ユニバーサルデザインって何だ?

担当:裏辺金好


1.はじめに

 バリアフリー、という言葉は今や敢えて日本語訳しない方がイメージしやすい言葉としてすっかり定着しましたが、ここのところ似たような意味合いで使われるようになってきたのが、ユニバーサルデザイン。ユニバーサルデザインに基づいて誰もが使いやすいよう配慮した・・・、という感じで見かけるようになっています。

 はて、ユニバーサルデザインとは何ぞや? バリアフリーとは違うのかいな?
 というわけで、今回のお話です。

2.そもそもバリアフリーとは?

 まどろっこしくて申し訳無いですが、似たような場面で使われるバリアフリーの意味について、改めて確認しておきましょう。まず、バリアというのは日本語で障壁という意味。フリーというのは、この場合は自由・・・というより、自由になるために余計なものを取り除く、といった感じ。

 というわけで、バリアフリーの概念とは高齢者や障害をもつ人が、普通の生活を送る上で支障となるものを除去する、といった感じです。元々はアメリカで生まれた概念で、1974年に国連障害者生活環境専門家会議が「バリアフリーデザイン」という報告書を出した頃から、この用語が主に建築業界で使われるようになり、例えば足腰が弱った高齢者や、車椅子で生活を送る障害のある方を対象として、建物の中に存在する段差を可能な限り無くしていったり、エスカレーターを設置したり、ドアの間口を広く取ったり・・・と、様々な努力がされていますね。

 かつては、健常者の視点で都市がデザインされ、また製品が開発されてきました。
 ところが高齢化社会の本格的な到来を控え、また障害者に対する理解の深まりと共に、これでは多くの人が生活しにくい社会になってしまう、ということがようやく認識されてきたわけですね。

 そこで特に、2000年に施行された交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)によって、鉄道の駅では次々とエスカレーターが設置されているのは、周知の事実だと思います。*2006年には「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」へと発展、施行。後述するユニバーサルデザインにも繋がっていく法律です。

 最近では心のバリアフリー、といって施設面(ハード)の問題解消だけでなく、そもそも高齢化や障害があることに対する心の意識(ソフト)を高めよう、ということも言われています。せっかく安全で使いやすい歩道を造ったとしても、その上へ自転車を放置したり、店の看板を設置して、車椅子の人が通れないようでは駄目ですね。

 以上、まずはバリアフリーについて簡単に御紹介しました。

3.ユニバーサルデザイン

 さて、そこでユニバーサルデザイン。
 ユニバーサルとは日本語で普遍的な、全体の、という意味で、ユニバーサルデザインとは高齢者や障害者のみならず、性別や年齢、国籍などを問わず、全ての人が使いやすい形状、ということです。対象範囲がバリアフリーよりも広いことから、ユニバーサルデザインとは、バリアフリーの考え方を、さらに発展させたものといえます。

 この概念は、やはりアメリカ発祥のもので、1980年代にノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス氏によって明確にされています。すなわち、
 ユニバーサルデザインの7つの原則
  1 誰でも使えて手にいれることが出来る(公平性)
  2 柔軟に使用できる(自由度)
  3 使い方が簡単にわかる(単純性)
  4 使う人に必要な情報が簡単に伝わる(わかりやすさ)
  5 間違えても重大な結果にならない(安全性)
  6 少ない力で効率的に、楽に使える(省体力)
  7 使うときに適当な広さがある(スペースの確保)
 といったもの。

 バリアフリーがどうしても何らかの障害を持っている、というのが前提になりがちなのに対し、ユニバーサルデザインは、あらゆる人を対象にしています。例えば、普段全く飛行機に乗らない人が空港へ行ったとします。たしかに、エスカレーターやエレベーターは整備され、目立った段差も無く、ドアの間口が広くて車椅子の通行も簡単そう。

