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 薬の相互作用に気を付けろ!

担当:氷川雨水
○はじめに

 薬というものは現代人にはもちろん、古代から無くてはならないものでした。そんな人間とは切っても切れない関係がある薬ですが、薬にはもう一つ切っても切れない関係があります。そう、副作用です。今回はそんな副作用の中から「相互作用」について解説してみようと思います。


1.相互作用って何だ?

 読んで字のごとく「相互(あいたが)作用する」という意味です。これが薬の場合、特に「薬物相互作用」と呼ばれたりします。
 薬(薬物)の相互作用は怖い、と書きましたが1種類の薬剤を適切な用法、用量に従って服用していれば、特に問題となる副作用は発生する可能性はほとんどありません。もし起こったら病院や薬局、製薬会社を訴えましょう。

 しかし、これが2種類以上の薬を併用するとなると話は別です。薬同士が体内で影響しあって、副作用が発生する可能性が格段に上がります。もちろん併用しても大丈夫な組み合わせや、併用することによってよりよい薬効を得られる場合もありますが、組み合わせが悪いと時には致死的になる場合もあります。また、薬同士だけでなく薬と食物で相互作用が生じることもあるので、これにも注意が必要です。


2.薬の相互作用はなぜ起こる?

 これはまず、薬がなぜ効くか、ということと薬の体の中における動き(体内動態)から考えてみましょう。

 薬を服用すると、一部の例外を除き、まず消化管から「吸収」されます。まず、吸収されないとどうしようもありません。消化管から吸収された薬は血流の乗って体内に「分布」します。これにより薬がその作用点に運ばれるわけです。作用点に運ばれない薬は働くことができません。作用点に運ばれ、薬効を発揮した薬はいつまでも体内に留まってくれては困ります。そのために生体は薬を「代謝」し「排泄」します。(注:代謝=この場合、薬の分子が酵素によって科学的な修飾を受けて、体外に排出されやすい形になること)

 以上、「吸収」、「分布」、「代謝」、「排泄」の4つの過程のそれぞれで、相互作用が起こり、薬の血中濃度が変化することがあります。この血中濃度が低すぎると薬の効果は現れず、高すぎると薬が効きすぎて副作用が現れる可能性が出てきます。これらを「薬物動態学的相互作用」と呼びます。また、これに対して「薬力学的相互作用」というものも存在します。これは、薬の血中濃度は変化せず、「生体の薬に対する感受性」が変化するというものなのですが、ちょっと難しいので割愛します。


3.吸収過程における相互作用

 吸収過程における相互作用はさらに、「複合体形成」、「消化管pHの影響」、「消化管運動の影響」の3つに分類されます。

A,複合体形成

 ニューキノロン系抗菌薬テトラサイクリン系抗菌薬(両方とも抗生物質の1種だと思ってください)と、金属イオンなど)は、お互いに結合して難吸収性複合体(複合体のことを「キレート」と呼ぶこともあります)を形成します。これによりお互いの薬効が減弱します。これらの薬を牛乳で飲むなんてもってのほかですね。牛乳はカルシウム(Ca)の宝庫ですから・・・。
 

B,消化管pHの影響

 多くの薬は電解質でもあります。つまり、イオンになるわけです。しかし、人間の消化管はイオン性物質を通しにくい性質があります。即ち、イオン型と分子型の割合が吸収率に大きく関わってくることになります。このイオン型と分子型の割合に影響を与えるのが消化管pHです。

 例えば消化管内がアルカリ性に傾き、pHが高い状態、すなわち(水素イオン)が少なく、(水酸化物イオン)が多い状態では、弱酸性薬(を放出する電解質である薬)はを提供しなくてはならずイオン型の割合が増えて、吸収効率が悪くなります。弱塩基性薬(を放出する電解質である薬)はその逆です。また、消化管内が酸性に傾き、pHが低くなると、弱酸性薬の吸収効率は上がり、弱塩基性薬のは下がります。

 消化管内pHに影響を与える薬は胃酸分泌抑制薬制酸薬など、一般に胃薬として用いられるものが代表的でこれらはpHを上昇させます。

C,消化管運動の影響

 ドパミン(ドーパミン)は消化管運動を抑制し、抗ドパミン薬(メトクロプラミドなど)は消化管運動を促進します。一般に消化管運動が促進されるほど薬の吸収も早くなり血中濃度も上昇するのですが、例外的に消化管の限られた部分でのみ吸収される薬もあり、これらは消化管運動を抑制することで吸収効率が上昇します。


