきて起こる物だ」と考えています。あ、念のためもう一度確認しておきますけど、
震源から地震波が発生することで、私たちの立っている大地が揺れ、地震になるんですよ。ゆえに、1900年近くも前にこれを発見した張衡先生は偉いのです。
で、地震と一括りに言いますけど、実は以下の3タイプに分類できます。
1.プレート境界付近でおこる地震
2.活断層によっておこる地震
3.火山の近くでおこる地震
まず1番ですが、地球の表面というのは
大小10数枚のプレートに別れています。
プレートというのは、
地殻(ちかく)とのそのすぐ下の
マントルの最上部のことです。まあ、地球の表面は何枚かの板に別れていると考えてください(無茶苦茶な話だ)。あ、一応書いておくと、ま〜るい地球というのは表面から中心に向かって「地殻」「マントル」「外核(がいかく)=4000度を超える高温の液状」「内核(ないかく)=鉄・ニッケル・ケイ素などの合金で固体」という構成になっているんです。
*地殻は陸の厚いところで60kmぐらい、海では5kmほど。
で、これらプレート達は、それぞれ年間数cmのスピードで移動し、離れていったり衝突したり、水平方向にずれたりします(
プレートテクトニクス理論)。衝突する場所には、褶曲(しゅうきょく)山脈が出来たり、弧状列島が生まれたり、火山活動が活発になる、さらには今からお話しする巨大地震が発生します。
*あとで「これが書いていない!」と怒られたら面倒ので記しておくと、プレートが動くのはその下にある
アセノスフェアが移動するため。何故移動するかというと・・・マントルの熱対流とか、プレートが沈み込むときの重力エネルギーのせいだそうですけど、よく解らんからこの辺でカットじゃ。
地震の場合は、このプレートのうち、まず大陸プレートと海洋プレート(日本の場合は
ユーラシアプレートと
太平洋プレート)がぶつかり、海洋プレートの方が大陸プレートの方に沈み込んでいきます。こうして、この境には
海溝という深い谷のような物が出来上がります。もしくは浅い物もあり、これは
トラフと呼ばれます。また、この時の
摩擦熱によって周囲のマントルが解け、
マグマが出来ます。おお、恐ろしい〜。
地震発生前 |
地震発生時 |
ところが、永久に沈んでいくわけではありません。
ある一定のレベルに達すると、また元に戻るんですね。ところが、ゆっくり戻ればいいのに、大陸プレートが元の場所に一気にドーンと戻ってくれます。こうして、よく巨大な地震が起こるんですね。ちなみにこの際、津波も発生することが多く、特に日本で被害が多い。そのため、「TSUNAMI」は国際語にもなっています。
ちなみに、日本は先ほどのユーラシアプレートと太平洋プレート、さらにはフィリピン海プレート、北アメリカプレートにまで取り囲まれており、まさに地震の天国となっているわけで、こんな地域に良く住めるもんです(笑)。
続いて2番、活断層によって起こる地震について。
先ほど見たように、プレート達は互いにぶつかったりしていますが、その境界側近くの内部で「ひずみ」・・・すなわち、ズレが生じることがあるんですね(この時に地震が起こります)。すなわち、陸地の中で、左図のようになるのですが、これを
断層と言います。まあ、地震の跡みたいなもんです。また、断層には色々と形がありますが、ここでは割愛します。
この中で、比較的最近・・・と言っても約170万年前からですが、この頃から成立した断層の中で、まだ「ズレ」を生じようとしている物があり、これを
活断層と言います。この活断層の動きが盛んだと、地震につながっていくのです。
断層は人間で言えは傷のような物。
活断層は、まださらに傷が深くなりそうな物です。日本全国で約2000あるとか・・・。多すぎ。
これはマグマが活動して震動が来ることで発生する地震です。
規模は小さいですが、群発性がありまして、場合によれば火山の噴火を予知できたりします。
人為的な活動によっても、地球内部に影響を及ぼして地震を起こすことがあります。
例えば、地下核実験です。まあ、これはこの程度で次に行きます。
実は地震は我々が感じないものを含めると、日本及びその周辺では、1年に10万個以上、1日平均300個以上も発生しています。
てなわけで、ただ単に地震の予測・予知をするだけだったら、当てずっぽうで言ってもウソにはならないことになるかも知れません。
(注)予知のほうが大きさがどのぐらいかなど、確実性が高いデータを示せる物、