 ・・・ところが、飛行機に乗るにはどのカウンターに行けば良いのか案内標識等が少なく、あっても不親切で解らない、日本語の案内放送はあるけど英語や中国語の放送が無い、トイレに行けば洗面台が高齢者や障害者向けに低く設計されていて、健常者には逆に使いにくい・・・これでは、せっかく特定の障壁(バリア)を解消しても・・・ですね。


 そこで重要になる概念が、ユニバーサルデザインです。
 健常者なら使えるもの・・・だからといって、それは使えるというだけのことであって、「使いやすい」というわけにはならない。そこで、全ての人に配慮したデザインとは何か? ということを念頭に考えることです。

 では、実際にどういうユニバーサルデザインの例があるのでしょうか。
 例えば、最近駅やデパートなどに登場している多機能トイレ。必ずしも高齢者や障害者の方のみを考えて設計されたわけではなく、例えば怪我をした人や、子供や、赤ちゃん連れの人でも使いやすいように配慮されているなど、様々な人に便利になっていますし、そもそも入り口に「どなたでもご利用ください」と書いていることが多く、誰でも気軽に使えるよう配慮されています。

 また、大都市圏を中心にかなり配備が進んできたノンステップバス。バスに乗る際に、車内に階段(段差)があるというのは、高齢者ならずとも実に厄介なものですが、歩道から殆ど段差が無く乗れるというのは、みんな大満足。まさに誰でも使いやすい、ユニバーサルなデザインです。

 バスについて逆の例で言えば、都市部であってもバス停の標識が古ぼけていて見づらく、時には折れ曲がっているような悲惨なものもあります。当然、バス停に屋根なんかあるわけも無く、スペースも狭く、歩行者や自転車が来るたびに車道に避けないといけない、時刻表も剥がれかけているわ、どんな行先のバスが来るのかも解りにくい・・・こんなのは誰でも使いにくい、実に論外な話です。

 それから繰り返しのような話にもなりますが、建物や鉄道車両などの施設内で様々な情報を配信するとき、音声や文字を両方流すなど1つだけではなく、様々な手段を同時に使って配信する、また英語や中国語などでも配信、もしくは絵を使った案内を掲示するなど、目の見えない人、耳の聞こえない人、単純に聞き逃してしまった人、外国から来た人、色々な人が使いやすい・・・こういった様々な選択肢を提供するシステムを構築することもユニバーサルデザインですね。

 こうした結果、今まで使えなかった人が使える今まで使えた人はさらに使いやすくなる、わけです。
 公共交通機関の場合、こうした考え方に基づいて大成功を収めたのが、JR富山港線を先進的な路面電車(LRT)として再生した富山ライトレール。これは実にわかりやすい事例ですね。
 参考:富山港線「ポートラム」のデザイン力 http://www.universal-design.co.jp/aboutus/sample/67.html
 (UDCユニバーサルデザイン・コンソーシアム ホームページ)
 富山ライトレールのホーム案内。
 駅名票、時刻表、運賃、路線図に加えて周辺案内のマップもコンパクトに整備。文字の大きさや色使いなども研究され、デザインにも統一感があります。さて、お近くのバス停と比べて如何でしょうか?

 ただし、当然のことながら「こうすれば100%ユニバーサルデザインだ!」という絶対的な基準はありませんから、ユニバーサルデザインをうたった「まちづくり」を行ったり、製品を開発するためには、とにかく様々な人のテストを経て、また実際に使用が開始された後に寄せられた声を反映していく必要があります。

 また、各業界で統一できるものは統一していく必要があります。
 特に例えば、外国から来た人でもわかりやすいように「地下鉄入り口」というマークをデザインしたとします。ところが、東京メトロと都営地下鉄でマークが違っていたらどうでしょう。まあ、デザイン次第では「両方とも地下鉄だな」と気がつくことになるでしょうけど、戸惑う人が出るのは間違いありません。

 またこれからは、ごく基本的なものについては世界的に統一していくことも重要なことかもしれませんね。
 あんまり枠にはめすぎちゃうと、さらに使いやすくする研究や工夫の余地がなくなってしまいますので、難しいところではありますが。