4.分布過程における相互作用

 次の過程である分布は、血流の乗って行われます。血液中の薬分子の一部は「血漿(けっしょう)タンパク」というタンパク質に結合しています。場合によっては90パーセント以上が結合していることもあります。このタンパク質の分子は意外と大きく、これに結合したままでは血流から組織中に移行することができません。即ち、非結合型分子が組織に移行するわけです。

 しかし、同じタンパク質の同じ部位に結合する薬が、共に存在するとどうなるでしょう?結合部位をお互いに奪い合うことになります(競合、あるいは拮抗と言います)。よって、非結合型の割合は大きくなり、より大量の薬が組織中に移行することになります。

 具体例としてはワルファリン(血液凝固防止薬)と非ステロイド性抗炎症薬(フェニルブタゾンなど)を併用すると、ワルファリンが効き過ぎて出血が止まらなくなることがあります。


5.代謝過程における相互作用

 さらにその次の過程である、薬の代謝は主にチトクロムP450という酵素群によって行われます(肝臓に多く存在しています)。酵素群ということは単一の酵素ではなく、様々な薬に対応するたくさんの酵素の集まりであることを示しています。ここで、ある薬を代謝する酵素が阻害されるとどうなるでしょう? その薬は代謝されることができず体内に留まり血中濃度を上げることになります。

 それとは逆に酵素が誘導されることもあります。このときは代謝が早すぎて血中濃度が上昇せず十分な薬効を発揮することができなくなります。前者の例としてエリスロマイシン(抗生物質)がテオフィリン(気管支喘息治療薬)の代謝酵素を阻害することによって起こるテオフィリン中毒、グレープフルーツジュースによる薬代謝酵素阻害、後者の例として喫煙によってテオフィリンの代謝酵素が誘導されることによる作用減弱があげられます。

 また、同じ酵素によって代謝される薬同士は酵素を奪い合うことでお互いに代謝を阻害します(競合阻害、あるいは拮抗阻害と言います)。先に上げたエリスロマイシンとテオフィリンの例も実はこれに当てはまり、テオフィリンの代謝阻害はエリスロマイシンが酵素の活性部位をブロックしていることが原因です(エリスロマイシンもこの酵素で代謝されます)。


6、排泄過程における相互作用

 薬は主に腎臓を介して尿中に排泄されます。腎臓では血液を尿細管という器官(後に膀胱につながります)に濾過(=ろか)すると共に、体内に不要な物質を選択的に尿細管に分泌したり、一度尿細管に濾過した物質を再吸収したりしています。ちなみに1日に濾過され尿細管に入る液性物質(原尿といいます)は約120Lですが、水分は約99%が再吸収されるため実際に排泄される尿は約1.2Lです。

A,尿細管分泌

 尿細管分泌はタンパク質の担体(運び屋)によって行われます。ここでもやはり、担体の奪い合いによる競合阻害が発生し、排泄が遅れることがあります。具体例としてはプロベネシド(通風治療薬)によるペニシリン(抗生物質)の濃度維持が挙げられます。ただし、これは有害作用でなく、意識的にペニシリンの濃度を維持しているものです。

B,尿細管再吸収

 尿細管における再吸収は担体を介することなく受動的に行われます。しかしここでもやはりイオン性物質は生体膜を超えることができず再吸収されません(なぜ超えることができないかは長くなるので割愛します)。よってここでもpH(尿のpH)が影響します(どう影響するかは「消化管pH」の部分を参照してください)。尿のpHを酸性にする薬には塩化カルシウム、塩化アンモニウムなど、アルカリ性にする薬には炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウムなどが上げられます。


7、おわりに=薬相互作用を防ぐために

 まず、素人考えで薬を飲み合わせないで下さい。また、飲み薬だけでなく、塗り薬や点眼薬でも、相互作用が起こる場合があります

 次に、できればかかりつけ薬局を持ち、病院でもらった処方箋はそのかかりつけ薬局で調剤してもらってください。たくさんの病院や診療科を掛け持ちしていると、必然的に薬の量や種類も多くなり相互作用の可能性も上がります。しかし、それらの調剤を一つの薬局が請け負っていれば、そこで情報が統合されることになり、相互作用の危険性に気付いてくれるはずです。

 そして、服薬指導はしっかり聞いて守りましょう。服用方法が適切でないと効くものも効きません。

 皆様が薬を適切に使用され、健康な生活を営まれることをお祈りいたします。


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