第142回 これがフランスの政治システムだ!
担当:
裏辺金好
人気の各国政治システムシリーズ。しばらくお休みしていましたが、ついにフランス編に突入です。
このフランスという国も、大統領制を採用はしていますが、アメリカともドイツともまた違った方式でして、一言に大統領制といっても様々なタイプがあるということを実感させてくれます。
そのフランスの中でも、政治システムは色々と変貌してきました。
たとえば戦前の第三共和制以降、議会の権限が強く、数多くの様々な政党による政権交代劇が繰り返され、政局は不安定な状況でした。第2次世界大戦終結後に誕生した第4共和制もこれが元で崩壊。なんと11年間で21の内閣が交替したのです。
そこで、下院に信任されたシャルル・ド・ゴールは、大統領の権限を大幅強化し、議会の権限を縮小する第五共和国憲法を1958年に制定(初代大統領には彼が就任)。以後、この第五共和制が基本的な枠組みとなっています。
ちなみに、大統領制と議院内閣制を折衷したような内容で、半大統領制と呼ばれています。
フランス共和国大統領は、任期5年(2000年9月の国民投票による。現在のシラク大統領までは任期7年)、再選についての規定は無し。
直接普通選挙で選ばれ、第1回目の投票で有効投票の過半数を獲得したものがいなければ、上位2名による第2回投票が行われ、より多く得票した者が当選となります。ちなみに、1962年に憲法を改正するまではアメリカのように選挙人団を通じた間接選挙で選ばれていました。
また、首相の任免、首相を通じて閣僚の任免、下院の解散、法律案や条約批准の承認を国民投票にかける、非常大権、議会が可決した法律案を再議するように要求する、などの権能があります。そして、反逆罪以外で責任を追求されることが無いのも特色です。
なお、大統領が辞職したり、死亡した場合は、上院議長が職務を代行します。
首相は大統領によって任命され、閣僚候補を大統領に推薦して任命してもらいます。
また、下院が不信任決議案を可決した場合は内閣総辞職を大統領に申し出ないといけません。そこで大統領は、究極の2択を迫られます。
「現内閣を支持し、下院を解散する」
「下院が支持するであろう新たな内閣を任命する」
ちなみに、日本と異なり大臣は兼職禁止。国会議員であっても、その職を辞さなければなりません。
給料の二重取りはあきまへんで!!(なんのこっちゃ)
下院(国民議会)と上院(元老院)の2つから構成され、下院のほうが権限は強くなっています。
下院:定数577名、任期5年、解散あり、国民による直接選挙で選出
上院:定数321名、任期9年、3年ごとに3分の1ずつ改選、地方議会議員などによる選挙人団によって選出
下院選挙は、フランス国籍を有する18歳以上の男女が選挙権を持ちます。そして、1つの選挙区から1人が当選。
また、第1回目の投票で有効投票の過半数かつ登録有権者の4分の1以上を獲得したものがいなければ、第2回目の投票へ(資格があるのは登録有権者数の12.5%以上を得票した候補者のみ)。そして、トップの人が当選します。被選挙資格は満23歳以上です。
刑事裁判所、民事裁判所の2つの裁判所があります。
また、違憲立法審査権をもつ憲法評議会(憲法院)が設置されています。その評議会委員は2タイプありまして
A 大統領が任命する3人・・・任期9年、再任禁止
B 上院議長、下院議長がそれぞれ任命する3人×2=6人・・・終身
違憲だ!と審議できるのは、法案が提出されてから大統領が署名するまで。
さらに提訴することが出来るのは、大統領、首相、両院議長、下院議員60名、上院議員60名のみです。
アメリカやドイツと異なり、フランスは中央の権限が非常に強いのが特徴(1982年以降、直接監督することはなくなりましたが)。
まず大きな行政区画としては、州(地域圏/レジオン)というのがあります。フランス本国では複数の県によって構成されており、海外のフランス領では領土ごとに、それぞれがひとつの州となっています(本国に22、海外に4つの州)。そして、州には州知事と、州議会が存在しています。
続いて、県(デパルトマン)ですが、これも非常に興味深いシステム。
国家の地方出先機関を統括し、首相と閣僚を代表して任命される知事と、地域が選出する県議会と議長が治める自治組織がドッキングするという、われわれから見ると、ちょっと複雑な構成になっています。ちなみに、フランス革命に伴い設置されたもの。また、県議会議員の任期は6年です。
知事についてもう少し詳しく見ますと。
彼らは国家公務員で、基本的に国立行政学院(ENA)を卒業したエリート。まずは副知事として色々な知事に仕え、様々な役職を経験。その上で、知事へと任命されるのです。ちなみに、州の首都になっている県知事に任命された知事は、そのまま州知事になります。もっとも、他県の知事の上に立つわけではないので要注意。
かつては県知事の権力が非常に大きかったのですが、現在では県議会議長に執行権があります。ああ、ますますややこしい。
一方、郡(アロンディスマン)は地方自治体ではありませんが、各県に4〜5程度存在し、県副知事が監督します。
しかし日本のように名目的な存在かといえばそうではなく、市町村長、市民の窓口としての機能を有しています。
さらに小郡(カントン)というのもあります。これも地方自治体ではなく、複数の市町村にまたがる選挙区のこと。
小郡ごとに1名の県議会議員を選出します。
最後に市町村(コミューン)。これはそのまんま・・・と言いたいところですが、平成の大合併で2000を切ることになる日本と異なり、その数はなんと約3万6000!! おまけに、このうち3万2000の市町村は人口2000人以下、さらに約4000は、人口100人以下!!・・・とこれまた驚きです。もちろん、議員も存在し、任期は6年です。恐るべし・・・。なお、市町村長は議員の中から選ばれます。
余談ですが、地域圏は高校の、県は中学校の、市町村は小学校の運営を行っています。
以上でフランスの政治システムの解説を終わりますが、地方自治の部分なんか結構興味深いですね。日本では道州制の議論が進む一方で、基本的には単純に既存の自治体が合併を繰り返し、いつの間にか県の半分の面積・・・に近いような自治体も登場する始末。改めて地方自治体のあり方を考える上で、フランスの方式も1つの参考になるかもしれません。
最後にオマケとして。
フランスにおける迎賓館的な役割を持つのが、パリにあるエリゼ宮です。フランス大統領官邸で、元々は18世紀前半に建てられたエヴェール伯爵の宮殿でした。その後、ルイ15世の愛妾であったポンパドゥール夫人や、ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌも住まいにしていたこともあり、1873年より官邸として使用されています。
なお、ここで出されるワインとフランス料理には結構、政治的なメッセージもこめられているようで、招かれた各国首脳は、ただ美味い、美味いと喜んで帰るのはアウト。さてさて、我らが日本国首相は、歴代、どのような料理を出されてきたのでしょうか。
参考
LEC東京リーガルマインド 政治学
フランス大使館ホームページ 内 http://www.ambafrance-jp.org/IMG/pdf/territoire.pdf
CLAIR(財)自治体国際化協会 内 http://www.clair.or.jp/j/forum/series/html/france/06.html