NPOって、何だろう?
担当:裏辺金好
NPOという言葉が、NGOという似たような言葉と共に最近、新聞やテレビで登場するようになりました。
NPOとは、(Nonprofit Organization又はNot for Profit Organization)の略で、日本語に直すと非営利組織となります。 ただし、非営利活動とすると、日本においては「政府・行政が行うもの」と捉えらえられることが多いため、民間非営利組織と呼ばれます。
民間組織が、社会・公共のために活動を行う・・・。これは、従来の日本になかった発想です。
官僚組織の肥大化、つまり「責任のなすりつけ」「責任をとらない」「前例こそ絶対」という悪弊が広がる中、
身動きできなくなった政府の事業に、民間の力を取り入れる・・・。80年代、アメリカのレーガン政権、イギリスのサッチャー政権、そして日本の中曽根政権が、その方針を打ち出しました。小さな政府、民活導入という言葉をご存じの方も多いと思います。
しかし、アメリカ・イギリス、と日本のとった道は別でした。アメリカ・イギリスが一般の人達が立ち上げた公共性を追求し、営利を求めない民間非営利組織と手を組んだのに対し、日本にはそういった発想と組織がなかったこともあり、民活導入とは、すなわち民営化。企業に任せることだ、となります。そして、地域開発を企業に任せた結果、バブル期の大規模リゾート開発など、無秩序、無計画な開発が行われてしまいました。
いや、日本にも市民団体というのがあるじゃないか、なぜこれと対話しなかったんだ、という意見もでますね。しかし、これは左翼政党の傀儡であったり、また上下関係の厳しいピラミッド型組織であり、「市民」の団体とは言えないものが大半でした。特に、最大の問題は「反対一本」であることです。何でも反対すれば、文化的である、と勘違いしています。
またしかし、日本でNPO研究が為されていなかったわけではありません。当時、アメリカで始まっていたネットワーキング(NPOの原型)に注目した人達がいました。このネットワーキングとは、大国としてのアメリカばかり研究される同国内において、スラムやギャングなどの国内問題を解決しようと立ち上がった人達の組織です。これについて、研究してみようじゃないか、という人達が一部の官僚や知識人の中に出てきました。
また、そんな動きとは別に、一般市民レベルでも、ただ行政に従ったり、またむやみに反対するのではなく、「地域のことは、地域で考えるべきでは?」という考えを持つグループも出てきます。そして、その地域に住む様々な職種の人々により、街のデザインを考えよう、という動きになります。「反対」から「提言」へ。市民運動の大きな転換です。
そんな中95年、阪神大震災が起こり、日本各地から集まったボランティア団体の動きに注目が集まり、これをきっかけにNPOというものがあるじゃないか、という認識が広まっていきます。こうして、日本で本格的にNPOというものが設立されるようになりました。
加えて、98年に成立した特定非営利活動促進法(通称:NPO法)により、NPOが活動しやすくなります。そして、これを境にNPOは各地で急増しています。このNPO法については、またあとで見ます。
さて、NPOの定義ですが、孫引きになりますが、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の非営利セクター国際比較研究プロジェクトが、世界のNPOの調査に使用した分類を、NPOリンクhttp://www.bekkoame.ne.jp/~kaihou/から引用させて頂きます。
1 正式の組織であること(formal organization)
「正式」とは、法的に法人として認証されているとかではなく、実質的に規約や定款などを定めており、組織としての意志決定のシステムが明文化されていることをさします。ですから、規約等がない組織についてはNPOとはいえません。
2 民間であること(Nongovernmental)
政府や行政、その外郭団体等はNPOには含まれません。この考え方を明確にあらわしているのが、NPOを日本語で民間非営利組織と訳していることです。
3 利益分配をしないこと(nonprofit-distributing)
NPOの定義の中で一番大切なことです。NPOはボランティア活動だけを行うわけではなく、収益事業も行います。その時に得た利益については、出資者等に分配するのではなく、次の活動資金として行くことです。
4 自己統治的であること(self-governing)
これは組織としての必要条件を表しています。組織として活動するためには、自己統治能力を持たなければなりません、そのため、理事会等の意志決定機関があることが必要です。
5 自発的であること(Voluntary)
NPOの活動においては、強制されて参加するのではなく自発的な参加が大切です。
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NPOと聞くと、ああ、ボランティア団体のこと?という想像をなさる方も多いと思いますが、「ボランティアの精神を持った、利潤を求めない会社」といったところです。利潤を求めないわけですから、構成員に払う必要最低限の給与など、こういったものに必要な資金は稼ぐのは構いません。
ただし、それ以上に得た利潤は、社会的・公共的理想・目的のために再投資していくことが求められます。
また、ほとんど会社と同じように、役員など組織を明確・決まりに構成する必要があります。ここが、ボランティア団体との違いです。もちろん、NPOという名の下に、ほとんど企業と同じ活動をしているところもあるとかかないとか・・・。
また、前述したNPO法には、以下の通りにあります。
別表(第二条関係)