 ちなみにうちのホームページの場合、ユニバーサルデザインとまでは口が裂けてもいえませんが、ページのデザインは、これだけコンテンツがあるにもかかわらず、2〜3種に統一しています(昔書いた原稿などで、いい加減なデザインなのも残存していますけど)。また、重要な単語は赤文字、重要な人名もしくはリンクは青文字、としてます。

4.ユニバーサルデザイン政策

 バリアフリーについては、特に交通分野について前述した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が施行されていますが、ユニバーサルデザインについては国土交通省がユニバーサルデザイン政策大綱を平成17年に策定しています。というわけで法律があるわけでは無いですが、国レベルでは基本方針が示されています。
 国土交通省ホームページ:ユニバーサルデザイン政策大綱(PDFファイル) 

 自治体レベルでは熊本県のように運用マニュアル的なものを定めているとこがある一方、さらに一歩踏み込んで三重県や徳島県、世田谷区など一部では条例として正式に定めているところも少数あります。条例の場合、例えば建築の際に届出が必要となるなど、民間にもユニバーサルデザインに基づいた施設整備が義務付けられます。

 例えば世田谷区の場合は、
 <対象施設>
 不特定多数の人々が利用する公共的な施設(店舗、飲食店、病院、鉄道の駅、道路、公園、路外駐車場等)および共同住宅など。

 <届出>
 一定規模以上のこれらの施設の建設を予定している方は、事前相談のうえ、「ユニバーサルデザイン条例」の届出が必要です。さらに一定用途規模の建築物においては「バリアフリー建築条例」により、建築確認申請で審査をする対象建築物のチェックが必要となります。


 としており、共同住宅、すなわちマンションを建設する際にも条例が適用されるのが特徴です。一方で規制を加えるだけではなく、世田谷区や三重県などでは条例に基づいた施設について、適合証を交付することによって「お墨付き」が出るようになっています。

 条例に違反した企業などには調査の上で、「改善しなさい!」と勧告したり、最悪の場合は公表することになります。ということで、多くの人が使いやすい「まちづくり」が実現するためには、民間の自助努力のみならず、こうして国や自治体も積極的に取り組む必要があります。

 ただし、条例を作ったからといって違反者を調査する体制が役所内にあるのか、某ホテルのように検査をクリアしたあとで、好きなように作り変えてしまうのを把握できるのか、そもそも自治体としてユニバーサルデザインというのは、どういうのを想定しているのか? など考えないといけないことは色々あります。何となくのブームに乗って、ハコモノならぬ、条例ありきで先に進んで、現場大混乱状態では話になりませんので、よくよく考えて政策を推進する必要があるでしょう。

 *ちなみに条例というのは、例えば世田谷区の条例だったら世田谷区だけで適用される法律みたいなもので、議会で定められます。内容的に何でも作れるわけではなくて、国が作る法律に反するものは不可能です(例えば藤沢市では泥棒OK!みたいなのはNG)。法律の内容をよく読んで、どこまで自治体が法律の内容に基づいて、さらに独自に規制をかけるなど、その地域の実態にあわせた規定を具体化できるか、良く考えて作る必要があります。

 一方、法律が無い分野については先駆的に定めることが可能で、今回のユニバーサルデザインの場合は、自治体がそれぞれ色々考えて、独自に条例を作ることが可能です。

 参考:自治体法務研究 2007年秋号(ぎょうせい)
    国土交通省「ユニバーサルデザイン政策大綱」についてhttp://www.mlit.go.jp/kisha/kisha05/01/010711_.html
    三重県ホームページ:三重県 ユニバーサルデザインのまちづくり http://www.pref.mie.jp/ud/hp/
    熊本県ホームページ:ユニバーサルデザインネットくまもと http://www.pref.kumamoto.jp/ud/
    世田谷区 ユニバーサルデザイン推進条例   http://www.city.setagaya.tokyo.jp/030/d00004931.html
    UDCユニバーサルデザイン・コンソーシアム  http://www.universal-design.co.jp/
     
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