第128回 愛・地球博の交通を見る
担当:
裏辺金好
今回は2005年3月28日から9月25日まで開催された、愛・地球博(2005年日本国際博覧会)の「交通」に注目したいと思います。
さすが、未来の交通を担う乗り物が目白押し・・・、と書きたかったのですが、原稿を書いている途中でちょっと「あれれ」な出来事も。ともあれ、愛・地球博の記録の意味も込めて、会場内と、その周辺で使われた乗り物を解説していきましょう!
まずは、日本で始めて営業運転を開始した磁器による浮上式リニアモーターカー(愛知高速鉄道東部丘陵線 愛称:リニモ)に乗車いたしました。これは元々、名古屋東部丘陵の都市交通機関として計画されたものですが、万博会場がこの建設予定線沿線で開かれることになったことから、完成後は万博輸送に従事しています。また、長久手会場(メイン会場)・瀬戸会場の2つに別れている会場間輸送機関の1つとしても利用可能です(ただし、瀬戸会場へは万博八草駅からシャトルバスに乗ります)。
さて、このリニモは中央新幹線として実験が続けられているリニアモーターカーと違い最高時速は100kmとかなり抑えられていますが、路面から浮上して走行し、そのためにレールの継ぎ目を通るときに発生する騒音が発生しません。また、リニアモーター自体も非常に騒音が少なく、さらに乗車していると振動も殆どありません。そして、高架上を走ると同時に、橋脚の道路専用面積も非常に少ないため、建設費の問題を除けば中規模都市交通として非常に有望であると感じました。
しかし、問題は一時的に通勤ラッシュのごとく乗客が殺到すると浮上できなくなる可能性があるため安全装置が働き、走行不能になることです(1両当たり10t以上の荷重がかかると発車できなくなるとか)。もちろん、ある程度降りてもらえば済むことですが、こういうことをやっていると遅延の原因にもなりますし、乗客数が見込める路線では逆に使いづらいという・・・。まあ、何だかんだ言いながら万博の殺人的な乗客数を裁いたのですから、何とかなるのかなあ。
ちなみに、上写真はJR東海が展示していたリニアモーターカーの先頭車両。
当たり前ですが、会場内を走行することはありませんけど、内部に入ることは出来ました。なお、万博閉幕後は・・・屋外に長期間置き、車体の腐食状況などを調べるのだとか。保存はかなわず、このまま朽ち果てていくようです。大切な実験だからやむをえないとは思いますが・・・あまりに残念です。
続いて、万博八草駅から瀬戸会場までシャトルバスで移動しました。このシャトル輸送に使用されていたのがCNG(圧縮天然ガス)を利用したノンステップバスです。ノンステップバスについては全国各地で急速に普及を始めており、CNGを使用したバスも都営バスを中心に少しずつ普及する気配を見せています。このうち、CNGは排出ガス中の有害成分が非常に少ないのが特徴であり、従来のバスの問題点であった窒素酸化物や黒鉛の排出を大幅に削減しています。しかし、燃料の供給基地確保や車両の価格が課題です。
それから、長久手会場と瀬戸会場を直接結ぶ交通機関として使用されていた、燃料電池を使用したバスを見学しました。これは2002年に燃料電池バスとして初めて、国土交通大臣認定を取得し、ナンバープレートの交付を受けて公道走行試験を行っているもので、有害物質を殆ど排出せず、さらに非常に低騒音で運行されます。燃料電池自動車も含めて、大幅に道路事情を変えると思われますが、現状では水素ステーションで燃料を補給しないといけないため、インフラ面の整備も課題となります。しかしまあ、これだけ原油高の状況が続くと、いよいよ燃料電池に対する期待もかなり高まっていくと思われますので、普及開始となり製造コストが下がる日も、そう遠くない将来なのではないでしょうか。
4.ゴンドラ(モリゾーゴンドラ/キッコロゴンドラ)
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次に、瀬戸会場から長久手会場へ向かうモリゾーゴンドラ、および長久手会場内を南北に運行されるキッコロゴンドラに乗車。
ゴンドラ自体は山を中心にロープウェーと共に普及していますが、モリゾーゴンドラの特徴は、住宅地を走行する際のプライバシー対策として、住宅密集地域のみ窓ガラスが曇り、外が見えなくなります。大変画期的な技術で、同種の例は神戸の六甲ライナーで採用されているだけと記憶していますが、高地を走り、しかも路盤とはまったく接せず、かなり揺れるゴンドラの窓ガラスがくもることは、外がどうなっているのかが全く解らず、非常に恐怖心を覚えました。おまけに私が乗車したゴンドラのみ、全線に渡って窓ガラスがくもったままだったことには、大変困惑しました。
キッコロゴンドラのほうは、そういうシステムは無いため、純粋に空から会場の様子を楽しむことが可能です。
写真は、上がキッコロゴンドラ、下がモリゾーゴンドラ。
次は、長久手会場内を走行するグローバルトラム。
一見すると、子供向けの遊園地アトラクションのようですが、環境への負担を軽減するためにバッテリー駆動を採用しているほか、車椅子利用者でも乗車できるのが特徴です。また、ご覧のように人が多くいる場所でも簡単に走行させることが出来るため、バスを走らせづらい場所での活躍が期待できます。・・・と、推薦したものの、このままだとやはり、ただの遊園地のアトラクションですね。ちょっと全体的な造りも寂しいものがありますし、夏場の利用は暑いですし、改良点は色々ありそうです。
最後に、トヨタ自動車が開発したIMTSを見学しました。これは、ITS(Intelligent Transport Systems)技術を用いて、専用道路は無人で自動運転、およびこの会場では3両が等間隔で並んで隊列走行し(連結運転が不要)、一般道は通常のバス同様にマニュアルで単独走行を行う。新交通システムです。また、動力はCNG(圧縮天然ガス)のため地球環境および人間の住環境にも配慮されています。
バスの機動力と、鉄道の輸送力を折衷した輸送力を持つこの新交通システムは、必要と判断した区間のみ専用道を建設すればいいのが魅力的であり、これからの採用に期待が持て、渋滞の緩和に一役買う日が待ち遠しいですが・・・。本来であれば、愛・地球博閉幕後に豊田市が引き取って運行を開始する予定だったそうな。ところが、なんとこの車両。万博で「鉄道」として認可を受けており、そのまま「バス」として公道を走らせるのは難しいのだとか。
・・・なんで、鉄道として認可されちゃったの?
というのも、どうやら今回使用されているIMTSは、基本的に公道を走るようには設計されていないので鉄道扱いにしてもらったのだとか。すなわち、ウインカーやバックミラー、サイドミラーなどはなく、道路運送車両法が定める保安基準を満たしていない上、排ガス規制も現行基準は満たしているが、近く実施される新基準を満たすことは困難なのですって。(中日新聞9月15日)もちろん、これから新しく車両を作る際には、色々と改良点を盛り込むことも可能でしょうが、また新しく車両を作って・・・の導入には豊田市も二の足を踏むでしょうね。さて、どうなることやら。
以上、そんな愛・地球博の乗り物たち。
閉幕後の先行きが結構不安だったりしますが、今後、これらがどのように改善されて発展するのか、それともそのまま消えていくのか(笑)、注目です。