予測の方は「う〜ん、詳しいことは解らないです」という感じで、確実性が低い物として言葉が区別されているらしい。
問題はやはり、そのうちで大きな地震ですね。
これがいつ、どこで、どのぐらいの大きさが起こるかと言うことですけど、今の段階では予知は事実上不可能です。経験的に、何年周期で起こる・・・ぐらいの予測は出来るかも知れませんが、正確なデータを提供するというのは至難の業。天気予報の正確さとは比べ物にならず、永久に無理という学者もいます。一方で、地震が終わったあとで「予知していた」等という怪しげな学者や霊能力者もいますが、こういうのは無視して構いません。わざわざ出演させるマスコミの見識も疑われます。
・・・と言いつつ、全く地震の予知に成功した例がないわけではありません。
1975年、中国では、海城でおきたマグニチュード7.2の地震の予知にほぼ成功し、地震がおきる2日前におよそ9万人の住民が避難。建物の90%は全壊したそうで、間一髪と言ったところです。もちろん、何の根拠もなく避難させたわけではなく、既にその前から前震といって、小さな揺れが続いており、不穏な空気が漂っていたのです。住民の避難を決断した人は、なかなかの英断だったと思われます。
なお、世界的にはマグニチュード5〜6の地震は1年間で800回ぐらい、3〜4の地震は5万回ぐらいおきているそうです。
ちなみに地震が日本のどこで、どれほど起こっているかについては、
地震予知総合研究振興会 http://www.adep.or.jp/shingen/
などで見ることが出来ます。
堤田倫太郎(所員):さて所長。地震の仕組みを見たわけですけど、それでは私たちはどのような備えをしたらいいのでしょうか。
裏辺所長:解りません!
堤田倫太郎:そんなんじゃ困ります。真面目に答えてください。
裏辺所長: ごめんなさい!
堤田倫太郎:謝ってないで早く答えなさい。
裏辺所長: 大地震が起こると、慌ててリュックサックの中に缶詰だとか、貴重品を入れる人がいると思いますが、こういう準備は理想的ですけど長続きしません。それより重要なことは、避難経路には絶対に物を置かないこと(火災の時にも有効)。また、テーブルの下に物を置かない(いざというときに逃げ込めるようにするため)。ベッドの近くには懐中電灯おく。出来れば、絶対に失いたくないような思い出の品、貴重品も置いておく。
堤田倫太郎:ちょっとした心がけで出来ることから始めるのが大切なんですね。
裏辺所長:知りません!
堤田倫太郎:とんでもないことを言うんじゃありません!この馬鹿所長!!
おまけ。
こうした地震のメカニズムを解明する上で、基礎を作った人がウェゲナー(1880〜1930年)というドイツ人の気象学者です。
プレート運動を解明する元となった「大陸移動説(たいりくいどうせつ)」を最初に唱えた人です。
彼はですね、世界地図を見て、南米大陸の東側と、アフリカ大陸の西側の海岸の形が似ていることに気が付き、「昔は1つの超大陸(パンゲア)だった!」と主張したんです。もちろん、それだけでなく出土した化石の比較、すなわち・・・「ここでメソサウルスの化石が発見されたが、さらに遠く離れた大陸でも同じ化石が発見されているではないか! 海を渡れないはずの動物なのに、なぜいるんだ、元々は1つの大陸だったからだ」など、生物の分布状況などからもこの仮説を補強しました。
でも、当時は「大陸が動くなんて馬鹿なことがあるか!」と言われてしまい、肝心のウェゲナー先生は調査のため、グリーンランドに3回目の探検に行ったところで遭難して亡くなってしまいました。で、それから長い時間が経過し、1950年代に古地磁気学による証拠がみつかると、「ウッソ、大陸移動説は正しかったんだ!」と復活を遂げ、さらに今のプレートテクニクス理論につながっていると言うことです。ちなみに、古地磁気学については筆者はサッパリ解りません。
ともあれ、生きている間には報われなかったウェゲナー先生をここに賞賛したいと思います。
日本地震学会広報誌 なゐふる第6号・第40号など
地震発生のメカニズムを探る(地震調査研究対策本部) http://www.jishin.go.jp/main/mech/eqmechfrm.htm
地球探検キッズ隊 地震の謎に迫る http://www.jishin.go.jp/kids/index2.html
公務員試験教養テキスト 講義編 地学 (東京リーガルマインド)
マイクロソフト エンカルタ百科事典2004
気象庁ホームページ など