一 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
二 社会教育の推進を図る活動
三 まちづくりの推進を図る活動
四 文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
五 環境の保全を図る活動
六 災害救援活動
七 地域安全活動
八 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
九 国際協力の活動
十 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
十一 子どもの健全育成を図る活動
十二 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
すごく解りやすいですね。
NPOとNGOには、明確な線引きがなされていないのが現状です。ただ、大まかに分けるとNGOが「NonーGovernment Organization 非政府組織」として、世界を股にかけて活動するに対し、NPOは国内において地域の視点で活動することが多いようです。
これは98年に、民主党、共産党、旧・新進党、と市民グループの協力で成立した法案です。ちなみに、辞職した加藤紘一元・自民党議員も協力しています。ちなみにこの時、政府・与党は市民が自主的に地域作りに参加してくるのを恐れ、行政が市民団体を管理する形での法案を提出していました。
しかし、加藤紘一の粘りもあったのか、人々の熱意が政府・与党を動かしたのか、修正の末、野党案が成立しました。そして、なんといってもこの法案の最大の特色は、「官僚が政府を通して出した法案」ではなく、「市民と議員が一体となって作った法案」であることです。
で、この法律でNPOはどう変わったかと言いますと、NPO法の下で、NPO法人となった団体は、団体名で契約が出来るようになったことです。詳しくは法律紹介所の民法を読んで頂きたいのですが、通常、何か契約したり、裁判を起こしたりすることは、「人」であるか、「○○法人」でないといけません。NPOは会社でもなければ、宗教法人でもなければ、学校法人でもありません。そのため、この法律がないと、代表の名前で契約などをせねばならず、非常に活動が不便でした。
NPO法に定められた条件を満たした団体は、NPO法人として認められ、対外的な活動がしやすくなったのです。
残念ながら、政府の抵抗もあり、税制面での優遇がないなど不十分な内容の法律となりましたが、、NPO運動史にとっては、大きな成果と言えるでしょう。
詳しくは、次回、または前述したNPO法における分類を参照して頂きたいのですが、実に多種多様な活動をしています。
例えば、まちづくり。市に「こうやったら、もっと街が活性化できる」と提言をしたり、また市民から「演劇を鑑賞したい」の要望があれば、そのイベントを企画し、その道で有名な人を招待して公演してもらったり・・・。
それから、もちろんボランティア団体の発展系の活動として老人福祉の活動を行なったり、盲導犬を育てたり、農村と都市の交流を図ったり、国際交流ボイベンとを行ったり、はたまた鉄道模型愛好家の連帯を深めるなんていう団体もあります。特に、「まちづくり」に関するNPOは、経済や福祉など、人々が住みやすい環境をつくるため、実に多くの分野の研究・調査を行います。これが、NPOの面白いことろであります。
さらに、情報面、ノウハウでNPOを支援するNPOや、様々なNPOを結びつけて大きな活動に発展させるNPOなんてものも存在します。
ボランティア団体の場合、例えば介護の仕事を担当したとしても、「介護」そのものにやりがいを感じる場合が多く、それ専門であるところが多いです。しかし、NPOの場合、ただ「介護」を行えばいいのではありません。「介護」の中で見つかった様々な問題を、一般市民・行政に問題提起してこそ、その真価を発揮します。そうでなければ、ただ、財政難にあえぐ自治体が、福祉部門の予算を切りつめるために雇った、または委託したにすぎません。
「提言」「問題提起」−−それが、NPOの大きな役割です。
NPOWEBの記事から抜粋すると
経済産業研究所は、2001年9月から11月に事業報告書の入手が可能だったNPO法人の財務関係の閲覧書類について、1999年度分と2000年度分を収集して分析を行った。集計したのは、1999年度については1300団体、2000年度については2513団体である。
集計によれば、法人全体の事業規模は、1999年は総額で130億円であったのが、2000年度には361億円と3倍近くにまで増加している。
と、あります。NPOの事業が拡大されていることが伺えます。しかし、景気の低迷に伴い寄付が減少。NPOの活動も財政的な厳しさを増しているのが現状のようです。
よく勘違いされやすいのですが、こういった市民の動きが起こると、すぐに「これからは、政府・行政の時代は終わった。いわんや、企業など資本主義も終わり。これからは、NPO・NGOが社会を引っ張る」と、そう結論づける人が出てきます。しかし、それは間違いです。たしかに、NPOは新しい社会の形として大きく注目されるに値する存在ですが、しかし、だからといって独走すればよいものではありません。
大切なことは、政府、企業、それからNPOが密接な連携をとり、相互に影響しあって社会をよりよく変えていくことなのです。
参考文献
日本のNPO2000 編・中村陽一+日本NPOセンター(日本評論社)
市民社会とまちづくり 林泰義 編著(ぎょうせい)
NPOWEB http://www.npoweb.gr.jp/index.php3
NPOリンク http://www.bekkoame.ne.jp/~kaihou/