今回は、男性名詞と中性名詞の格変化を取り上げます。これで単数形の格変化は終わりです。複数形はまだ扱っていませんし、男性名詞にはここで取り上げない特殊な変化をするものもありますから、まだ格変化終わりというわけではないのですが、それでもこれで現在形の文はかなり読み書きできるようになるはずです。
また、後半では不規則動詞の現在変化も取り上げます。完全に不規則な変化をする動詞は現在形ではそれほど多くありませんが、不規則な変化をするものは重要な語が多いのが常です。あまり使われない語だと不規則変化だと覚えてもらえず、いつの間にか似通った規則変化に組み入れられてしまいますから。
そういうわけで今回は重要事項てんこ盛り。前半の山場といっても過言ではありません。気合いを入れていきましょう。
(6)では女性名詞の格変化(というか、女性名詞に付くときの冠詞の格変化)を見ました。今回はまず男性名詞です。
男性名詞Vater「父親」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
定冠詞der | der Vater デア ファーター | des Vaters デス ファータース | dem Vater デム ファーター | den Vater デン ファーター |
不定冠詞ein | ein Vater アイン ファーター | eines Vaters アイネス ファータース | einem Vater アイネム ファーター | einen Vater アイネン ファーター |
冠詞なし | Vater ファーター | Vaters ファータース | Vater ファーター | Vater ファーター |
2格-es、3格-em、4格-en、という語尾が特徴的。デア・デス・デム・デンと覚えましょう。1格は、定冠詞derは語尾-erを持っていますが、不定冠詞einは語尾を持ちません。また、2格の時に名詞自身に-sという語尾が加わることに注意。この語尾は冠詞が全くない場合にも必要です。
男性名詞は冠詞の形が全て違いますから、冠詞の形で完全に格の区別が可能です。女性名詞の時のように何格なのかわからないということはありません。
ただし、定冠詞derが男性1格の時と女性2格・3格の時と同じ形をしていることには注意しましょう。derが付いているから1格だろうと思ったら実は女性名詞の2格や3格だった、なんてことも。名詞が出てきたらきちんと辞書を引いて性別を調べるようにしないと落とし穴にはまります。
*復習
1格(主格) 名詞は文の主語、あるいは主格補語となる。
2格(属格) 名詞は所有や所属を表し、他の名詞にかかる。
3格(与格) 名詞はその文によって利益や損害を受けるものを表す。
4格(対格) 名詞はその文の動詞の動作を受けるものを表す。
次に中性名詞です。男性名詞とよく似た変化をします。
中性名詞Jahr「歳」 | 1格 | 2格 | 3格 | 4格 |
定冠詞der | das Jahr ダス ヤール | des Jahrs デス ヤールス | dem Jahr デム ヤール | das Jahr ダス ヤール |
不定冠詞ein | ein Jahr アイン ヤール | eines Jahrs アイネス ヤールス | einem Jahr アイネム ヤール | ein Jahr アイン ヤール | 冠詞なし | Jahr ヤール | Jahrs ヤールス | Jahr ヤール | Jahr ヤール |
2格と3格は男性名詞と同じですが、1格と4格は男性名詞と違う形で、しかも1格と4格が同じ形になるという特徴があります。ダス・デス・デム・ダス、と覚えましょう。不定冠詞でも1格=4格で、einという語尾のない形になるのに注意。
ちなみに、ヨーロッパのほとんど全ての言語では、中性名詞は必ず1格と4格で同じ形になるという特徴があるので、覚えておくと便利です。
規則変化については(5)で既に触れましたので、ここでは不規則な変化を取り上げます。
まず、数の多い変化から。
動詞の中には、母音が2人称と3人称の単数形で変化するものがあります。
人称 | 単数 | 複数 |
1 | fahre ファーレ | fahren ファーレン |
2 | fährst フェールスト | fahrt ファールト |
3 | fährt フェールト | fahren ファーレン |
fahren「(乗り物に)乗る」はaがäになりました。この他、eがiになるものと、eがieになるものがあります。つまり、2人称・3人称単数で母音の変化する動詞は、a→ä型、e→i型、e→ie型の三種類があるのです。
・a→ä 型:
halten ハルテン「保つ」→er hält ヘルト
lassen ラッセン「させる」→er lässt レスト
laufen ラゥフェン「走る」→er läuft ロィフト など
aがäになった結果、au「アゥ」はäu「オィ」に変化することになるので注意しましょう。
・e→i 型:
sprechen シュプレッヒェン「話す」→er spricht シュプリヒト
essen エッセン「食べる」→er isst イスト など
eが短母音の時はiになることが多いですが、例外もあります。eが長いのにiが短くなるときは、綴りが多少不規則な形になることもあります。
geben ゲーベン「与える」→er gibt ギプト
nehmen ネーメン「取る」→er nimmt ニムト
treten トレーテン「踏む」→er tritt トリット など
・e→ie 型:
sehen ゼーエン「見る」→er sieht ズィート など
ieになるのは長母音のeだけです。
人称 | 単数 | 複数 |
1 | habe ハーベ | haben ハーベン |
2 | hast ハスト | habt ハプト |
3 | hat ハット | haben ハーベン |
wissen「知っている」は非常に変わった変化をします。特に一人称と三人称に変化語尾がないのが特徴的ですが、これはwissenが本来は「知る」という動詞の過去形だったためで、この特徴は過去形のものなのです。現在の意味で使うのに過去形の形を持っているこういった動詞を、過去現在動詞と言います。
人称 | 単数 | 複数 |
1 | weiß ヴァイス | wissen ヴィッセン |
2 | weißt ヴァイスト | wisst ヴィスト |
3 | weiß ヴァイス | wissen ヴィッセン |
この他に、不規則変化としてseinとwerdenがあります。seinの変化は(3)で取り上げました。werdenは未来形や受け身で主に用いる動詞ですので、後で扱うことにします。
今回は文法事項多めになりました。なので、次回は箸休め、そしてその後の複数形への橋渡しの意味も込めて、数詞のお話をすることにします。