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第125回 絵画:リトグラフと版画の話

担当:裏辺金好

○美術館に行くと見かけるこの言葉

 ○○市立美術館で開催中の「新世紀の画家アントワール・ウラベールと友人達展」に行ったとします。
 油絵ではあまり見かけませんが、ポスターのような絵画を見ておりますと、

 作品名:「醜いアヒルの子とウラベールの肖像」
 作家名:ジュンイチロー・コイズミスキー 1970年
 リトグラフ

 ・・・なんて、説明板に書いているのを発見。皆様も、このような表示を見たことのある人はいらっしゃると思います。さて、ここで気になるのが「リトグラフ」という単語(リトグラフィーとも言います)。これっていったい何なのか。知っている人には当たり前だと思いますが、私には疑問でしたので、ここで一念発起。ちょっと調べてみました。


○要は印刷物だ・・・って、言い切り過ぎか

 これはですね、1798年にドイツ人でプラハ在住のアイロス・ゼネフェルダーが考案した印刷方法なんだそうです。
 つまり簡単にいってしまえば、コピー。でも、ただの印刷ではありません。開発された時代も古いですから、エプソンやリコーのカラープリンターで複製するような方法とは、ちょいと違います。実は、版画の1種です。

 まず基本原理ですが、平らな石版石をつかい、油と水が反発しあう性質を利用して印刷します。
 そこで以下の手順でリトグラフ用の絵画を作成していきます。
 1.平らな石灰石に油性のクレヨンや、油性の絵の具で図柄を描きます。
   *石灰石には、脂肪性の物質を吸着する性質があります。
 2.その石を硝酸とアラビアゴムを混ぜた液を塗ってコーティングします。
 3.次に、水をかけますと基本的には水を吸収するのですが、油性インキで図柄を描いた部分だけは水をはじきます。
 4.さらに、ローラーで油性インキをつけていくと、水を吸収した部分は油性インキをはじきますが、最初に絵を描いた部分にはインキが付きます。
 5.そして、その上に紙を載せてプレスする。
 6.すると、インクの付いた部分が紙に転写される。
 7.以後、どんどん紙に載せていけば、油性インク部分が定着している限りコピーが出来る。
 と、いうわけでございます。

 ちなみに何でこんな方法を思いついたかというと、売れない劇作家であった彼が「なんとか、自分の作品を安く出版したいなあ」と考えていたところ、彼が母親に頼まれた洗濯物のリストを、手近にあったクレヨンで石灰石の上にメモしたときに発見したんだそうです。こののち、この手法は今に至るまで数多くの画家や、写真家にも愛用されている他、(私には良く解らないですが)エレクトロニクス分野でも重要な技術になっているのですから、洗濯物、恐るべしです(そっちかよ)。

○そこで、版画とは何かを復習しましょう

 さて、先ほど版画の1種と書きましたが、これはいったいどういう事なのでしょうか。
 そもそも、版画には凸版、凹版、平版、孔版の4種類があり、リトグラフはこのうち、平版の部類に入ります。

 では凸版の場合。
 これは、例えば板を彫って、出っ張った部分にインクを付けて、ここに紙をプレスして複製品を造る方法です。

 一方、凹版の場合。
 こちらは、穴を掘った部分にインクを流し込み、その部分が刷り上げられていく方法です。
 方法は色々ありますが、ここではエングレービングという方法を御紹介。これは金属板に図柄を掘り、その線の部分にインクを流し込んで、余計な部分のインクは全て拭き取る。そして、これを紙に押しつけると、インクの流し込まれている部分だけが紙に付着し、見事に絵が完成するのです。他にはエッチング、ドライポイント、アクワティントなどがあります。

 それから孔版。こちらはシルクスクリーンとも呼ばれています。
 日本では次第に使われなくなってきている「プリントごっこ」なんかが、これを使った技術になります。あと、ステンシル(=型抜き)もこれの一種。つまり、穴を空けた部分にインクを流していくんですね。穴といっても、そこには絵の輪郭が掘られていますよ。

 そこでリトグラフである平版。
 何で平らなのかというと、板である石灰石自体には、何も線を掘ってもいませんし、穴を掘ってもいません。絵の具が乗っているだけです。
 そこで、平版というわけなんですね。

 と、まあ、久しぶりに美術について語るという非常に珍しいことをやってしまったわけですが如何だったでしょうか。
 また自分で疑問に思った身近なことがあれば、どんどん紹介していきたいと思います。


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